第11話阻む思惑

 亀度天神社で合格祈願を終えてからも、舞子と彦田と納言は東大合格に向かって勉強に励んでいた。ところが舞子が勉強しようとした時、「栄光塾」から貰った参考書が無くなっていることに気づいた。

「おかしいなあ、机の本棚に置いておいたのに・・・。」

 机全体を探すが見つからない、すると彦田と納言が慌てて部屋に入ってきた。

「ねえ、舞子。参考書知らない?ほら、栄光塾から貰ったもの。」

「私と納言の。何処かで見てないか?」

「見てないわよ。・・・・ていうか二人のも無くなっているの!?」

「舞子、あんたもか!!」

「うん、一体どうして?」

 舞子が困惑していると、納言がふと考えた。

「ねえ、誰かが持ち出して処分したんじゃない?」

「誰かって・・・・あっ、杉浦だ!!」

 舞子は杉浦の所へ向かった、杉浦ならこの家全体を把握しているし、そもそも部屋全体の鍵は全て杉浦が管理している。おそらく泰三から命令されたのだろう・・・。舞子は、金田と清水と一緒に休憩している杉浦を見つけて、問い詰めた。

「杉浦さん、あなたでしょ?」

「舞子様、どうなさいましたか?そんな疑りの目なんかして・・・。」

「しらを切らないで!!私とパパとママの参考書を捨てたのはあなたということは分かっているんだから!?」

「参考書ですか・・・、それはどのような参考書ですか?」

「どんなのって、表紙が青で裏が黄色で、栄光塾のロゴマークが表紙に張ってあるものよ!!」

「私は知りません。もしかしたら、栄光塾に置き忘れたのではないですか?」

「そんなことは無い。昨日、私とパパとママも栄光塾から持ち帰っているわ。」

「ふむ・・・・、清水さんが掃除していた時に誤って捨ててしまったとは思えませんし・・・。」

「えっ、清水さんが入っていたの!?」

「はい、掃除をしていたもので。」

「でも清水さん、どうやって部屋に入ったの?」

「普通にドアを開けて入りました。」

「えっ!!でもこの家の部屋は、全てに鍵が掛けられるようになっているはずよ。」

「舞子様にはまだ話していませんでしたが、三年前にちょっとした改築工事をしまして、その時に鍵の種類を変えたのです。」

「鍵の種類を変えた?」

「三年前までは私がカギを管理していましたが、内側からのみ鍵を掛けられるタイプに変えたのです。つまりあなたが内側から鍵を掛けない限り、あなたの部屋には私もこの二人も入る事が出来るのです。」

 そういえばいつも鍵が開いていたので、てっきり杉浦が掛け忘れていたのかと思っていた。

「つまり・・・、杉浦が私とパパとママの参考書を処分したとは断言できないということ・・・?」

「そうです、でも無くしてしまったのでは仕方ありません、栄光塾の電話番号を教えて頂ければ、私が連絡いたしましょう。」

「もういい、連絡は自分でする。」

 舞子はそう言って自分の部屋へと戻って行った。彦田と納言が話しかける。

「どうだった?」

「杉浦さんは、どう言っていたの?」

「三年前に鍵を変えたから、杉浦が絶対に私達の参考書を捨てた犯人とはいえないって。」

「ああ、そうだったね。」

「えっ、知っていたの!?」

「うん、舞子は確か小学生の頃から来なかったから知らなかったわね。」

「そうだった・・・・。」

「でも、だったら一体・・・?」

 舞子と彦田と納言は考えたが、犯人が思い浮かばない。

「なんか、考えていても仕方ないね。ていうかそんな場合じゃないよ!!」

「そうだなあ・・・、じゃあ別の方法を考えよう。」

 そして舞子と彦田と納言は、頭を切り替えて勉強へと行動転換した。



「ほう、こんな時に合格祈願とはなあ・・・・、季節はずれもいいとこだ。」

「ええ、それと栄光塾という塾にも通っていることが分かりました。」

 保永は泰三に、これまでの調査結果を報告していた。ちなみに東京スカイツリーで、舞子と彦田と納言と刈谷を覘いていたのは保永である。

「栄光塾・・・・、確かあそこは東大合格者が多いという事で有名な塾だな。舞子の奴め、気合が入っているなあ。」

「後、舞子を再び夢の道へといざなった張本人なんですが・・・。」

「ほう、分かったのか?」

「舞子の勤めている沖浦堂の社員・田原美咲だということが分かりました。」

「何!?あの田原だと・・・。」

「泰三様・・・、どうしましたか?」

「実は・・・あいつには因縁がある。」

「因縁・・・、どういうことですか?」

 ここで泰三は咳払いをした、そして自らの過去について話し始めた。

「実は私は妻が無くなった後、行きつけのバーで田原梢という美人と知り合った。梢は生い立ちが貧しい上に父を早くに亡くしてしまったので、金持ちで頼れる私に惹かれていった。しかし私は結婚する気が無く、梢のプロポーズを何度も断った。そして知り合って一ヶ月後、梢は強引に私にアプローチをしたことで、バーのオーナーから解雇を言い渡された。そして、その翌日に梢は自殺した。そして時は流れて、私はトラベルアンカーの業績を祝うパーティーに参加していた。そして談話していた時に、突然背後から殺気を感じたので避けたら、ステーキナイフを持った女性が鬼の形相で体を震わせていた。そしてその後、私はその女性が梢の妹・美咲だということを知ったのだ。」

「それじゃあ、美咲は梢の敵討ちに・・・。」

「そうだ、私は梢に対するせめてもの罪滅ぼしに、美咲を警察には突き出さずに沖浦堂に異動させたのだ。美咲に告げた時に「梢は・・・、せめて私は幸せになってほしいと、東大の学費を私に渡していました。おそらく泰三社長に縁を迫ったのも、そのためでしょう・・。よく考えれば、東大に通いたいという望みを持った私にも、少なからずいけないところがありました。そんな私を許し、刑務所に入れない寛大な処置をしてくれたこと、誠にありがとうございます。」と言って去ったそうだ。」

「何だか、悲しい因縁ですね。」

「そんな田原が関わっていたとは・・・・、これは早急に何とかしないとな。」

「もしかして、追加の依頼ですか?」

「そうだ、その前に君には渡すものがあったな。」

 泰三は分厚い封筒を保永に渡した。保永は封を切って中を確認した。

「ありがとうございます。」

「追加の依頼だが、田原美咲の今の居住情報についてと、栄光塾があるビルの持ち主について調査することだ。」

「かしこまりました、それでは失礼します。」

 保永は部屋から出ていき、依頼された調査へと向かった。

「田原・・・そなたとは、本当に奇妙な縁で繋がっている。しかし今回の件は、以前のような寛大という訳にはいかないぞ。そなたは私の、未来理想に関わったのだからな。今度こそは、私の前から完全に消してくれる。」

 泰三はふとあの頃の梢が、頭の中に思い浮かんだ。親の愛を失っていた梢は、私を父の代用として愛して欲しかったにすぎない。だから泰三は梢を振ったのだ。

「舞子よ・・・私の目が黒いうちは、思う通りに行くと思うなよ。」

 泰三は心の中で、拳を握りしめたのだった。




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