第4話絶望の目覚め
翌日、舞子と納言は彦田を床に正座させて、昨日何故警察の厄介になったかについて問い詰めた。
「実は・・・昨日仕事に行ったときに、一応若返ったことについては周囲に話したんだ。それでお昼が終わった時に、何故か社長室に呼び出されたんだ。それで社長から・・・、『会社を辞めてくれ』と言われたんだ!!」
最後の方で、彦田はわんわんと子供のように泣き出した。
「ええ!!だって、おかしいよ!ママは異動になったけど、クビにはならなかったのに!!」
「舞子・・・これはおそらく会社の大きさの問題よ。」
「どういうこと?」
「私の会社はあまり有名ではない中小企業だから、従業員を失う事を考えてそう簡単に解雇は出来ない。けどパパの会社は世間じゃ知らない人がいない大企業、世間体や深夜労働の禁止も含めて、パパを切り捨てたんだと思う。」
「そんな・・・それじゃあ、これからの収入はどうすればいいの!?」
舞子の東大合格に向けて、これまで沖浦家では貯金をしてきた。しかし納言の移動と彦田の解雇により、貯金額が大幅に下がることは間違いないことだ。
「もう・・・舞子を東大に入学させるのは・・・。」
「ええ・・・もしかしたら・・・?」
舞子はこんなにも絶望的な両親を見た事がなかった、舞子に漠然とした不安が訪れた。
それから一時間後、インターホンが鳴った。
「ついに来たわね・・・。」
「ああ・・・。」
「受け入れてもらえるかしら・・・。」
このインターホンは、康太が家に来る合図だ。ちなみに一時間前に、康太が家に来ることは彦田と納言に伝えてある。舞子が玄関に出ると、大きな荷物を持った康太と康太の母・静江がいた。
「舞子姉さん、来たよ!!」
「こんにちわ、康太。」
「舞子さん、三年間よろしくお願いします。」
「はい、ではお上がりください。」
舞子は康太と静江をリビングに通した、すると康太と静江は目の前のテーブルに座っている、男女の高校生が目に付いた。
「ねえ、舞子。あの二人、誰?」
「もしかして、この二人は駆け落ちしたとか・・・。」
「こら!滅多なことを言わないの!!」
この二人が彦田と納言だとは、やはり思わなかったようだ。
「あの、二人に言うべきことがあります・・・。」
「何?」
「どうしたの、舞子?」
舞子はもじもじしながらも、ついに真実を言った。
「この二人は・・・・・、わたしの両親です。」
「・・・・・・・?えええええええーーーーーーーーーーー!!」
康太と静江は沈黙の後、派手に驚いた!!
「どういうことだよ!何でこうなったんだよ!!」
「それはこっちのセリフだ!」
彦田と納言が、そろって康太にツッコんだ。
舞子は康太と静江に事情を説明したが、やはり二人とも信じられない気持ちを拭いきれなかった。
「そんなことが起こるなんて・・・、事実は小説より希なりというのは本当だったんだ。」
「康太、感心している場合じゃないわよ!!舞子さん、両親が若返ってしまって生活は大丈夫なの?」
「確かに・・・ママは異動で済んだけど、パパは解雇されてしまったわ・・。」
「はい・・・恥ずかしながら・・・。」
彦田はただうなだれるだけだ。
「これはもう康太を預けられる状況じゃないわね・・・。」
「確かに。舞子姉さん、勉強しながら両親を養っていけるの?」
「康太君、何言っているの!!」
納言が叫んだ。
「えっ、何か悪いこと言った?」
「私と彦田は、高校生ぐらいまで若返ってしまっただけ。彦田だって、その気になったらバイトだって出来るんだから!!ねえ、あなた?」
「う・・うん。」
「弱々しく言わないでよ!」
納言は彦田を肘で突いた、高校生になっても夫婦の立場は変わらないようだ。
「でもあそこまで貯金出来ないでしょ、東大の学費。」
静江のセリフに納言はたじろいだ。東大は国立とはいえ年間の学費が二百万円を超え、医学部では三百万を超える。
「でも私だって自分のバイト代、学費として貯金しているんだよ。それを合わせれば・・・。」
「舞子、あなたの貯金いくら?」
納言に言われた舞子は自分の部屋へ行き、カバンから通帳を取り出して金額を見た。そして通帳をカバンにしまうと、リビングに戻ってきた。
「六十万貯まっていたわ。」
「じゃあ全然足りないわね・・・。私と彦田の預金の合計は百三十万円よ。」
「は!?どういう事よこれ!パパもママも立派に働いていたのに、どうしてそんなに少ないのよ!!」
舞子が彦田と納言を問い詰めると、静江が口を開いた。
「あの事、まだ舞子に言っていなかったのね・・・。」
「静江さん、どういうこと?」
「待って、私が説明する。」
納言は舞子の顔を見ると、こんな話をした。
元々、彦田と納言は見合い結婚で問題は無かった。しかし彦田の父・泰三は結婚する時、納言に「もし子供が中学を卒業したら、沖浦家の正式な跡継ぎとして養子に出す。」という約束をした。ところが舞子に東大入学の夢があり、自分はそれを叶えさせたいと納言が泰三に言ったところ、泰三は「東大なんて通わせるつもりは無い、舞子に諦めるように伝えろ。」と言った。しかし納言の方も食い下がり、泰三と納言は口論になった。そして納言は泰三との約束を破り、実家から今住んでいるこの家に彦田と舞子を連れて引っ越してきたのだ。それからも泰三から「子供を渡せ!!」と何度も鬼電があったりと大変だったが、話し合いを重ねてなんとか、舞子を養子に出さずにすんだ。しかし泰三からの条件で、「納言と彦田の年収の九十パーセントを貰う」という重すぎる約束をしたという事だ。
「そんな・・・おじいちゃんが、私の夢の邪魔をしていたなんて・・・。」
舞子は信じられなかった・・・・が、ここで舞子は納言にある質問をした。
「私の夢をおじいちゃんに話したの、いつ頃?」
「あなたが中学二年生の冬頃よ。」
そういえば中学三年生の時、舞子は初めて転校を経験した。そして中学の卒業式に泰三が来ていなかったことを考えれば、納得せざる負えないものがある。
「泰三はね、もしあなたが中学を卒業したら、自分の経営している会社の一つに入社させて、自分が舞子の事を一人前だと納得できたら跡を継がせたかったと言っていたわ。」
静江は舞子に言った。
「じゃあこのことを泰三に報告するわね、後で実家に行かなければならない事を覚えておくのよ。」
「分かりました・・・。」
舞子だけが返事をし、彦田と納言はただ黙っているだけだった。結局、康太を三年間沖浦家に預ける話は白紙になり、康太は静江と一緒に帰っていった。
「ねえ・・・もし実家から連絡が来たら・・・。」
「その時は覚悟するしか無いわね・・・。」
「今まで通り、勉強を続けられるかな・・・?」
「どうだろうか・・・?」
「私、もしかして東大合格を諦めなければならないのかな・・・・。そうすれば、パパもママも楽になる・・・だけど・・・・。」
舞子は葛藤の中で、絶望が芽生えていることに気が付いていなかった・・・。
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