第5話 前略、自己紹介とマジですか?と
「そういえば、あなたのことをなにも知りませんね」
広い草原を歩く傍ら、あたしの少し前を歩くメイド服の少女、リリアンはそんなことを言いながら振り返った。
「え……あ、今?」
2人で歩き始めて数日。鍛えると言う彼女の言葉に嘘はなく、どこから取り出したのか、大きなカゴを背負わされている。
そのカゴの中に彼女が石を気まぐれに放り込んでいくのだ。これは……なかなか鍛えられますね……
「はい、今思えば身なりも普通でまるで強くない。特殊な技能も何もない。なんなんですか?」
それに関しては何割かは彼女のせいなのだが……
言わぬが花と言うやつだろう。
「しばらくは一緒にいるし、自己紹介しないとね」
やはり相互理解はいい関係を生むだろう。
「名前は時浦刹那……まぁセツナでいいよ。16歳。身長は3年前から……そうだ、156cmで体重はプリン3個分。好きな食べ物もプリンだけど、この世界にはないよねぇ……それから趣味映画で特技は……」
「あなたの名前、年齢、身長体重、趣味嗜好や特技、その全てに興味はありません。どうして冒険者として、なぜそこまで無能なのかが聞きたいんです」
身振り手振りとユーモアを交えた、あたしの自己紹介はバッサリと切り捨てられた。その苛立った顔が怖い……
どうやらまだまだ仲良くはなれないらしい。
これ以上怒らせてもアレなので、元の世界で消されてからのことを掻い摘んで話してみる。
「9999ポイントをスキル1つに使うなんて、あなた、バカですね。それも筋金入りの」
リリアンは呆れた表情でこちらを見る。あたしの方が少しだけ背が高いはずなのに、見下されるように感じるのは、その冷えた声も理由の1つだろう。
そしてあれは胡散臭い天使に騙された結果である。あたしは悪くない……半分くらいしか。
「しかし9999ポイントなだけあって、きっとスゴイスキルなんでしょう。スキルボードを見せて下さい」
どうぞ、といわれるがままに、スキルボードを呼び出して差し出す。
そういえば、具体的にはどんなスキルか知らないな……名前からするに武器を持ち変えれるとかかな?流石にそれだけじゃないよね?
【ウエポンチェンジ】
現在装備中の武具から所持している別の武具へと、硬直をキャンセルし即座に装備を変更する。
「え……以上?」
「以上ですね」
「ゴミスキルだぁっーー!」
なんてこった!普通にゴミスキルだ!普通に使えない!
いや、この世界の基準は分かんないけど!ゲームとかだっから標準機能だよ!?
「これは……」
考え込むリリアン……まさか、強い人にはわかるのか、このゴミスキルの使い道が……
「ゴミスキルですね、間違いないです」
ダメでした。
「特に本人が装備できる武器が、低ランクの片手剣しかないのが役立たずに拍車をかけてますね」
「デスヨネー……」
ガックリとうなだれるあたし。ツッコミ疲れも相まって足が重いよ……
「他の装備を取ろうにも、最低でも10前後のポイントが入りますからね。ふむ、現在残り2ポイントですか」
「あれ?2ポイントあるんだ」
あれだけ怖い思いして2ポイントか……どうやら本当にこの世界は楽して強くなれないらしい。
「ともあれ、当面はこの【刃物4点セット】を目指してみたらいいでしょう」
【刃物4点セット】
ご好評につき1点限り!新米冒険者のあなたもこれでバトルのエキスパートに!?
Eランクの両手剣、大剣、双剣が同時に手に入っちゃう!?スキルポイント30にて絶賛習得可能!
……なにこの通販番組みたいなスキル。あと武器に詳しいわけではないが、大剣と両手剣というのは同じではないだろうか?
「転生者のスキルボードには変なマスがあるんですね。ぴったりです」
あのバカ天使め、許さん。
「その天使の自作スキルとききましたが、実際に機能するんでしょうか」
たしかに……なんだか不安になってきたな……
「直接本人に聞いてみようかな」
あたしはポーチからテレホンカードを取り出す、どうせこれも念じれば使えるやつだろう。
発信中……あの黒電話に通じてるんだろうか。
「不思議なカードですね、それ」
「なんだか、一度だけ天使になんでも聞けるらしいよ」
リリアンは少しだけ興味を持ったようだ、あたしにじゃなくてこのカードにだけど。
「は〜い、セツナン久々〜ご用件はなんです?」
なんとも間の抜けた喋り方。いろいろ言いたいことはあるが、すこしでも多くのことを聞くために、数々の文句をぐっと抑えてとりあえず。
「装備変更で硬直キャンセルってマジですか?」
「マジです」
ガチャ!ツー……ツー……ツー……
その1言だけで切られる電話。
あたしのいつか絶対に殺すリストに、エセ天使の名前が加わった瞬間だった。
「えぇ……と……」
「ドンマイです」
リリアンの優しさが身にしみた。誰かが慰めてくれるっていいことだね……本当に。
「あたしのこと話したんだからさ、リリアンのことも教えてよ」
ここぞとばかりに話題を変更、実際聞きたいことはいっぱいある。
「では、1つだけ質問に答えたましょう」
ピン、と指を立てるリリアン。意外にもすんなり質問は許された、でも1つか……
「枷と鎖は邪魔じゃないの?」
迷ったあげく、そんなことを聞いてみた。
リリアンはとても可愛らしいけど。その両手と両足を繋ぐ鎖だけがとても異質だ。
「これは必要なものです。力を抑える為に、物理的、魔力的に縛っているのです。そしてこれは……」
そこまで喋って口籠る。
「いえ、喋りすぎですね。なんでもないです」
残念、続きはもっと仲良くなってからだね。
「それはそうと、ペースが落ちてますよ。最初に私の剣を見切ろうとした、あのぐらいの気迫と動きは最低限みせてほしいです」
「そうはいってもあれは、エセ天使に超強化してもらってたからね。今やったら瞬殺だよ」
超強化されてても瞬殺されたのは黙っておく。
「全く、不便な人ですね」
呆れたように、ため息混じりにリリアンは言う。
「仕方なかったんだよ、【奴隷ゾンビアタック】か、これの2択だったんだから」
「強そうじゃないですか【奴隷ゾンビアタック】奴隷をゾンビの如く再生し突撃させる技でしょう」
「やっぱりわかるよね。最低だよ最低」
やれやれ、本当に最低だよ、倫理感や、人間性を疑っちゃう……
「今からでも人間性を捨てて習得してきなさい」
……悪魔がここにもいた。
「強さの為には仕方のない、必要な犠牲ですね」
「悪魔かあんたは!」
思わずツッコミ、許されない。
「そのとおりです。青の領地では黒い悪魔と呼ばれています」
「そりゃ……違和感ないね……」
青とか黒とかややこしいなぁ。
でもなんだ、意外と会話が続くじゃないか。
「さて、ここで質問です」
突然改まり、立ち止まるリリアン、なんだろう。
「魔物に襲われそうな少女がいます、あなたはどうしますか?」
遠くに目をこらす……まだハッキリとはみえないけど、確かに誰かいる。
「あのままだと数分後には魔物に襲われますね」
予定調和のように淡々と語るリリアン。
そんなの……決まってる!
「助けにいくよ、それはあたしの手と足が届く範囲だ!」
「実践に勝る訓練はありません。まずはそこまで走りましょう」
あくまで訓練と言い張るリリアン、じゃあその流れで行こうか。
何かが間に合わなくなる前に、あたしは少女のもとに走り出す。
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