第5話囚われる家族

 静江と康太が家に来た日の翌日から、沖浦家の生活は一変した。朝ご飯の後、少女の納言が出社して、家には舞子と青年の彦田がいた。

「ハアーーーーッ、本当にいいことないなあ・・・。」

「若返ってからということ?」

「そうだよ、あの時はまたパーッと楽しいことができると思っていたのに、いざそうなったら、会社はクビになる・親友とも遊べない・就職できる会社が無い!本当に嫌になってしまった・・・・。」

 確かに自分が若返っても時代が戻るわけではないので、ギャップの差が大きく出るのだ。

「ていうか、親友と遊ぼうと思ったの?」

「そう、当然だがみんな若返った私を見て凄くびっくりしてた。それで会おうと誘ったのだが・・・、仕事があるとかで皆から断られ、ある親友の一人から『飲みに誘えなくなって残念だ。』って言われたんだ!」

 彦田は、哀れな自分に号泣した。

「ああ!またみんなと飲みに行きたい!!」

「ダメ!また警察に捕まりたいの?」

 彦田は一昨日、会社をクビになったショックで自分が十七歳なのを忘れて、居酒屋で店主と口論したあげく飲酒したという、出来事があった。

「何でだよ・・・何で十七歳なんだよ!!何でニ十歳以内にしてくれなかったんだよ!!」

「ダメだこりゃ・・・、それよりバイトはどうするの?」

「それが・・・・、始めようとしても面接で必ず落とされてしまうんだ。」

「は?どういう事?」

「面接の時に履歴書を見せるんだけど、若返ってしまったせいで会社で働いていた時期と、私の年齢が合わないんだ。私が『実は若返ってしまいました』と説明しても、誰も信じてくれなくて、挙句には『履歴書を詐称するな!』と怒られてしまうんだよ・・・。」

 舞子は納得した、若返っても過去が変わる訳ではないので、どうしても若返る前の出来事は信用されない。つまり若返っても、結局変わるのは自分だけなのだという事だ・・・・。

「じゃあもう、履歴書を作り変えるしかないね。」

「えっ、そんなことしていいのか!!」

「仕方ないよ、若返ってしまったんだから今の時間に合わせないと。」

 舞子はそう言って、自分の部屋へと行った。



 午前十一時半、勉強に打ち込み頭がクラクラな舞子の所に電話がかかった。ため息をつきながら、舞子は受話器を取る。

「もしもし。」

「舞子、久しぶりだな。」

 低い老人の声に舞子の目が覚めた、電話の相手はあの泰三だった。

「おじいちゃん!!」

「静江から話は聞いた、まさかあの二人が若返ってしまうとはなあ・・・。正直、腰を抜かしてしまったわい。」

「何の用事ですか?」

「静江から言われているだろう・・・。」

 舞子はついにあの時が来たという事を察した。

「分かった、いつ行けばいいの?」

「その心配なら無用だ、午前十一時に車を家の前に来させるからそれに乗って来るがいい。」

 泰三は会社を五つも持っている有名な「沖浦株式商事」の会長、だから車で客を迎えるのは当たり前の事なのだ。

「分かった、でも家には私とパパしかいません。」

「納言は仕事か・・・、なら早退してくるように伝えなさい。」

「分かりました・・・。」

「遅れないように、頼むぞ。」

 そして泰三からの電話は切れた。

「舞子、もしかして今の電話は・・・?」

「うん、ついに来たみたい。」

「なら行くしかないか・・・。」

 彦田は着替えている間に、舞子は納言に電話を掛けた。時刻は午前九時三十五分、かなり急だが十一時までには間に合いそうだ。

「もしもし、ママ?」

「舞子じゃない、こんな時間にどうしたの?」

「実はさっき、泰三から電話が来た。午前十一時に車が来るから、来るようにだって。」

「は?そんな急に!?」

「とにかく会社を早退してでも、来るようにだって。」

「全くほんと強引なんだから・・・・分かった、すぐに行く。」

「会社に迷惑かけることになってごめんなさい。」

「いいのよ、彦田の父の事は会社に話してある。会社の上の人、全員震えてたから。」

 舞子は以前泰三の家に集まることになった時に、会社に有給を申請した。その時会社は有給を出すことを渋っていたが、「沖浦株式商事」の名前を出したらあっさり有給を認めた。

「それじゃあね・・・。」

 舞子は電話を切った、そして重苦しくなる不安を受け入れる覚悟して、着替えをしに自分の部屋に入った。



 そして午前十時五十分に納言は帰宅した、そして午前十一時きっかりに家の前に黒塗りのベンツが停まった。

「彦田様・納言様・舞子様、どうぞ乗車して下さい。」

 運転手の刈谷が、ベンツから降りてお辞儀をした。

「刈谷さん、すみません。」

「気になさらずに、仕事ですから。」

 そして三人はベンツに乗っておよそ一時間、東京都文京区本郷にある泰三の家に来た。泰三の家は金持ちに相応しい豪邸で、しかもこれと同じのを別宅として東京都港区白金台に持っている。到着すると三人はベンツから降りて、玄関に立った。そして泰三の執事・杉浦に三人は案内され、泰三のいる応接間に通された。

「彦田に納言、急に呼び出して申し訳ない。というか、本当に若返ったことを改めて知ったよ。」

「はい、私も納言もどうしてこうなってしまったのか・・・・。」

「彦田、会社を解雇されたそうだな。」

「はい・・・。」

「まあその年になってしまったのなら仕方ない事だが、警察沙汰を起こしてしまった事については感心せん事だ。」

「えええええーーーー!!どうして、そのことを!?」

「ニュースで知ったわ。まあ、あの時は他人の空似がしたことだと思っていたがな。」

「おじいちゃん、それで話って何なの?」

 舞子が声を掛けたが、泰三は無視した。

「納言、お主は運よく会社に残れたようだが、舞子の夢を叶えさせるのは不可能になってしまったようだな・・。」

「いいえ、私はまだあきらめません!」

「ほう、貯金のほとんどを搾取されて若返ってもなお、娘の夢の肩を持つというのか・・・・・。」

「私は舞子が堂々と生きるため、そして舞子の夢を叶えるために何だってする!例えあなたに妨害されたとしても!!」

 納言は誇りと気合を込めて言った、泰三は少し顔を歪ませると三人に言った。

「では本題を言おう、これからお前たち三人は今住んでいる家を引き払って、ここで生活せよ!!」

「えっーーーーーーーーー!!」

 三人は目玉が飛び出る程驚いた。

「そんなあ!父さん、急すぎます!!」

「仕方ないだろ、お前と納言は大人ではなくなってしまったんだからな。」

「でも、私だってバイトをしていますし、節約などで工夫すればあの家でちゃんと生活できます!」 

 舞子が言うと泰三は、鋭い目を舞子に向けて言った。

「せっかく私の後が継げると言うのに・・・、お前は未だに東大の夢を見ているのか・・・。」

「私は東大の夢を叶えたい、おじいちゃんの後を継ぐのはその後だから!」

「これまで六回も試験に落ちたというのに、そのくじけない心は見事なものだ。だが私には今すぐにでも後を継いで欲しいのだ、そのために舞子をここで生活させる!」

「でも・・・。」

「問答無用!!家に戻ったら、いつでも行けるように準備しておけ!!」

 泰三の気迫に舞子は何も言い返せなかった、そして三人は再びベンツに乗って家に帰っていった・・・・。





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