第3話 前略、転生と即死と

 うん、全部思い出せた、おかえりなさいあたしの意識。

 思考が正常に戻れば、今、この状況の異常さもハッキリと受け止められる。


 メイドさんは、あたしの上に体を挟んで跨るように立っている。……上段に構えた大剣も


 このままなら確実に、死ぬ。



「それでも……」


 それでも……


「それでもまだ!」


 それでもまだ!!!


「死ぬわけには!いかないでしょ!」


 上半身に、下半身に、全身に力を込める。

 ありがとう異世界特典。これならなんとかなるかも。いや、なんとかしてみせる!


 渾身の上体おこし!お腹までは届かないけど、その少し下あたりに!全身全霊の頭突きを!


「……ッ……!」


 メイドさんも、あたしが完全に意識を失ってると思ったみたい。

 頭突きでよろめいたスキに距離を確保!足元の鎖に少し躓いたけど、なりふりかまってらんないよ。


「……殺します……絶対に……!」


「ちょっと待って!話し合おうよ!流石に転生から10分で殺されるような事はしてないよ!?」


「問答無用です」


 すぐに冷静になったメイドさんは、距離をつめてくる。……足の鎖が絡まったりしないかな。


 そんなあわい希望を打ち砕くように、有言実行、問答無用に迫ってくる。


 でも、あたしもただやられる気はない、まだ死ぬには早い。


 さっき気づいたけど、あたしの服装が変わってる。制服から冒険者って感じの服に、そして腰には初期装備と思わしき剣。


「仕方ない、それじゃあ頑張ってみようか!」


 少し、ワクワクしてるあたしがいる。

 異世界特典の超強化、初めてのはずなのに手に馴染むこの剣、感覚が、本能が、あたしを主人公だと告げている。


 少しだけ憧れていたあんな主人公に。

 きっとなれる。どんな理不尽な展開だって、笑顔で、鼻歌でも歌いながら乗り越えていこう。


「見えた!」


 きっとメイドさんにとっては、刹那の時間、でもあたしにはハッキリと見える!

 大剣の動き、メイドさんの動き、あっちも早くて完全に避けることはできないけど、剣で受け流して峰打ち!


 ……次の瞬間、最初に感じたのは理不尽な質量に押しつぶされる両腕、その痛みを感じる前に、黒い大剣はあたしの体を両断していた。


 最後の意識で人は本当に死ぬとき、世界をゆっくりと感じるんだなぁ。と振り返るのだった。

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