第17話合格の時
合宿が終わってから翌日立った日、舞子は勉強が一息つき休んでいた時、電話が鳴った。
「はい、沖浦です。」
「舞子、久しぶり!!」
「その声は、田原先輩!!」
舞子はかつて夢へと導いた者の声を聞き、顔に喜びが満ち溢れた。
「久しぶりに声が聞けて良かったよ。それよりも残念だったね、テレビ。」
「そんなことないよ、寧ろ有意義な勉強が出来て良かったよ。」
実はあの日、岡村が不法侵入で逮捕されたことがニュースで流れてしまったので、番組で放映することが出来なくなってしまった。しかし講師との話し合いにより、合宿企画はそのまま続行されることになった。しかし参加者の大半は、テレビに出られないなら参加する意義が無いという事で、参加を辞退してしまった。しかし舞子と彦田と納言は、せっかくの機会だからということで最終日まで参加し勉強を続けた。
「そうね、あなたにとってかなりいい経験になったわね。」
「へへへ、私今度こそ合格して見せるよ。それより田原先輩、仕事の方はどうですか?」
「実はね、トラベルアンカーが独立することになったのよ。」
「やっぱり・・・。実は沖浦堂も独立して、社名が変わる予定なんです。」
「やはり、泰三がああなってしまったからねえ。これからあの人、世間から笑いものにされてしまうわよ。」
岡村が捕まった後、日向・西木・保永も芋づる式に捕まった。そして四人の供述となんと董の供述により、沖浦泰三が黒幕であるということが判明した。結果的に泰三は逮捕されたが、番組撮影の妨害をされたということで大京テレビが、泰三に対し訴訟を起こしたのだ。しかもこの事が連日テレビや週刊誌で話題となり、沖浦株式商事の信用は完全に地に落ちた。それにより子会社が独立していったのだ。
「全く、今更思えば馬鹿馬鹿しいよね・・・。私が言う事聞かないからって、周りに迷惑をかけるなんて。」
「そうよね・・・・、泰三もどうしてどこかで冷静になれなかったのかな?」
「確かに、でもおかげであれこれ妨害されなくなったから、気持ちよく勉強できるようになったわ。」
「好かったわね、舞子。ここからが気合の入れどころだよ。」
「うん、頑張るよ。それじゃあ、勉強してくるね。」
「じゃあね、もし合格したら連絡よろしくね。」
そして電話を切った舞子は、再び勉強に戻った。
そして午後六時、まいこは静江と一緒に夕食の支度をしていた。
「静江さん、いつもありがとうございます。」
「気にしなくていいのよ、寧ろありがたいのは私の方よ。」
実は合宿企画が終了し帰宅していた時、康太が舞子のスマホに連絡をした。
『もしもし、舞子姉さん?』
『康太じゃない、一体どうしたの?』
『実は泰三が警察に逮捕されたようなんだ。それで家中大パニックになって、家宅捜査もすることになったから、悪いけどそちらの世話になってもいいかな?』
『わかった、取りあえず玄関前で待ってて。それで詳しい話をするから。』
『わかった、じゃあね。』
こうして舞子と彦田と納言が家に着くと、静江と康太が大きな荷物を持ちながら待っていた。そして静江と康太は暫くこの家で暮らしていたが、泰三に有罪判決が出たと知るや否や、すぐに泰三とは絶縁しこの家の名義を自分のにした。
「泰三は今頃、刑務所の中で後悔しているのかしらねえ。」
「そういえば後で知ったけど、おじいちゃんは私を仮の跡継ぎにして、康太が一人前になったら変わってもらうつもりだったってねえ・・・。」
「うん、あの人かなり頭が固いからねえ。」
「頭が固いから自分の暴走を止められなかったのかな・・・。まあ、どうだかわからないけど。」
「これで康太もあなたも、家の呪縛から解放されたわね。」
「えっ、康太もですか?」
「泰三からかなりの期待をされていたから、悩んでいたところがあったみたい。」
静江はそう言うと、完成した料理をテーブルに運んでいった。杉浦と金田と董はいなくなったが、今では五人と一緒に邪魔されずに生活を送っている。そのことが舞子にとって、何よりの幸運だ・・・。
そして舞子と彦田と納言はセンター試験を受け、あれから数か月の時は流れて一月十八日、ついに運命の東京大学入試本試験の日を迎えた。家からは徒歩と電車で僅か十五分の道のりだが、緊張感のためかずいぶん遠くまで来たように感じた。
「ついに来たわね・・・。」
「ああ、それぞれベストを尽くそう。」
「じゃあ、試験が終わるまでまたね。」
そして舞子と彦田と納言は、会場に入室し試験の用意をして構えた。そして午前九時半、試験官が入室し用紙が受験者に配られた。配られた時、舞子の緊張感がピークに達した。
「それでは、始め!!」
試験官の合図で、試験の幕が上がった。舞子は自分のペースで問題を解いていく。
「頑張らなきゃ・・・、もう今までの私とは違うんだ・・・!!」
六年目の浪人生活の始まりから、両親の若返り・両親の突然の解雇・祖父の家への強制入居・強制就職・諦めかけた合格・応援してくれた田原先輩・祖父の異常な妨害と祖父の逮捕・そしてこれまでよりいい結果だったセンター試験と、とにかく色んなことがあった。だから今回はいつもと何かが違う事を、舞子は感じていた。そして休憩後の試験も、舞子は冷静に解き進んでいった。そして六時十分、本日の試験が全て終了し、舞子は彦田と納言と合流した。
「お疲れ様、どうだった?」
「ずいぶん久しぶりだけど、手ごたえは良かったよ。」
「でもずいぶん前に受験したのに、もう一度やることになるとは思わなかったわ。」
納言は思いにふけっていた。
「そういえば二人は覚えている?私と東大のオープンキャンパスに行った時のこと。」
「ああ、覚えているよ。あの頃の舞子、凄く感動していたわね。」
「本当は舞子の才能なら東大に行けると思って、東大に興味を持たせるためにオープンキャンパスに連れて行ったんだよね。今思えば、私と納言の勝手なエゴだ。」
「そんなことないよ、あの頃の私は将来の目標が見つからずに悩んでいたから、これをやればいいと両親が教えてくれた。だから二人には感謝している。」
「ありがとう、舞子・・・。」
彦田と納言が、同時に言った。
「さあ、やれることはしたし、今夜はみんなで外食だ!!」
舞子は駅へ向かって駆け出した、彦田と納言が後を追う。こうして大人の子供と子供の両親の受験が終わった。
そして数日が過ぎて三月十日、ついに合格発表の時が来た。
「ああ、いよいよ合格発表だ・・・。緊張してきた・・・。」
「あなた、緊張してないで東大に行って、合格発表を見ましょ。」
彦田を促す納言に、舞子が言った。
「ちょっと待って、合格発表はホームページ内で公開されるみたい。」
「えっ、そうなの?」
「うん、スマホからでも見られるよ。」
「時代が変わったなあ・・・、でも余計に緊張するなあ・・・。」
彦田は体中で地震があったかのように震えている。
「じゃあ、見るよ。」
舞子が真剣な顔で言い、彦田と納言が頷く。ちなみに受験番号は舞子が0128・彦田が0364・納言が0298である。舞子はスマホの合格発表のページを、まじまじと見た。
「えっと・・・・・・嘘・・・・嘘でしょ・・・・、三人全員合格!!」
「えーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!」
舞子と彦田と納言はかなり驚いた後、互いに飛び跳ねながら抱き合い、合格を祝福した。
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