第10話夢の道に潜む影
東京都港区白金台にある沖浦泰三の別居宅、そこでは泰三が探偵・保永義男と話をしていた。
「つまり私は、何故娘の舞子様が勉強を始める気になったのか調査すればいいのですね?」
「ああ、よろしく頼む。」
泰三は昨日、杉浦からの電話で「舞子様が再び勉強を始めた、止めようとしたが彦田と納言にはばかれた。」と連絡を受けた。この時は杉浦に「とにかく傷つけない範囲で、手を尽くして止めさせろ。」と連絡をした。
「ところで一つ疑問があるのですが・・・・、泰三様はどうしてそこまで、舞子様が勉強するのを拒むのですか?」
「舞子は確かに跡継ぎだが、あくまでつなぎに過ぎない。康太が三十になるまでの、代用という事だ。これ以上勉強して、何の意味があるというのだ・・・・。」
つまり泰三としては舞子に、早く仮の跡継ぎになってほしいという事だ。
「そもそも跡継ぎというのは男性がなるべきものだ、女性が勤めるのはあくまで苦肉の策である。」
「分かりました、では調査を始めます。」
保永は泰三の家を出た。
その頃舞子は、沖浦堂でパソコンとにらめっこをしていた。
「そういえばもうすぐ大型連休よね?」
「どこへ行こうかしら・・・?」
社内では、ゴールデンウイークの過ごし方について密かに盛り上がっていた。
『ゴールデンウイークか・・・・、そういえば今までゴールデンウイークは、勉強ばかりだったわね・・・。』
彦田と納言が若返る以前の時、夢を持ち始めた頃から舞子は連休は家に閉じこもって勉強をしていた。そしてゴールデンウイークが明けた時、周りが「どこどこに行った」という自慢話を、舞子は馬耳東風の如く聞き流していた。そして昼休憩の時、舞子は田原にふと質問された。
「あなたはゴールデンウイーク、どう過ごすの?」
「えっとー、勉強してます。」
「ハハハ・・・・・、あなたって本当に勉強ばかりね。」
田原は苦笑いをした。
「私、東大に行くために勉強をずっと欠かす事無くしてきました。」
「うーん、それはいいことだけど・・・。」
「どうしたんですか、田原先輩?」
「たまには気分転換に旅行に行ってもいいんじゃないかな?」
「そんな、どうしてですか?」
「勉強ばかりしていたら、頭が凝り固まって集中できないじゃない?」
確かに、根詰めて勉強しているとウトウトしてしまう。
「そんなときにはリフレッシュが必要よ、ちなみに私は読書をしているわ。」
「なるほど・・・、でも旅行って言われても随分してないから、何処へ行けばいいのか分からない。」
「うーん、ちょっと待って。」
田原はスマホをカバンから出すと、Googleで何かを調べだした。
「先輩?何を調べているのですか?」
「舞子、もし旅行に行くなら日帰りがいい?」
「ええ、それがどうしました?」
「せっかくだから合格祈願したほうがいいんじゃないなと思って、この辺りの神社を調べていたの。」
「でも私、パワースポットとかスピリチュアルていうの信じないなあ・・。」
「パワースポットもスピリチュアルってバカにできないのよ、私だって受験生の時は明治神宮で合格祈願したものよ。」
「でもただ合格祈願するのもねえ・・・、近くに観光地があるところがいいなあ。」
「そうね・・・・だったら亀戸天神社はどう?」
「亀戸天神社ですか?」
「ええ、近くに東京スカイツリーがあるわよ。」
舞子は田原のスマホのグーグルマップを覗き込んだ。
「ほんとだ!」
「行くかどうかはあなた次第だけど、興味が出てきたでしょ?」
「はい、両親と相談してみます。」
「そういえば引っ越してから、両親はいつも家にいるの?」
「うん、家事は家政婦がしてくれるけどママが毎日手伝っている。パパはなんか、童心に帰ってはやりの漫画を集めだした。でも二人とも、勉強は欠かして無いわ。」
「そうか・・・、私も若返ってみたいなあ・・・。」
「田原先輩は別に若返る必要ないですよ、まだまだ若いから。」
「それもそうね、あなたの両親を見ていたら若返らないほうがいいかもと、思うわ。」
「あっ、もう昼休憩終わりだ。先に戻っていますね。」
そして舞子は、職場へと戻って行った。
翌週の日曜日、舞子と彦田と納言は亀戸天神社に出かけて行った。もちろん移動は、刈谷の運転するベンツである。
「それにしても、三人で旅行なんて久しぶりだな。」
「そうね、いつも舞子の将来の事しか頭に無かったわ。」
「今日は勉強の事は置いておいて、リフレッシュするわよ。」
舞子が張り切っていると、刈谷が口を挟んだ。
「それにしても日帰り旅行に行くと言われて、何処かと思えば合格祈願の神社とは、驚きました。」
「もちろんそれもそうだけど、祈願を終えたら東京スカイツリーへ行くわよ。」
「そういえば、東京スカイツリーに行くのは初めてだな。」
「東京タワーは修学旅行で行ったことあるけど、一体どんな景色かしら・・・。」
「パパ、ママ。まずは合格祈願からね?」
舞子は彦田と納言に、優しく釘を刺した。
家を出てから一時間後、亀戸天神社に到着した。ここは一月から二月にかけては合格祈願の受験生で溢れているが、この時期は漠然とするほど人気が無かった。
「本当に人がいないね・・。」
「でもそれだけお参りしやすいという事よ、さあ行こう!」
舞子と彦田と納言は、社にお参りをした後、合格祈願のお守りを購入した。神主さんに合格祈願に来た事を話すと、「こんな季節に珍しいなあ・・。」と驚いた声で言われた。
「やっぱり人気があるのとないのとでは違うわねえ・・・。」
「そういえば懐かしいなあ、お守りって。亀度天神社ではないけど、学生の頃に神社でお守りを一つだけ買って、合格出来たら必ずするご褒美を紙に書いて、お守りの中に入れていたなあ。」
「そんなことしてたんだ、でも結局できなかったんだよね?」
「ああ、きっぱり諦めることを決めた時は、泣きながらお守りをくずかごに捨てたよ。」
「ちなみに、そのお守りに入れた紙にはなんて書いたの?」
「えっと・・・・・、覚えてない。」
「えー!!気になるーーー!」
「無理よ舞子、その記憶は悔し涙と一緒に流しちゃったのよ。」
納言が言うと、彦田は「上手い!」と額を叩いた。その様子に舞子と納言は、くすくすと笑った。そして三人はベンツに乗り込み、東京スカイツリーへと向かった。
東京スカイツリーに到着すると、舞子は刈谷も誘って中に入った。
「うわあ、ここがスカイツリーの中か・・・。」
「広いなあ・・・。」
「ここはいつも人が多いわね、気をつけないとはぐれそう。」
「有名な観光地ですからね。」
四人は高速のエレベーターに乗って、展望エリアへと昇って行った。展望エリアからは、周囲の様子がくっきりと見え、鳥のような感じがした。
「うわあ、高い!!」
「東京タワーよりも、良い眺めだ。」
「ねえねえ、ここから東大が見えるかな?」
「さあ、どうでしょう。」
四人は談話しながら展望を楽しんだ、四人を覘く人影に気づくことなく・・・・。
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