第12話妨害と貫徹の攻防(前編)

 舞子と彦田と納言が栄光塾に通い始めてから三週間、栄光塾に入ろうとすると入り口で二人の男性が口論しているのが三人の目に留まった。

「あの二人何を揉めているんだ?」

「そんなこといいわよ、勉強しましょ。」

 舞子と彦田と納言は中へ入ると、所定の位置について勉強を始めた。しかし二人の男性の口論が、小さくながらも耳を煩わしくさせるので、集中できない。

「あの、さっきから気になっているけど、入り口の二人はさっきから何を言い争っているの?」

「ああ・・・、塾長とこのビルのオーナーがね・・・・いや、そのことは気にしないでくれ。今は夢のために、頑張ろう!」

 寺沢に言われて舞子は集中を取り戻した。そして帰宅時間になった時に、舞子は講師たちの小さな噂話を耳にした。

「この塾大丈夫かな・・・?」

「このビルのオーナーが、ビルを売却しようとしているってなあ・・・。塾長とオーナー、仲良かったのに一体どうしたんだ?」

「何でも噂では、沖浦株式という会社から一千三百万売ってくれと持ち掛けられたらしい。」

「えっ、このビルにそんな価値があるのか?」

 舞子は沖浦株式の名前が出た時、一瞬だが胸騒ぎがした。

「どうして沖浦株式が、このビルを・・・・?まさか・・・・いやそんなこと・・・。」

「舞子、どうした?」

 背後の彦田から急に声を掛けられた。

「ううん、何でもない。さあ、帰ろう。」

 舞子は胸騒ぎを封印して、彦田と納言と一緒に帰宅した。そして帰宅すると夕食を食べ、再び勉強に取り掛かる・・・。

「・・・・・はっ!!いけない、集中しなくちゃ!」

 舞子はこのところ急に襲う強い睡魔と戦っていた、この眠気の原因は分かっていない。

「最近夕食後になると、いつもこうだわ・・・・。見えないところで何かが起きているとしか思えない・・・。」

 舞子は疑問を噛みしめながらも、巻き戻しのできない時間を大切に、猛勉強に励んだ。



 そして一週間後三人が栄光塾に向かっていると、ビルの入り口に大勢の人たちと引っ越し用のトラックが集まっていた。

「何だこの騒ぎは・・・?」

「何か嫌な予感がする・・・・。」

「一体どうなっているんだ?」

 三人がビルの中に入り、栄光塾に向かって行った。そして入り口付近で、多くの塾生が集まっていた。

「やっぱり何かがおかしいよ。」

「トラブルがあったのかな?」

「私ちょっと聞いてくる。」

 舞子は入り口にいる一人の少年に質問をした。

「ねえ、一体どうしたの?」

「ああ、さっきから栄光塾の扉が開かないんだ。もうすぐ塾が始まる時間だというのに・・・。」

「えっ、そんな・・・。」

 その時、舞子の胸に封印されていた胸騒ぎが解放された。やはり最悪の結末になったと、心が訴えてくる。

「そんな、どうして・・・・。いやこれは何かの間違いよ、まさか栄光塾が無くなるなんて有り得ない、ビルの入り口で見た群衆とトラックはきっと別の所よ。」

 舞子は最悪のシナリオに負けないよう、希望を作った。しかしその希望は、後に砕かれることを知る。舞子が彦田と納言と一緒に塾が開くのを待っていると、一人の男がやってきた。

「君達、こんな所にいないでこのビルから出ていってくれ。」

「えっ、どういうことですか!!」

「このビルは沖浦株式商事の所有物のなった、もう栄光塾は潰れたんだ。」

「そんな、急すぎる!!」

「塾長はどこに行ったんだ!!」

「おい、今までどれだけこの塾に金払ったと思っているんだ!!」

 塾生達は騒ぎだしたが、舞子と彦田と納言は漠然とした。

「本当に栄光塾が無くなってしまうとは・・・・。」

「それに沖浦株式商事の所有物って・・・・、どうしてよりによってこのビルを・・・?」

「やっぱり、誰かが邪魔をしている!邪魔をしているのはまさか・・・!?」

 舞子は最悪の予想を声に出すことが出来なかった、そしてエレベーターの方へと足を運びながら、彦田と納言に言った。

「もう帰りましょ・・・。」

「そうね・・。」

「ああ、そうだな。」

 舞子と彦田と納言は、残念を背中で語りながら帰宅した。


 午後十時、彦田と納言は勉強をしていたが舞子は遅めの夕食を食べていた。しかし舞子はここで、料理を持ってきた金田に質問をした。

「ねえ、金田さん・・・。勘違いなら謝るから、質問していい?」

「ん?何でしょう?」

「最近、夕食後に急に眠くなることがあるの。まさかとは思うけど・・・?」

 そう言うと、金田の表情が変わった。

「まさか、そんなこと無いよ!!」

「でも本当に金田さんは、何もないの?」

「もちろん!!」

「じゃあ、取り皿とナイフとフォークとスプーンを用意して。」

「えっ?どうするのですか?」

「この料理を、あなたと食べるの。そしてもし二人とも眠くならなければ、あなたの疑いは晴れるわ。」

「そ・・・それは・・・。」

「どうして私の賭けにのらないの?」

「・・・・・ご主人様には、敵いません。」

 金田は崩れ落ちると、舞子に全てを話した。

「実は杉浦から命令されていたんです・・・、舞子と彦田と納言に勉強を集中させないように、微量ながら睡眠薬を入れていました・・・。」

「やっぱり・・・・。」

「申し訳ありません!!私は料理人として、あってはならないことをしてしまいました・・・。」

「いいわよ・・・・もうわかっていたから・・。」

「へ?」

「泰三が私の東大受験を快く思ってないことは・・・、知ってる。杉浦は今でも泰三の執事だから、きっと妨害の指示を出しているのわ。」

「舞子様・・・。」

「あなたは気にしなくてもいいわ、私はただ貫いていくだけ・・・、そう夢に向かって。だから今は、あまり災いを起こしたくないわ・・・。だから気にしないで。」

「・・・ぐすっ・・・ありがとうございます。でも、自分の責任は取らせてください。」

「わかったわ。」

 そして舞子は夕食を食べることなく、自分の部屋へと戻って行った。

「おじいちゃん・・・、どうしてそこまで私の夢に反対するの?跡は継ぐというのに、どうして東大に入っちゃいけないの!!」

 舞子は自分の部屋で泣き崩れた、でもその後すぐに舞子の心に、覚悟が訴えかけた。

「・・・・今はそんな悲しみに浸っている場合じゃないわね、今の私は何があっても貪欲に東大合格を目指していくだけ、今は周りに惑わされない、例えおじいちゃんを敵に回しても私は進む、この道を!!」

 舞子は熱のこもった役者のように言うと、机に向かって勉強を始めた。




 翌日の午前十時、杉浦はリビングで泰三と電話をしていた。

「杉浦、舞子たちは勉強を諦めたか?」

「いえ、まだです・・・。」

「もっと早くできないのか!!あの三人には今すぐに、現実を見てもらわなくてはならないんだ!!」

 泰三の怒鳴り声が、杉浦の鼓膜に刺さる。

「わかっています・・ただ舞子様はこちらの様子に気が付いている様です。」

「何だと!!」

「実は数分前の事ですが、シェフの金田が辞めました。その時あいつは、責任を取るためですと言っていたので、おそらく昨日舞子か誰かに問い詰められたのでしょう。」

「うううーーーっ、もういい。引き続き、妨害を続けてくれ。」

 ここで通話は切れた。




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