第16話学問神の天誅
合宿企画を始めてから二日後、舞子は周囲からの冷たい視線を気にすることなく勉強をしていた。ただ参加者の文房具が無くなるという事件はあれから多発し、とうとう警察がやってきた。
「おい、パトカーが来てるぞ。」
「警察沙汰になるとはなあ・・・。」
「やっとこれで、舞子が合宿から消えるぜ。」
「おい!まだ舞子の事疑っているのか?」
「だってそうだろう、二日前は見つからなかったけど、その前の夜中の内にみんなの文房具を処分しているかもしれないし。」
「それは・・・。」
やはりまだ舞子が文房具を盗んだ犯人という疑惑は残っていた。それでも舞子はそんなのどこ吹く風と、気にしていなかった。
舞子が社会の授業を受けていた時、舞子はディレクターから呼び出された。話によると、警察の事情聴取を受けてほしいということだ。正直乗り気じゃないが、周囲の疑いを無くして落ち着いて勉強するためにと、舞子は事情聴取を受けた。
「警察としての意見は、この事件の犯人はあなたの身の周りの人の犯行だと思う。まず、このメモを見てほしい。」
中井という刑事が舞子にあのメモを見せた。
「このメモと君の参加者名簿の字を、筆跡鑑定に出した。」
「どうだったんですか?」
「不一致だった、これは別人の字だ。」
「そうでしたか・・・。」
「舞子、君は誰かに恨まれている覚えはありますか?」
「いいえ、ですが私が勉強しているのを、快く思わない人物がいます。」
「誰だ?」
「私の祖父・沖浦泰三です。」
「沖浦泰三って、あの沖浦株式商事の・・・・。」
中井は絶句してから、ハッとした。
「てことは、君は孫娘?」
「はい、そうです。」
「うーん、しかし泰三はどうしてあなたが勉強しているのを良く思わないんだ?」
「私が跡継ぎにならずに勉強しているからです、祖父は金持ちですから自分で手を汚さずに、他人にやらせていると思います。」
「なるほど・・。ではあなたは、今の受験生が邪魔だと思っていませんか?」
「思っていません。」
「でも聞き込みをした所、あなたは六回も東大の受験に落ちているというじゃないか。心のどこかでは受験生が、憎かったのでは?」
「そんなことありません、確かに合格した人が羨ましいと感じているけど、私はその思いを胸に勉強をしてきた。私の心は決してくじけない事を選択した、そんな私がこんな陰湿な嫌がらせなんかしません。」
舞子はキリッとした目で中井を見た。中井は少し考えると、口を開いた。
「それでは文房具を盗まれた参加者と、トラブルを起こしたことはありませんか?」
「無いです。」
その後も警察は舞子を疑い続け、始めてから一時間後に事情聴取が終わり、舞子は解放された。舞子は疑られた不快な気持ちを押し殺して、勉強に身を入れた。
午後十時、保永・日向・岡村・西木の四人は校舎の扉の前で身を潜めていた。
「警官がいるなあ・・・。こりゃ、やりにくくなってしまったぜ。」
「なあ、もう嫌がらせを止めないか?」
「怖気づいたのか、保永?」
「ああそうだ、もうこんなことはしたくないんだ・・・。」
「もうそんなことは言っていられないんだよ!何としてでも、泰三様の望みを叶えなければならないんだ!」
日向に高圧的に言われて、保永は渋々覚悟を決めた。
「私が悪かった、申し訳ない。作戦通りに行こう。」
今夜決行される作戦は、校舎内の電気と水道を切断することである。そうすれば舞子は他の参加者共々、合宿が続けられなくなるという魂胆だ。
「でも門には警官が見張っているぜ、どうやって侵入する?」
「確かこの近くに空き地があったなあ・・・。保永、そこで火をつけろ。火が付いたら警官を引き付けるんだ。」
「分かりました。」
「俺と岡村と西木は隠れている、上手くやれよ?」
保永はミニバンから新聞とライターをもって空き地に行くと、新聞と落ち葉と木の枝を集めて火を付けた。火は炎となって、赤く大きく燃え上がった。保永はその後すぐに、校舎内に居る警官に言った。
「放火だ、火事が起こった!!」
「火事だって!!どこで起きたんだ!?」
「近くの空き地です。」
「あっ、あれだ!!」
一人の警官が、立ち昇る黒煙に気づいた。
「分かった、あなたは消防に連絡して!!」
保永は警官に言われた通りにすると、日向らに連絡を入れて、ミニバンに戻った。
「・・・何か、目がさえちゃった・・・。」
午後十一時、舞子はトイレに向かっていた。
「何だろう…、無意識に身震いしてしまう。」
合宿の会場とはいえ、夜の学校は不気味である。早く用を足そうと早歩きをした舞子は、トイレに入って用を足した。そして早歩きで自分の部屋に戻ろうとした時、ふと誰かとぶつかった。
「あっ!!ごめんなさい・・・・・、えっ!誰ですか!!」
「うわあ、しまった!!」
相手は突然走り去った、舞子はその相手を追いかける。実は舞子にぶつかった相手は、校舎内に侵入した三人の一人の岡村である。
「待てーっ!!」
舞子は叫びながら走った、その叫びは校舎内に響き、日向と西木にも聞こえた。
「日向さん、・・・・・・何か嫌な予感がします。」
「ちっ、岡村がドジりやがった・・・。引き上げるぞ!!」
そして二人は早々に引き上げて行ったが、岡村が逃げる途中で転んでしまい、舞子に捕まった。
「捕まえたわ!!」
「それはどうかな!!」
すると岡村が逆に舞子を捕まえて、ズボンのポケットからナイフを出して舞子の喉に突きつけた。
「うっ・・・。」
「さあ、死にたくなかったら大人しくしてろよ・・・。」
岡村は舞子を連れて、少しづつ校舎の出口に向かって行った。舞子はこのままどうなってしまうのかという恐怖に、身を震わせていた。するとその時、岡村の背中に何かが当たった。
「誰だ!!」
「舞子から離れろ!!」
「ナイフを捨てなさい!!」
岡村の背中に当たったのは、彦田の投げた消しゴムである。そして彦田と納言は、岡村をじっと睨んでいた。
「お前らの娘がどうなってもいいのか?」
「えっ・・・!どうしてそのことを・・・?」
「ふっ・・・泰三様から全て聞いている。お前らが家主の掟に従っていれば、こんなことにはならなかっただろうに・・・。」
「家主の掟は関係無い、家族にはそれぞれ違う理想や価値観がある。だからこそすれ違いや受け入れを重ねて、成長するんだ!!」
「そうよ、あなた達のしていることは一方的に片方を否定しているだけよ!!」
「しゃらくせえ!!逆らい続けた結果、他者に迷惑をかける事になるんだ!!」
岡村が叫んだ時、岡村の背中を誰かが蹴り上げた。岡村と一緒に倒れた舞子が振り返ると、そこには弘沢の姿があった。
「弘沢先生!!」
「誰だ・・・。」
岡村がしゃべる間もなく、岡村の胸ぐらを掴んだ弘沢は、岡村の下腹部にパンチをした。強烈なパンチで、岡村は一撃で伸びてしまった。
「舞子君、大丈夫か!?」
「大丈夫です、おかげで助かりました。」
「舞子!!無事で良かった・・・。」
「あなたが死ぬかと思ったわ!!」
彦田と納言は舞子に抱き着いた。
「それにしても弘沢先生、凄いパンチですね・・。」
「ああ、ボクシングやっていたんだ。それより早く警察を呼ばないと。」
その後、日が昇り岡村が警察に連行された。
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