第20話 前略、岩と仲間と

「こうだよ!こう!」


 再出発のなか、あたしはリッカの格闘術についての講義を受けていた……講義?


 リリアンのスパルタとも、孤高なる暗黒騎士とも違う。

 非常に感覚的な指導に新鮮味を感じつつ、ひたすらに型や構えを模倣する。

 これが意外に難しい……!


「おっと、セツナさん、呼吸が乱れてますよ」


 同時にラルム君からは、精神統一や戦いのなかで冷静になるための、呼吸法についても学ぶ。


 曰く、今のようなイレギュラーな状態で、呼吸を維持するのが習得への1番の近道らしい。


「道中も異なる師から指導を受け、己を高めるとは感服だ」


 後ろの方から孤高なる暗黒騎士。自分の為とはいえ褒められて悪い気はしない。

 みんななかなかに盛り上げ上手で、頑張ろうと思える。


「確かに、セツナさんの戦い方的には下手にスキルを習得するよりも、こういった地道な努力で、スキルにする方がいいかもしれませんね。」


 再出発の際に、スキルボードを確認したら、新しいスキル【隠密歩法】をスキルとして習得した旨が書かれていた。それと付属して脚力全般の強化も。


「さすれば、我も大剣の振るい方、いつか伝授しよう」


「みんなありがとう!まだまだ弱っちいけど、鍛えてくれた分は頑張るよ!」


「よ〜し、次の構えいってみよう!」


 ネオスティアに来てすぐはいろいろあったけど、周りの人もすごく温かい。

 いつかは帰るけど、教えてもらっとた事や優しくしてもらったことは、いつまでも心に刻みこもう。


 目的の岩の前まで来たあたしたちは、変わらぬ佇まいに、昨日の撤退を思い出す。


「しばし待て」


 孤高なる暗黒騎士は、岩の前まで行って立ち止まる。さて、どうやるやら。


「ねぇねぇ、ラルム。孤高なる暗黒騎士さんは、どうやって岩をどかすつもりかな?」


 リッカとラルム君の話し声、それはあたしも気になっていたところだ。


「確証はありませんが……おそらく魔術を使うのでしょう。消去法で、物理的にどかすのは難しいと思います」


 だよね〜、とリッカ。まぁそうだよね、あたし達は3人がかりでも無理だった。


 その時、大気を震わす轟音が鳴り響き、あたし達をも震わせた。


「な、なに!?なにごと!?」


「わかんないけど、あれ!」


「お待たせした」


 リッカの指差した方に、圧倒的な存在感。

 轟音の正体は孤高なる暗黒騎士だった。周囲を震わし、暗い色のオーラを纏い、愛用の獲物を天高く振りかざして


「いざ、『滅十字』」


 孤高なる暗黒騎士はオーラを纏い、横なぎ一閃、目にも止まらぬ速さで縦に一閃。


 黒い十字の斬撃は、あたしたちを拒んだ巨大な岩を、跡形もなく消し去っていた。


「「「す、すげぇーーー!!!」」」


 思わず叫ぶ、いつも言葉遣いを崩さないラルム君まで。


「岩は壊したが、どうやら敵襲だな」


 まぁ、そうだよね。素通りなんて、狩場を奪われた魔物たちがそれを許さない。


「めいどとの約束ゆえ我は手をださぬ。存分に力を振るえ」


 確かに、いつまでも頼っちゃいられない。装備変更、片手剣から大剣へ。


「せっかくだしさ、あたしの大剣ぶりを見ててよ」


「承知した」


 孤高なる暗黒騎士に指南を頼み、構え直して。


「そんじゃあいっちょいきますかー!」


「りょーかい!」「了解です」


 戦いのたびに深まる絆を感じつつ、それぞれの魔物に攻撃を仕掛けた。


 武器的にあたしは前衛、リッカの遊撃を受けつつ、多い手札で戦線の維持する、背後に恐怖はない。

 危なくなればラルム君の魔法があたしを助けてくれる。


 最初に逃げた時は数多く思えた魔物たちも、あたし達のチームワークの前にものの数分で片付いた。


「まだまだ拙い」


 孤高なる暗黒騎士からの評価。やっぱりそんな簡単には認めてもらえないか。


「だが武器をとって日が浅いのによくやる」


 そういえば、プリンを買いに行く際に、ネオスティアには、最近来た事も話したんだった。


「そのまま、仲間と共に剣を振るっていけ。その先に自分だけのなにかがあるだろう」


 あたしの戦いをみて、孤高なる暗黒騎士は技術ではなく心構えを、これからあたしの行く道を教えてくれた。


「ありがとうございました!」


 深く礼、これはいろいろ教えてくれた3人に。


「当然!仲間でしょ!」「僕にできることなら」「うむ」


 みんなありがとう。心の中でもう1度お礼。


「いつかあたしも『滅十字』できるかな?」


「無論である」


 仮にそれが、できるとしても遥か遠い未来のはずなのに。

 孤高なる暗黒騎士はそれを笑いもせず、ただ静かに、力強く肯定を返した。

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