第19話 前略、剣士と銃士と魔術師と孤高なる暗黒騎士と

「随分と早かったですね」


 酒場へと引き返してきたあたしたちは、とりあえず何かを飲んでいるリリアンに状況の説明をした。

 ミルク……?可愛いな!


 というか、リリアンならあの岩を壊せるんじゃない?

 思い立って聞いてみる。いつものあたしに対する、理不尽な仕打ちをそういうところにいかしてほしい。


「残念ながら、話しを聞く限り今の私では無理です」


 これがあるので、リリアンは両手を掲げる。リリアンができないとなると、う〜ん。


「やはり他の冒険者達に、依頼するしかないのでしょうか……」


 うつむくラルム君、ただ、諦められている学問だと言うなら。その遺跡に対する対応、つまり岩の撤去は当分先になるだろう。


 なにか手段はないか、あたしはない頭をフル回転させ方法を探す。

 当たり前の事だが、男だろうと女だろうと悲しむ顔は見たくない。

 様々なアイデアが考えては消え、考えては消え……


 ダメだ!わっかんない!少し諦めかけたあたしたちに背後から。


「ならば我がいこう」


 この声……低く重いけど、どこか思いやりを感じるこの声は……


 振り返ればそこに孤高なる暗黒騎士が立っていた音もなく。

 残念ながら、身体が大きいので扉の外から。


「孤高なる暗黒騎士!」


「「ぎゃあぁぁあああーー!!」」


 再会を喜ぶあたしとは対象的にリッカとラルム君は絶叫。

 あ、そういえばリッカに至っては、恐怖のあまり賞金稼ぎやめたんだっけ。


 かくかくしかじか、怯える2人にあたしは孤高なる暗黒騎士が子供思いの優しい人であること、一緒に買い物に行ったことなどを話し。理解を求める。


「そっか!いい人なんだね!」


 すぐに馴染み、近寄るリッカ。


「そ、そうですか……よろしく……お願いします……」


 まだ少し警戒ぎみのラルム君、ちょっとずつ仲良くなれればいいな。


「でもいいの?孤高なる暗黒騎士。子供たちが待ってるんじゃない?」


「まだなんの礼もしてない故な。安心しろ、ぷりんはくーる便で送ったからな」


「ありがとう、心強いよ!」


 クール便?もうツッコまない。


「孤高なる暗黒騎士さん」


 ミルクを飲み終えたリリアンが立ちふさがる、まさか戦うつもり!?

 あたしの予想は裏切られ、いつもの蛮行とはかけ離れた優雅な仕草で頭をさげて。


「私の弟子の引率、ありがとうございます。ですができる限り経験を積ませたいので最低限のフォローを努めてほしいのです」


「承知した」


 なるほど、楽をするなってことね。

 こういった、普通の対応をしているリリアンは可愛らしい。


「では僕はクエストの再設定をしておきますね」

 

 また明日集まりましょう。ラルムの声にて解散。


「ではミルクをもう一杯」


「あたしもなんか飲む〜〜」


 みんな散り散りに時間を潰す。あたしは……


「ねぇ、今時間があるならさ、歩き方教えてくれない?」


「承知した」


 いい機会なので、特訓をすることにした。


「ほっ、ほっ」


 しばらく足音を立てない歩き方の特訓をする。なるほど重心が大事なんだね。


「歩き方も戦闘の基礎、これを習得すればできることも増えよう」


 孤高なる暗黒騎士はその人柄に反さず、丁寧に教えてくれた。

 リリアンのスパルタになれた身体に優しさが染み渡る。


「あとはひたすらに反復練習するまでだ」


「うん、ありがとう。じゃあそろそろ今日は終わろうか」


 あと1歩で掴めそうだけど……なにかきっかけが、これができるようになれば速く走れそうだし、ジャンプ力とかも上がりそうだけど……


「う〜〜ん……」


 唸りながら歩く、なにかきっかけが……


「は〜〜い、『ラックベル』名物のケバブどうですか〜〜」


 なんで街の名物がケバブなのかはおいといて、この声……なんか聞いたことあるような……


「そこの9999ポイントのお姉さんどうですか〜〜」


 9999ポイント?美味しそうな匂いと、知ってる人の少ないはずの情報、それとどことなく胡散臭い声に振り返る。


「やっほ〜〜セツナン」


「このエセ天使が!」


 瞬間、剣を抜いて飛ぶ。あ、できた。


 いつもより静かで格段に高いジャンプ。その高さのまま!斬る!


「あぶなぁ!」


 白刃取り!?ちぃ!腐っても天使か!


「いきなりなにすんですか!」


「絶対に殺す、そう言ったはずだ」


 言われて出てきた方が悪い、あたしは精一杯、冷たく吐き捨てる。


「言われてませんけど!?」


 あ、リストに書いただけだった。


「見事な跳躍だ」


 後ろの孤高なる暗黒騎士。うん、お陰様でね。


「あ、孤高なる暗黒騎士さん、お疲れ様です」


 軽く会釈。礼儀正しい天使だった。


「セツナンも乙〜〜」


 手をひらひら、失礼な天使だった。


「てか前から思ってたけど、なんであたしにはそんなにテキトーなの?もっと大事に扱って?」


 物騒なハンマーで殴られたり、電話を2秒で切られたり、そもそも勘違いで消されたり。


「ほら、セツナンはマブじゃん?」


「えぇ……やだなぁ……」


 親指を立て、笑うエセ天使。

 唐突なマブ宣言に、あたしはこれ以上の関わりは不要と、今日の宿へ急ぐのだった。


「2つ貰おうか」


「毎度あり〜〜」


 奢ってもらったケバブは悔しいけど美味しかった。


 翌日の朝、酒場に再集結、そしてメンバー確認。


「えっと……剣士のあたしと」


「銃士のあたしと!」


「魔術師の僕と」


「孤高なる暗黒騎士である」


 成り行きで剣士を名乗ったけどこれでいいのだろうか。


「孤高なる暗黒騎士ってかっこいいな〜〜あたしも二つ名とかほしい!」


 はしゃぐリッカに、わかる、と同意。

 やはり異世界なら、二つ名で名を轟かせたい。

 ……孤高なる暗黒騎士って二つ名なの?


「あなたには立派な二つ名があるじゃないですか」


 突然のリリアン。んん?あたしに二つ名?


「悪魔の弟子と」


「絶対に嫌だ!!!」


 どうやらリリアンの中であたしは弟子に決まったらしい。

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