第13話妨害と貫徹の攻防(後編)
栄光塾が沖浦株式商事によって潰されてもなお、舞子と彦田と納言は勉強に励んでいた。あれから一週間後、舞子が仕事中に社長の鬼塚に呼び出された。
「鬼塚社長、一体どんな御用ですか?」
「実は先程、君に横領の疑いがあるとタレコミ電話が来たんだ。」
「横領!!私は絶対にしません!!」
舞子はキッパリと言った。
「もちろんそうだ、しかしここの所このようなタレコミが、我が社に来ているんだ。舞子君、誰かに恨まれている覚えはあるか?」
「ありませんよ、そんなこと!!」
「そうか・・・・、だったら何者かのイタズラに違いない。」
鬼塚は首を傾げなら言った。しかし舞子には心当たりがあった。
「きっとおじいちゃんが誰かにやらせている・・・・。」
しかし舞子はこの事を鬼塚には言わずに社長室を出た、まだそうだという証拠が無いからである。
「もうどれだけ陰湿なの!だったら、はっきり言えばいいじゃない。」
そして舞子が仕事場に戻ると、社員の多くが一枚の張り紙を見ていた。舞子も気になって見てみると、そこにはこう書かれていた。
「異動命令・沖浦堂課長田原咲子氏に、トラベルアンカー名古屋支店への異動が決定しました。これにより田原咲子氏は、今月末で沖浦堂を辞職することになりました。」
舞子は目を見開いて驚いた、田原が地方支店とはいえトラベルアンカーに戻る事になったのだ。舞子は一人で仕事をしている田原に声を掛けた。
「田原先輩、良かったですね。」
「何が・・・・、もしかして見たのね?」
「はい!それにしても、一体なにがあったのですかね?」
「さあね。ところで舞子、勉強は進んでる?」
「うん、進んではいるけどね・・・。」
「浮かない顔ね、どうしたの?」
「栄光塾が潰れたんです。」
田原は酷く驚いた。
「いつ潰れたの!?」
「一週間前です、沖浦株式商事が栄光塾のあるビルを買い取ったのが原因です。」
「そんな・・・・。」
「私、実は祖父に東大受験を強く反対されているんです。」
「祖父って、沖浦泰三の事?」
「はい・・・・って、どうして田原先輩が、おじいちゃんのこと知っているんですか!!」
田原はため息をつくと、自分の過去について話した。
「私には梢という姉がいて、梢がバーやクラブで稼いだ貯金で東大に行っていたんだ。そんな梢がある日バーで泰三と知り合った、その日から梢は私に泰三の話をするようになった。四十以上も年が離れた男に惚れるなんて・・・と私はその時思っていたが、泰三がお金持ちと知った時近づいて金持ちになって、生活を楽にしようとしていると感じた。正直やり方は変だけど、私にとってはありがたかった。でも泰三は梢の気持ちを受け入れず、梢はそれが理由でトラブルを起こしてバーをクビになり、そして自殺した。その後、郵便局から受け取り拒否された封筒が来て、見てみると梢が泰三宛てに出した封筒だった。開けて読んでいると、梢がいかに泰三に惚れていたのかがよく分かった、そして私は泰三が許せなくなった・・・。」
「まさか、復讐しようとしたの・・・?」
「ええ、丁度その時東大を卒業して就活をしていたから、泰三に近づくためにトラベルアンカーに入社したの。そして仕事をしながらチャンスを伺い、そして泰三の出席しているパーティーで、私はナイフを持って泰三に襲い掛かった。でも結果的には失敗して、私は逮捕を覚悟した。でも泰三は梢を自殺させてしまった責任感で、なんと私を沖浦堂に左遷させることを条件に、刑務所送りを無しにした。私はその条件を飲んで、この沖浦堂に来たという訳。」
「そうだったんですか・・・。」
「まあ、こうなるとは昨日の時点で予測していたけどね。」
「え!どうして?」
「実は昨日、保永義男という探偵が家に来て、『これ以上、沖浦舞子に関わるな』と警告したの。理由を尋ねたら、舞子の役目を邪魔されたくないからって言われたわ。」
「私の役目って・・・・。」
私は若返った両親の世話役ではない、そもそもそれはこちらの勝手な都合に過ぎない。
「こうなったのは、私が首を突っ込んだのが原因。だから、私がこの会社から消えて舞子から離れれば、それで十分よ。」
「そんな・・・。」
「でもあなたなら大丈夫だわ、きっと三人仲良く合格できる!!」
「先輩・・・・!!」
舞子は泣きながら田原に抱き着いた。
「もう、泣かないの・・・。」
田原は舞子を優しく撫でた。
翌日、港区白金台にある泰三の家
「よくやった保永、今回の報酬だ。」
「ありがとうございます。」
「契約はここまでだが、いずれまたお主の力を借りるかもしれん。その時は頼むぞ。」
「かしこまりました。では、失礼します。」
保永は泰三の家を去って行った。
「舞子らの通っていた塾は潰したうえ、影響を与えた田原も左遷することが決まった・・・。これで舞子が、大人しくしてくれればいいがな。」
泰三は座椅子に座り、喫煙パイプで一服した。
その日の午後、舞子は勉強の合間にインターネットで、東大合格法について検索していた。やはり栄光塾のような助けが、今の舞子たちには必要なのだ。
「何かいい方法が無いかなあ・・・・?」
その時、ふとあるサイトが目に留まった。そこにはこう書かれていた。
「君も合格の扉を叩け!!東京大学講師による、勉強強化合宿!!科目ごとにエントリー受付しています。」
舞子は強く魅かれた、そして勉強中の彦田と納言を無理矢理連れ出して、画面を見せた。
「ねえねえ、これにエントリーしない?」
「うーん、東京大学講師か・・・・でも本当かな?」
「そうよね、受験生を狙った詐欺かも。」
彦田と納言は疑っている。
「ん?これ見て。」
舞子は講師の名前に、弘沢学の名前を見つけた。
「弘沢学って、ほらテレビに出ている!!」
「ああ、クイズ番組とかでよく見る人だ!!ていうか、これもテレビ企画のようだよ。」
「だったら尚更エントリーしなくちゃ。」
「いいの、そんな急に決めて?」
納言が舞子をなだめながら質問した。
「いいのよ、テレビじゃ嘘は放映できないし。さあ、エントリーするよ!」
舞子はサイトをクリックしてエントリーの手続きをした、その後彦田と納言もエントリーの手続きをした。
「エントリー完了ね、さあそれまで勉強よ!」
「そうだな。」
「もう、こうなったら何でもありね。」
彦田と納言は部屋を出た、舞子はパソコンをシャットダウンさせて勉強に戻る。
「東大合格のためなら、色んな方法をする。夢への道はいくつもあるから、ただそれのどれかを選んで進んでいくだけなんだ・・・・!」
もう六回も落ちている舞子は、とにかく夢に近づくためにチャレンジする気持ちでいた。そんな舞子をドアの隙間から覗いていたのは、董だった。
「舞子さん、あなたはそこまで合格に賭けているのですね・・・。そう思うと、これを渡すのが・・・。」
董の持っているお盆には冷たいココアが載っていた、董はそれを自ら飲み干して、ハンカチで口を拭うと、キッチンへと戻って行った。
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