第15話夢の道にあるつり橋
ライジングチャレンジャーの東大合格合宿企画に参加した舞子と彦田と納言は、合宿の緊張感を胸に持ちながらバスが停まるのを待っていた。そしてそのバスを追いかける一台の白いミニバンがいた。そのミニバンには、保永と泰三の精鋭部隊三人が乗っていた。
「あのバスに、あの三人が乗っているんだな。」
「ああ・・・・、でもどうやって妨害するんだ?」
「まあ、手段は選ばんよ。」
「でも大丈夫かな・・・・、後でもし妨害がバレたらどうしよう・・・。」
「なあに心配するなよ、お前のよこした情報のおかげでかなり効果的なのが出来そうだぜ。」
保永の隣に座っているいかつい男・日向五郎は、元ヤクザの頭という経歴があり警察にもマークされている要注意人物だが、泰三に雇われてからは泰三のガードマンとして働いている。
「そういや、泰三の部下の杉浦がクビになったってなあ・・・。何でも、部下に裏切られったってなあ・・・。全くついてない奴だぜ。」
「あの今まで疑問に思っていましたけど、泰三様ってどうしてあんなに舞子さんの東大合格を拒むのでしょうね・・・?」
「そうだな、泰三の頭が固いというのもあるが、一番の理由は早く仮の跡継ぎになってほしいという事だろう。」
「仮の跡継ぎ?」
「ほらもう一人の康太という孫がいるだろう、泰三は舞子に何年か仮の跡継ぎをさせて、康太が一人前になったら譲渡させようという魂胆さ。」
「それでしたら、舞子にそのまま後を継いでもらった方がいいのでは?」
「頭が固いと言っただろう、出来るだけ早く康太に継がせたいのさ。」
「なるほど・・・。」
そしてミニバンはバスを追いかけていった。
そしてバスは合宿会場へと到着した、そこは埼玉県川越市の住宅街にある学校だ。
「何かもっと自然豊かなところでやると思っていたけど・・・。」
「雰囲気的にはいいんじゃない?でも学校なんてよく借りられたわね。」
「確かに、何か勉強に対する気合が入りそう。」
そして参加者全員がバスから降りると、体育館に誘導された。そこで改めて合宿生活の説明と、担当科目ごとの先生の紹介が行われた。そして終わった後すぐに、教室に入り勉強が始まった。教室は参加者が教科ごとに選べるシステムになっていて、今回舞子は現代文を選択した。東大講師の授業ということで、舞子は真剣に授業を受けていた。
「す・・・すごい、これが実際の東大で行われている授業・・・。」
舞子は授業の理解しやすさと丁度いいテンポに、感銘を受けていた。授業終了後、舞子は大きく背伸びをしながら、満足感に満たされていた。
「東大生はいつもこんな授業を受けているんだ、いいなあ・・・。」
舞子が自分の部屋に戻ろうとした時、リポーターからインタビューを受けた。
「さて合宿生活初めての授業でしたが、感想はどうですか?」
「やはり今までの先生の授業と何かが違うと感じました、話を聞くのに集中していたので、撮影という事をすっかり忘れていました。」
「そうでしたが。ところであなたは参加者の中で最高齢ですが、失礼して年齢は幾つですか?」
「二十四です。」
「おお!!今まで、東大を受験したことはありますか?」
「はい。恥ずかしながら、六回挑戦してまだ一度も合格していません。」
「凄い執念ですね・・・・、ありがとうございました。」
レポーターは去って行ったが、舞子は去る直前にレポーターが引いていたのが、少しムッとした。
その後別の授業を受けた参加者は、入浴と夕食を済ませて各自の部屋に入った。そこからは自由時間だが、舞子は相変わらず勉強をしていた。そして午後十時に、参加者全員就寝した。それから一時間程して、保永・日向・岡村と西木(日向の部下)の四人が校舎内に侵入した。
「よし、岡村と西木は数人からにブツを盗め。俺と保永で舞子の部屋を探す。」
四人は二人ずつに分かれて別行動をした。そして保永と日向は、あっさり早く舞子と彦田と納言の部屋を見つけた。学校の教室をそのまま使っている様で、簡単に侵入できた。
「さて、このメモを置いてっと。」
日向は侵入前に書いたメモを、机の上に置いた。
「よし、出るぞ。」
「これだけで、いいんですか?」
「そうだ、そのために岡村と西木にブツを盗ませているんだ。」
保永は理解した。日向は舞子を「盗みの犯人」に仕立て上げて周囲から孤立させ、勉強への集中を無くそうとしているのだ。日向と保永はその後、静かに歩きながら校舎内を下見した後、岡村と西木と合流した。
「日向さん、ブツを持ってきました。」
「ブツというのは?」
保永が言うと岡村がビニール袋の中身を見せた、そこには鉛筆・シャーペンとシャーペンの芯・消しゴムと、様々な文房具が入っていた。
翌日、朝食後の校舎内はちょっとした騒ぎになっていた。
「あれ!?シャーペンが無い!」
「消しゴムが消えた!!」
「下敷きどこだ!!」
とこのように、何人かの参加者から文房具が無くなっていた。講師やディレクターも捜索したが、見つからない。そんななか舞子と彦田と納言の部屋の机の上に、こんなメモが置いてあった。
「受験生が憎いから、イタズラしました。ざまあみろ!! 沖浦舞子」
これを見た参加者・講師・ディレクターは、一斉に舞子に鋭い目を向けた。
「舞子、シャーペン返せよ!!」
「いくら何でも酷すぎるわ!!」
「最低!!お前なんか、受験する資格が無い!」
参加者は舞子に非難の罵詈雑言を浴びせた、舞子は初めはうろたえていたが、やがてこう言った。
「違う、絶対に私じゃない!!そんなに言うなら、私の荷物と部屋を好きなだけ調べなさい!!」
参加者は舞子の大声に怯んだが、何人かの参加者は「よし、調べてやる。」と、舞子の荷物と部屋中を物色した。しかし文房具が見つかることは無かった。
「くそっ、何で無いんだよ・・・。」
「こらっ!!君たちは受験に向けての大事な時期を迎えているのに、何をしているんだ!!」
弘沢が厳しい口調で言った。
「だって、俺達の文房具が・・・。」
「不足している文房具なら貸してやる、それで文句はないな?」
何人かの参加者は頷いた、そして舞子に謝罪をして教室に向かって行った。
「すみません、私のせいで・・・。」
「君のせいじゃない、それにしても酷い嫌がらせだ。」
弘沢は憤慨した顔で教室に行くと、彦田と納言が話しかけてきた。
「舞子、これって・・・。」
「ええ、分かっているわ。まさかこんな嫌がらせまでしてくるなんて・・。」
「我が父ながら、情けない・・・。」
彦田と納言も、泰三の仕業という事を理解した。
「でも泰三はどうやって、この合宿企画を知ったんだ?」
首を傾げる彦田に、舞子が答えた。
「多分、突き止めたのは保永という探偵よ。」
「えっ、探偵を雇ったの!?」
「うん、田原さんが会社を辞める前に、保永は田原さんの家に来ていたの。そして『舞子には二度と関わらないほうがいい』と忠告して去ったわ。おそらく私達と田原さんの関係を、調べていたと思うわ。」
「成程・・・・てことは、栄光塾の時も!!」
「うん、間違いない可能性が大きい。」
「ということは、これからかなり酷い嫌がらせがくるかも・・・。」
「でも私達はとにかく勉強しましょう。泰三なんかに負けてられないわ。」
舞子が言うと、彦田と納言は頷いた。
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