第2話 前略、回想終了と久しぶり、絶望と

 さっきまでいた白いもやもやに包まれた、不思議空間と違って、ついてきたここはあたり1面真っ暗。

 エセ天使の姿はよくみえるけど他にはなんにも見えない。


 ……いや、あたしの足元にだけは白い円、その円の中に収まるように立っている。


「そういえば、どうしてあたしは……と言うか別の世界の人が呼ばれるの?届けものってのもついでみたいなものでしょ?」


 あたしに尻を向けて、何やらゴソゴソとしているエセ天使に聞いてみた。

 ……もう少しこっちに興味を持ってくれてもいいのに。


「そのあたりの説明からですかねぇ、ざっくり言いますと昔からこの世界には1人、異世界の人を招くことにしてるんです。この世界にない物や、この世界の人達だけでは起こり得ない変革を起こすために、今より良い世界になる為に」


 立派な理由だ、より良い世界になる為に、いい言葉だ。


「例えば今回は前に招いた人がいなくなったので、また新しく呼び寄せようってことなんです」


「いなくなっちゃったの?それって……」


 それはもしかして、死、というものではないでしょうか。

 今更ながら、引き受けてしまったことに対する後悔がふつふつと……


「いえ、そんな悲しいお話しではありません。前回呼んだ少年は最初は非力だったものの、私達の授けた特典をいかし、立派な勇者に成長しました」


 よかった、悲しい事にならなくて。


「そして、水面下で動いていた悪と戦い、大袈裟な話しではなくこの世界を救いました。世界を救い、新しく世界で生きようと、この世界で心を通わせた女性と新天地を目指し、光の中に消えて行きました」


「そうなんだ……」


 想像よりも、何倍も、何倍も、まともで、きっと愛と勇気に溢れてて、辛いことや、悲しいことを乗り越えて、自分のハッピーエンドにたどり着いた、顔も知らない先代主人公に思いをはせる。


「なんか、いいね。私の冒険はきっとすぐに終わっちゃうけど、少しでもカッコよくなりたいな」


「なれますよ、きっと」


 静かだけど力強い肯定、この部屋に来てからずっと何かを探して顔は見えないけど、あたしの事を思ってくれてるのを感じる。

 

 静かなのは、真面目モードに入ってあたしの為の準備をしてくれてるんだと理解した。

 エセ天使だなんて、悪かったなぁ…


「それにしても、たった1人の女の子の為に新天地を探すなんて、やっぱり女の子的には憧れのちゃ……」


「ちなみに、プロポーズの言葉は、「俺と……新世界のアダムとイヴにならないか?」だそうですよ」


「ダサっ!」


 え……ダサっ!


「あと、同じ台詞を20人くらいに吐いたのでたった1人じゃないですね。当然、20人とも旅立ちました」


「王道ファンタジーはどうした!」


「いやぁ、彼の物語は王道ファンタジーではないのです仕方ないです」


「そりゃあそうだけどさぁ……」


 う〜ん、今どきの物語としては、そんなにおかしいことじゃないのかなぁ?

 でもここの基準からすると、41歳の前科者を呼ぼうとするくらいだし、そのくらいの年代なら仕方ないのかも。


「すごい性欲ですよね、まだ8歳なのに」


「とんでもねぇーー!」


「俺、異世界転生ショタだけど、チートで倒したお姉さんがホイホイついてくる件について」


「世も末だよ!」


 うん、きっとこの世界に歪まされたんだ、そう信じよう……そうだよね?


「よっと、お待たせしました。それでは今からこの世界について説明します」


 ようやく、天使は目当ての物を見つけたらしい。

 振り返ったその手には……アクリルボード?


「この世界の冒険者、つまり魔物を倒したり作業を手伝ったり、要人警護に、暗殺、なんでもござれ、ひとまとめに冒険者。その冒険者の必須アイテム、スキルボードです!」


 天使がもってるアクリルボード……もといスキルボード。

 よく見れば赤、青、緑、白の4色に薄っすらと色分けされてる。結構キレイ。


「ざっくり説明しますと、まぁ武器、魔法、道具、肉体の4つの分野における、取り扱いのライセンスって感じです。敵を倒したり依頼をこなしたり、いろいろ経験を積んでスキルポイントを獲得→それを消費してスキルボードを埋め様々な技能を手に入れよう。みたいな」


「なるほどなるほど」


「例えばこのボードだと、武器なら最初に【片手剣-E】を習得したら、そのマスが光り、周りの習得できる技能が見えます。【片手剣-E】だと【片手剣-D】や【???】。【???】は習得することでわかります」


「ゲームと違ってレベルアップなんてネオスティアにはありませから、スキルボードを駆使して頑張ろうって感じです」


 レベルアップがない……異世界ってのはゲーム世界みたいなのもだと思ってたけど、どうにも勝手が違うみたい。

 スキルボードってのはゲームみたいだけど、なんか中途半端な世界だなぁ。


「スキルポイントはなかなか手に入らないので慎重に。自分なりのスキルボードを作っていくと、独自の形に生まれ変わることもあるので、個性全開でいきましょう」


「大体、わかったよ。振り分けは慎重に、いつかその人なりのものが出来上がるってことね。少し面白そうかも」


「理解が早くて助かります、ここで取り出しますは、ドーン!、転生者限定スキルボードぉ〜(時浦刹那用)」


 まぬけた効果音と共に!天使はまたも別のスキルボードをだしてきた。


「普通ではないスキルボードにぃ、特典として9999のスキルポイントも差し上げちゃいます!」


「そいつはすげぇや!」


 おぉ〜、異世界転生みたくなってきた!


「そうでしょうそうでしょう。これで最強奴隷軍団を作って異世界ライフを堪能しちゃってください!」


 ……ん?


「最強奴隷軍団?なにその不穏な単語、とっても穏やかじゃないよ」


「そんなことはありません!この世界に呼び寄せた人を解析し、その人にピッタリのスキルを女神様が提供する。完璧なシステムです!ほら時浦刹那専用!」


「だからそれは時浦刹那(41)でしょう!なんでそのまま持ってきちゃうの!てか、その人にピッタリって時浦刹那(41)ヤバいよ!」


「おかしいですねぇ、最終奥義の【奴隷ゾンビアタック】強いと思うんですけどねぇ」


「どうせ、奴隷達を突撃→蘇生→突撃を繰り返すとかでしょ……」


「奴隷達を突撃→蘇生→突撃を繰り返すとかですね」


「言わんこっちゃない!」


 最悪だ……最悪だよ、時浦刹那(41)……


「困りました、これ以外だと、私が工作の時間に作ったのしかありませんねぇ。でもこれほとんどデフォルトなんですね。9999ポイントはつきますけど」


「もうそれでいいよ……どうせ世界を救うわけでもないし、ポイントもあるし」

 

 あたしは肩をすくめる、もうどれでもいい……

 これ以上変なものみたくないし……てか工作って……


「ではこちらで登録しときますね。なんか、でろ〜って念じればでるんで。そのまま「習得」って言って欲しいスキルをタップしましょう」


「で、でろ〜……」


ブゥンと、唸るような音とともに現れるスキルボード。

 おぉ〜、なんか……いいね!


「習得!」


 その瞬間スキルボードのいくつかのマスが点滅する、さてやっぱり武器かな?それとも魔法?


 見渡してみると、一際強く点滅しているマスがある、赤い武器エリアで一番多くのマスに隣接しているスキル【ウエポンチェンジ】これとか強そうじゃない?

 

 必要ポイントは……999!これはスゴイ!普通なら手に入らないけど今のあたしは9999ポイント。

 いろんな武器とも隣接してるし、これがいいんじゃない……?


「あ、表示限界は999ですけど、私が作ったんで変なスキルがとんでもないポイント要求するんで、しっかり詳細を見てくださいね」


「え?」


「スキルポイントを消費して【ウエポンチェンジ】を習得しました」


 ポーン、気の抜ける効果音とともにそんなアナウンスが流れた。


「あちゃ〜、やっちまいましたね」


「え、ちなみにどれくらいポイント使ったの?」


 しまった、少し考えなかったみたい。

 大丈夫大丈夫、なんてったって9999ポイントですから。


「9999ポイントですね」


「このバカ天使ぃ!」


「私は忠告しましたもん!バカセツナン!」


 もうやだ、このエセ天使。

 ……セツナンってあたし?


「巻きでいきますよ!1回だけ私になんでも聞けるテレホンカード、1回死ぬまで超強化、あと2回まで大体のことが叶うお願い券をつけときますね!」


 突然急ぎだす天使、さては面倒くさくなってきたな?


「大体のことが叶う……?」


「大体叶います!でも一回目に類するお願いしか叶いません!」


 うーん、つまり同じ願いしか叶わないって事?


「はい!説明タイム終わり!とっとと転生してください!あと荷物はしっかり届けて下さいね!」


「ちょっと待って!まだ聞きたいことが……」


 手を伸ばす、このエセ天使め、異常なくらい巻き始めたぞ!

 転生とは言ってたけどあたしの容姿はどうなるんだとか!赤ちゃんからスタートはマズイ!


「はい、ドーン!」


 その瞬間、足元の白い円がなくなる。

 違う、おそらく唯一の足場がなくなったんだ、つまりこの次は……

 一瞬の浮遊感、あたしの体は暗闇の中に吸い込まれていった。


「覚えてろよー!バカ天使ぃー!」


 このエセ天使のせいで意識を失うのは2度目だった。



 …………目を覚ますと、そこには見たことのない景色が広がっていた。

 色とりどりの花、長い長い塔、黒い大剣を携え、両腕、両足にそれぞれ枷と、それを繋ぐ鎖をつけたメイドさん。

 ……メイドさん?


 頭の理解が追いつかないなか、ゆっくりとメイドさんは近づいてくる、もちろん大剣と一緒に、鎖を引きずりながら。


「……別の世界から来た人ですか?」


 メイドさんからの質問、やっぱり珍しいよね、転生してきた人なんてさ。


「そうだ……よ……?」


 ちょうどいいし、いろいろ教えてもらおうかなと、答えきるまえに、言い終わる前に。

 メイドさんの拳があたしのお腹にめり込み、よろめく間に大剣の腹で頭から叩き潰された。


「あなたを殺します」


 冷たく簡潔な殺意。

 元の世界からここまでの間に実に、3度目の意識の消失だった。

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