第7話 前略、初めての村と猿たちと
「そういえば気になっていたんだけど……」
村に向かう中、ノノちゃんからの質問。何がききたいんだろうか?
「リリお姉さんはセツナお姉さんのメイドさんなんですか?」
なるほど、確かに普通メイドさんと一緒に行動してたらそう思うよね。
ここは子供の夢を壊さないよう、2人で口裏をあわせて……?
「違います」
キッパリだった。デスヨネー
「どちらかといえば私が主人ですね。こちらは荷物持ちです」
当たり前のように喋るリリアン、その扱いについていく足が重い。
「そうなんだぁ、良かったぁ〜」
「え?一体なにが良かったの?」
そんなにあたしってみすぼらしいかな?
さっきまででようやく名前で呼んでもらえるようになったと思ったんだけど、メイドがついていないことを良かったといわれるほどだろうか。
それとも荷物持ちが似合うとか?ちょっとへこむかも……
「だってメイドさんを鎖で縛って、連れ回す少女愛好家のお姉さんに助けてもらったなんて。一生もののトラウマだよぉ。あ、ノノだけに!」
「だから誤解だってば!いつまで続くのそれ!」
笑顔で答えるノノちゃん。
話してみるとノノちゃんはなかなか楽しい子だった。
……言葉がところどころ的確に、あたしの心をさしてくることに目を瞑れば。
「確かにこの枷は私の主人に着けてもらった物ですが、そこの変態と一緒にしてほしくはないですね」
「フォローとかないですかね……」
うなだれるあたし、重い足がさらに重く感じる。
「ありません。それと……」
「リリお姉さんと言う呼ばれ方は、あまり好ましくありません」
「あ……ごめんなさい……えっと……」
せっかくノノちゃんが距離を縮めてくれたのに、なんてことを、仕方ない。
ここはあたしもフランクに接してうやむやにしよう。
「まぁまぁ、リリちゃん、そんな硬いこと言わないでさ〜」
「おや、こんなところにいい石が」
「本当にごめんなさい。調子にのりました」
だからその石というより岩を元の場所に戻して下さい。カゴにはまだ半分も入ってないとはいえ重いです。
「ごめんなさい。リリアンお姉さん」
「いえ、わかっていただければ」
なんともいえない空気になってしまったが、そのまま少し歩いたところで。
「あ!みえたよ!」
ノノちゃんが指差した方に人の営みを感じる集まり、村が見えた。
ネオスティアに来てから初めて見る人の生活に胸を高まらせ足を早めた。
「ようこそ!風と作物の村、『コガラシ』へ!」
「風と作物の村、『コガラシ』…」
村の入口に着いたノノちゃんは振り返り、あたし達に村の名前を告げた。
あたしもそれを繰り返し、見渡す。
ところどころネオスティアでも元の世界と似た響きや、同じ言葉に出会うのは、あたしの前にネオスティアにやってきた人達が何かを成す際に、伝えたものだろうか?
その疑問を解消すべく、ノノちゃんに村の名前の由来を聞いてみる。
「名前の由来?えーっと、なんかむかーしに勇者さんがこの村に降ってきたんだって。その人にいろいろ教えてもらって、その人がいなくなってからも風の魔力が強い地域になったんだって!スゴイね勇者さん!」
やっぱりそうか。あたしより前にきた人の功績に、ただただ、すごいなぁ。と感想をこぼすことしかできない。
「なにを落ち込んでいるんですか。あなたの目的は帰ることでしょう」
いつの間にか隣に立っているリリアンが1言。
ん……一応、励ましてくれてる?
「それじゃあわたし、先に家に言ってるね!1番端の家だから、後で絶対に来てね!」
そう言ってノノちゃんは駆け出してしまった。元気だなぁ。
「女の子の護衛だなんて、少し主人公っぽいかな?」
少しだけ自慢げにリリアンに聞いてみる。初めての戦闘もいい感じだったし。
ネオスティアでも上手くやっていけるかも?
「おそらく護衛なんて必要なかったはずですよ。あの子の方があなたより強いですし」
「なんですと?」
思わず聞き返す、あたしより小さいあのノノちゃんが?武器なんて持ったこともなさそうなのに。
「武器と道具のスキルをいくつかの習得してますね。憶測ですが」
武器と……道具?
「道具の中には調合や作成も含まれます。武器こそ忘れていてもなにか魔物避けを持ち歩いていたんでしょう。」
なるほど、あの大きなリュックにはそういった物が入っていたのか。
「それに、道中いくつかの草を採取してましたし、薬か何かを作ろうとしていたんだと思います。見てなかったんですか?」
「いやぁ……」
見てましたよ、誰かが理不尽に石を放り込まないように。
「そっか、スゴイなノノちゃん。小さいのにそんなにポイントがあるなんて、努力したんだろうね。あたしなんて3ポイントしか残ってないのに……」
「この世界はもっと適当ですよ」
それでは講義の時間です、とリリアンは話し始める。
聞いた話を整理すると。なにも経験を積むことだけが成長ではないらしい。
例えば、本人の努力で才能が開花した場合、自動的にマスがうまることもある。薬を作っていたら【調合】が手に入るように。
スキルボードが進化したり変化したり、その人の心に大きな変化があったり、貴重な体験をしたり、まさに千差万別なタイミングでポイントの付与は行われるらしい。
なるほど、それじゃあやっぱり、冒険しつづけることが1番効率的かもね。
「そして、強い冒険者になる為に必須となるマスがあり、それは努力とは別にその人なりのきっかけが必要なのですが……」
あなたには関係ありませんね、と話しを終わらせてしまった。でも、いろいろ知れたし聞いて良かった。
「ノノさんをあまり待たせるのもよくないですね。そろそろ行きましょう」
確かに、入れ違っても面倒だし行くとしますか。
「ようこそいらっしゃーい、あ、おかえりなさいませ?」
スカートの端をつまみ頭をペコリ、メイドさんのマネかな?
ただいま、と言おうとした瞬間。
「猿がでたぞー!猿だー!」
外から大きな声が聞こえてきた。何事かな?ノノちゃんに聞こうと顔を向けると。
外からの声を聞いたノノちゃんはうずくまって震えだしてしまった。
「だ、大丈夫!?」
すぐさま駆け寄って、聞いてみる。あんまり大丈夫じゃなさそうだけど……
「ごめんなさい、大丈夫です……お猿さん怖くて……」
なるほど、よしわかった。
「じゃあちょっと待っててね。すぐに助けてあげる」
なんとかしよう。女の子の涙を止められるなら、多少の苦労くらい。
「でも……でも……」
「安心してよ、ちょっとは戦えるよ」
きっとあたしを心配してるんだろう。装備こそ貧弱だけど、意外に戦え……
「セツナお姉さん……弱い……」
「台無しだよ!」
なんてこと言うんだこんな時に!せっかく格好いいところを見せようとしたのに!
「行ってくるからね!」
相変わらず静かで無関心なリリアンにノノちゃんの事を頼んで駆け出す。待ってろよ猿め!
女の子を泣かした罪は重い。それは共通の認識だろう。
「ウキキキキキ!」
思ったよりも猿だった。手が異様に長いこと以外は、あたしの知ってる猿と同じみたい。
周りを見れば猿たちは畑を荒らし、作物を奪っていってる。人を襲うことはないみたいだけど、作物を守るため武器をとった人たちとは争っている。
「ウギ!」
1匹の猿が転んだ少女から野菜を奪おうとしている、あの子はきっと大事な野菜を守るために出てきたんだろう。
うん、間に合う!全力で駆ける、猿の長い手が少女に届く前に!
「ウキキ!」
間一髪、少女と猿の間に挟まりそれを防ぐ。そんじゃあいっちょいきますかー!
「て、あいたー!」
構える前に猿の手が横から飛んできた!?
のけぞりながらも前を見ると、あの長い腕がまるでゴムのように伸び、それを横なぎに振り回してきたらしい。ち、近づけない!
そのあとも何度か打ち合うも最後まで猿を倒すことはできず。
全員で帰ろうとする猿を追いかけるも。突如伸びた足をお腹にくらい悶絶してる中、猿たちは帰っていった。
ダサいなぁ……あたし……
なにもできないままの自分の不甲斐なさを抱えつつ、ひとまずリリアン達が待つ家へと歩いた。
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