第8話 前略、涙と発明品と
「初めてみる魔物でしたね」
ノノちゃんの家に帰るなり、いつの間にか外に出ていたリリアンは、そんな感想をこぼした。
「意外だね、リリアンはいろんな魔物を知ってるもんだと思ってたよ」
あたしの反応に対して少しムッとしたように。
「知っていますよ。おおよそネオスティアの魔物に対しては。ですが……」
記憶を探るように目を閉じる、数秒で開く。
「あんな猿は見たことも聞いたこともありません。考えがたいことですが新種というものでしょう」
新種……魔物にもそういうのあるんだね。でもこの村の人達は初めて襲われたって感じじゃなかったね。
「お猿さんたちは、1ヶ月前くらいから突然の来るようにって畑を荒らすし、他にもいろいろな物も取ってちゃうし……」
おずおずと、ノノちゃんは辛そうに語りだす。女の子にこんな顔をさせるなんて許せないね。
「戦ったおねぇちゃんも目を覚まさないし……」
「お姉さんがいるの?」
「うん、とっても強くてとっても頭がいいんだよ!でも……」
お猿さんに負けちゃった……と再びうつむくノノちゃん。
なるほど、大好きなお姉さんが猿にやられてしまったから、あんなに怖がっていたのか……
なんとかしたいけど、強いお姉さんでも勝てない猿たちにあたしが勝てるのかな?
シリアスな雰囲気で考え込む。う〜む……
「おねぇちゃん、『猿の脳はとても珍味らしい!』って群れの中に1人で走っていって……」
「シリアス!」
え、ちょっとお姉さん!?それじゃあただのバカだよ!?お願いだからノノちゃんを悲しませないでほしい。
「新しく発明した『疾風のブーツまーくすりー』を使えば一瞬で仕留めてやるさ!ってお猿さんの群れの中に消えていったよ」
アホなんだね、と口にだそうとして留まる。
危ない危ない、話題を変えなきゃ。きっと尊敬しているお姉さんをアホ呼ばわりされては、ノノちゃんも気分よくないだろう。
「装備を作れるなんてノノちゃんのお姉さんはスゴイんだね」
シンプルに思ったことを口にする。それも道具スキルの一種だろうか?
「そうなんだよ!おねぇちゃんはスゴイんだ!あ、セツナお姉さんも履いてみる?」
ノノちゃんはゴソゴソと、後ろの棚からブーツをとりだす。見た目は今あたしが、履いてるのとあまり変わらないけど……?
でもそんな超スピードに耐えられるだろうか?興味はあるけど……少し考えてから。
「それじゃあ、ちょっとだけ」
好奇心の方が勝った、少し歩くだけなら大事にはならないよね?……ならないよね?
「私はやめておいた方がいいと思いますけど」
さっきまで静かだったリリアンからの忠告。
それでもお姉さんの発明品を見てほしそうなノノちゃんにはかなわない。基本的にあたしは子供に弱い。
「大丈夫だって、よいしょっと」
自前のブーツを脱ぎ。『疾風のブーツまーくすりー』を履く。
瞬間、小さく風が吹いたような気がした。
「おぉ〜いい感じ!」
なんだか早くなった気がする!外で走ってみたくなって玄関へ向かって1歩踏み出すと……
ギュン!と視界が動き、あたしの身体は玄関を突き破り向かいの畑にめり込んでいた。頭を突き刺す形で。
「セツナお姉さん!?セツナお姉さーーん!」
しばらくぶりの意識の消失にあたしは涙を禁じ得なかった。
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