第14話合宿の幕開け

 六月末日、田原咲子が沖浦堂を辞める日が来た。

「皆さん、今日まで本当にありがとうございました。新しい職場でも、精一杯頑張ります。」

 田原が挨拶すると社員全員が拍手した、その中でも舞子の拍手が人一倍大きかった。

「先輩!短い間でしたが、お世話になりました・・・。」

「舞子・・・・、東大合格頑張ってね。応援しているから。」

「ありがとうございます!」

 この後、いつも通りに仕事を続けた後は、田原の退職祝いということで飲み会に社員全員でいった。舞子はとにかく田原がいなくなることを忘れるために、とにかく食べた。そして自分が田原に尋ねる最後のチャンスだと思った舞子は、田原にある質問をした。

「田原さん、質問してもいいですか?」

「いいわよ、何?」

「どうして私が東大合格を目指している時、私に協力してくれたの?」

「そうね・・・、何だかあなたの姿が十八歳の私に見えたからかな。私もあの時は、書店で働きながら勉強していたからね。」

「どうして書店だったの?」

「だって、休みの時は参考書とか買いに行けるし、店長さんから合格に役立つ本を貰った事あるよ。」

「そうだったんだ・・・。」

 舞子は田原の計算高さに驚いた。

「まあ、働きながら頑張った私でも出来たから、あなたも必ずできるはずよ。」

「はい!!あっ、実は私合宿に行くんです。」

「合宿!?ずいぶん気合が入っているわね・・・。」

「弘沢学の受験強化合宿です!!」

「ん?それってライジングチャレンジャーの企画よね?」

「ライジングチャレンジャーって何?」

「あらゆるチャレンジャーに着目して、努力の日々と運命の日を撮影しそのドラマを見せる、不定期開催のバラエティー番組よ。」

「そうか・・・、そんな番組に出るんだ。」

「まあ不定期だからよく知らないのは無理ないわね・・・。ちなみに放送日は八月十五日よ。」

「よく知っていますね・・・。」

「私、この番組が好きでねよく見ているのよ。後、もう番組の予告はもうされているわ。」

「先輩、合宿での私を絶対に見てください!」

「それはいいけど、案内状とか来たの?」

「あっ、まだ来ていませんでした・・・・。」

「もう、気が早いわね・・・・。選ばれることを期待しているわ。」

 その後、飲み会が終わり田原は会社に二度と姿を見せなくなった。そしてさらに五日後、テレビ局から舞子と彦田と納言の、ライジングチャレンジャーの合宿参加を認める葉書が届いた。




 その日、港区白金台にある泰三の家に電話がかかってきた。

「もしもし、私だ。」

「杉浦です、実は舞子と彦田と納言の所に例の合宿参加の葉書が届きました。」

「そうか、合宿に参加することが決まったか・・・。」

「はい、てっきり応募は当たらないものと思っていたのですが、想定外の事態になりました。」

 ちなみに何故杉浦が合宿の事を知っているのかと言うと、実は情報収集のため舞子の部屋に盗聴器を仕掛けていたのだ。合宿の事を知った杉浦はすぐに泰三のところに電話したが、泰三は「どうせ当たらないだろう・・・。」と軽んじて気にするなと、杉浦に伝えた。

「合宿ではこちらから妨害することが出来ません、一体どうすれば・・。」

「分かった、こちらで何とかするから取りあえずうろたえるな。もし舞子達に不審な動きがあれば、すぐに連絡するように。」

 そう言って泰三は電話を切った。

「そういえば杉浦はライジングチャレンジャーというバラエティー番組の合宿と言っていたなあ・・・。」

 そこで杉浦はパソコンでライジングチャレンジャーについて検索しつつ、探偵の保永を電話で呼びつけた。電話してからニ十分後、保永は泰三の家に来た。

「泰三様、今回はどうなさいましたか?」

「実は舞子が彦田と納言と共に、ライジングチャレンジャーという番組の合宿企画に参加することになったのだ。」

「おお!!当選しましたか、凄いですね!!」

 泰三が大きく咳払いをすると、保永は失礼いたしましたと頭を下げた。

「それで君を呼んだのは、合宿企画が行われる場所を特定して、私の精鋭部隊と一緒に向かい、合宿を妨害することだ。」

「ええ!!そこまでやるのですか・・・・。」

「もちろんだ、何が何でも勉強させん!!」

 泰三は大声で言ったが、保永は頭を抱えながら困惑した。

「あの・・・お言葉ですが泰三様、さすがにこれは犯罪行為ですので承知できません。最悪、貴方の名誉に関わります。」

「私は自分の名誉など気にしておらん。もしや保永、犯罪をする勇気が無いな?」

「はい・・・。」

 保永は消え入りそうな声で言った。

「心配するな、私の精鋭部隊は完璧な仕事をこなす。それにもし成功すれば、報酬額を三千万にしてやろう。」

「本当ですか!!・・・・・やります、やらせていただきます!!」

 金の欲に負けた保永は、泰三の依頼を引き受けた。保永は泰三の家を出た後、三宮に電話を掛けた。三宮は大阪出身で保永の同級生で、ライジングチャレンジャーを放送する「大京テレビ」で働いている。

『もしもし、三宮か?』

『保永さん!久しぶりでんな、どうしましたんや?』

『お前のテレビ局で、ライジングチャレンジャーっていうバラエティーやってんじゃん?』

『ああ、不定期企画のあれな。』

『そこで合宿企画をすると知ってな、どこでやるのか教えてくれないか?』

『すみません、自分の担当じゃないんや・・・。』

『じゃあ、担当の方に聞いてみたら?』

『そうするけど・・・・、何でこんな事聞くんねん?』

『実は仕事なんだ。』

『仕事!?もしかして、依頼は他のテレビ局とちゃうか?』

『違う、でも依頼者の素性は明かせない・・・。』

『そうか・・・じゃあ取りあえず聞いてみるわ。ほいじゃあな。』

『ありがとう。』

 そして保永は通話を切った。



 七月二十一日、舞子と彦田と納言は駅を乗り継いで大京テレビ局に到着した。待合室に通されると、そこには当選した十数人の若い男女が集まっていた。

「人、沢山いるね。」

「この人達も、受験に向けて気合を入れているんだ。」

 それからニ十分程で番組ディレクターがやってきて、合宿企画について説明した。それからあの弘沢学がやってきて、皆さんに挨拶をした。

「皆さんこんにちわ、東京大学で講師をしています弘沢学です。皆さんは東大合格の未来を目指して、日々を有意義に過ごしているかと思います。今回はテレビ番組の撮影という事もありますが、皆さんの東大合格のために最大限の力を貸しましょう。そして皆さんがそれぞれ、栄光ある未来を歩むことが出来たのなら、私はそれで幸せです!みんなーーーっ、東大に合格したいかーーーーっ!!」

 弘沢が呼びかけると、全員が「合格したいーーーーっ!」と叫んだ。

「よし!それじゃあこの後十分後に外に出て、バスに乗ってください。このバスが合宿の舞台へと連れてってくれます。それでは、合宿の舞台で会いましょう。」

 そう言うと弘沢は、部屋を出ていった。そして十分後に、全員がバスに乗り込んだ。

「何だか緊張するわね・・・。」

「合宿なんて・・・、本当の高校時代でもしたことないのに・・・。」

「そんなの私もよ、これからどうなるか楽しみだわ!」

 そしてバスは、大京テレビから合宿の会場へと向かった。






 


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