第6話優美と束縛の引っ越し
自宅に戻ってきた舞子・納言・彦田の三人は、取り敢えず話し合う事にした。
「ねえ、おじいちゃんの言う事は必ず聞かなきゃダメなの?」
「ああ、今まで自分の会社と家族を養い守ってきたからな、その自負がとにかく強いのだ。」
「でも、私達だって家族なんだよ!!本当に家族のことを思っているなら、私達の言い分も聞いてよ!」
「そうなんだがなあ・・・、取りあえず検討するという事で時間を先延ばしにしよう・・・。」
「あの・・・一つ言ってもいい?」
納言が俯きながら手を上げた。
「ママ、どうしたの?」
「私・・・・、泰三の家に行ってもいいと思うの。」
「えっ!!どうしてよ、あんなにおじいちゃんの前で夢を諦めないとか言っていたのに!!」
「もちろん夢は諦めない!!けど、状況が変わって今のままでは夢を目指せなくなったの・・・。」
「どういう事…?」
「私も・・・会社をクビになったの。」
「えっ、舞子もか!!一体どうして?」
彦田が尋ねると、舞子はこう答えた。
あの時、納言は出社してすぐに社長室に呼び出された。そこには社長と三十代前半の男がいた。
「納言、君には月末で会社を辞めてもらう事になった。」
「そんな、急すぎます!どうして辞めなければならないのですか?」
「彼は日御碕達也と言って、同業から引き抜いてきた社員だ。」
社長に言われて日野崎はお辞儀をした。
「彼はとても優秀で、我が社で有意義な新企画を実行しようと提案してきた。もちろん実行するつもりだが、我が社にはもう場所が無い。」
「まさか・・・私が今いる部署を無くして・・・。」
「その通り、君以外の社員については今後のことについて話し合うつもりだが、君は十七歳が故に残念ながら、解雇確定になった。」
納言は悔しながらも現実を受け入れた、仕事が出来たとしても法的制限のある私はどのみちお荷物なのだから。
「・・・わかりました、解雇を受け入れます。」
「私も正直残念だよ、君が若返らなければまだまだ戦力として活躍できたのに・・・・。」
そして舞子は社長室を後にした、舞子からの電話はこの十分後のことである。
「確かに、君は会社での立場が弱くなっていたからな・・・・。」
「そんな・・・、社会はどうしてこんなに冷たいのよ・・・・。」
舞子はショックに打ちひしがれて、泣き崩れた。
「ごめんね・・・、あなたの夢の足手まといになってしまって・・。」
納言も泣き崩れて、舞子の前で土下座した。結局三人は泰三の家に行くことを決め、そのための準備を始めたのだった。
「彦田か、話し合いはどうだった?」
「・・・全員でそちらの世話になることにした。」
「そうか、それでいつ頃こちらに来れるのか?」
「二日後には行けそうだ、今荷物をまとめているところだ。」
「そうか、それじゃあ用意が出来たらまた電話を掛けるようにな。」
「分かりました。」
そして彦田は電話を切った、そして引っ越し業者に電話した。
舞子はコンビニに行って、店長の桐谷にバイトを辞める旨を伝えた。
「そうか、祖父の所で暮らすことになったのか。」
「はい・・・。今までありがとうございました。」
「まあ、東大を目指す生活は続けるんだろ?」
「はい。」
「いつかは合格できるんだから、頑張れよ!」
桐谷は勇気づけるように言った、舞子には「応援ありがとう!」と「無責任な事を言わないで!!」の気持ちが混ざり、その日の仕事中はずっと無口だった。
納言は昨日徹夜して書いた辞表を、社長に提出した。
「月末まで良かったけど、本当にいいの?」
「はい、これからは新しい場所で頑張ろうと思います。」
「まあ早々に問題が解決して、君には悪いけど有難いことだ。辞表を受理することにするよ。」
「ありがとうございます、今までお世話になりました。」
そして納言は淡々とした足取りで、勤めていた会社から去っていった。
そして家の大掃除と身の回りの整理を終えた舞子・彦田・納言は、引っ越し祝いにデリバリーで買ったお寿司を食べていた。ちなみにそれぞれまとめた荷物は、引っ越し業者に泰三の所に送るように頼んでおいた。
「パパ、この家はどうなるの?」
「売りに出した、将来の貯金のために。」
「せっかくのマイホームなのに・・・。」
「いいのよ、どのみちローンは払い終えていたし。」
彦田と納言はケロッとした態度だ、しかし舞子にとっては生まれてきてからずっと住んできた家のため、寂しいものがあった。
「ねえ、これからおじいちゃんの家でどんな暮らしをするんだろう・・・?」
「僕は慣れているからいいけど、納言と舞子が心配だ。」
「どういうこと?」
「父さんは頭が古いというか・・・、とにかく規則に厳しいんだ。そう言えば本当の高校時代に友達とカラオケにに行ったんだけど、連絡した時間より帰宅が遅れてしまい父さんにこってり怒られてしまったなあ・・。」
「本当に厳しかったんだね・・・。」
「しかも一緒にいた友達の電話番号を教えろと言われたんだよね・・・。」
「それで教えたの?」
「うん、そしたら友達を電話に引きずり出して、こってり叱ってた。」
「ヤバイよそれ・・・。」
舞子は唖然とした。
「それで友達全員無くした、オヤジが怖すぎるって。」
「今じゃ到底あり得ないわねえ・・・。」
舞子は泰三の厳しさに、震えあがった・・・。
翌日、泰三から「荷物が届いているから、車を向かわせる。」との電話があった。二十分程して、刈谷の運転するベンツが家の前に停まった。
「もう、この家ともお別れだね・・・。」
舞子は寂しさをしみじみ感じながら、ベンツに乗り込んだ。そしてベンツは三日前と同じ道を走り、泰三の家に到着した。
「彦田夫妻と娘・舞子様が到着されました。」
三人がベンツから降りると、執事の杉浦と男女一人ずつがお辞儀をした。
「お迎えありがとう。」
「杉浦さん、その二人は誰?」
「彼はこの家の専属シェフ・金田洋一、そして彼女が家政婦・清水董です。これからは二人とこの杉浦が、お世話をさせていただきます。」
金田と清水は、三人に挨拶をした。
「父さんはいるの?」
「いえ、泰三様は港区の方に移られました。」
「そうか・・・、じゃあ入ろう。」
三人は杉浦の案内の元、家の中を一通り案内された。舞子の部屋もあり、彦田が買ったマイホームのよりも一回り広い。
「ここが舞子様の部屋です。」
「うわあ・・・、広い。」
「ここはかつての、彦田様の部屋でございます。」
確かに部屋の所々に男子っぽい何かを感じる。
「舞子様、荷物を出し終えたら私に声をかけてください。私はリビングで待っております。」
「分かりました。」
舞子は部屋に置かれた自分の荷物が入った段ボールを開け、荷物を部屋の中に入れた。三十分で終わり、舞子はリビングルームに向かった。そしてテーブルに座っている杉浦に声を掛けた。
「杉浦さん。」
「おお、終わりましたか。」
「話しって何?」
「舞子様の就職先のことです。」
「え・・・・・嘘でしょ・・・。」
舞子は呆然とした。
「本当です、泰三様の経営する「沖浦堂」の本部の社員として働くことになりました。」
「ちょっと待ってよ!!私は、東大卒業まで就職しないことにしているの!」
「舞子、もうわがままは止めなさい!」
杉浦の隣にいた彦田の怒鳴り声に、舞子は声も出なかった。
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