第126話 魔神『黄昏のアラファト・ネファル』2


『リンガレング、神滅回路ロード完了』


 リンガレングの準備が整ったようだ。見た目は何も変わっていないが、おそらく中身のどこかが変わったのだろう。


『リンガレング、それでこいつにはどこか弱点はないのか?』


『ありません。少しずつけずっていくしかありません。第一形態だいいちけいたい時の魔神は物理的反撃しかしてきませんが、神滅回路により、魔神の拘束具こうそくぐを強化していますので、限定的反撃しかできないはずです』


 第一形態があると言うことはお約束の第二、第三があると思っていた方がいいな。神滅回路は攻撃用のなにかだと思っていたが、魔神の鎖とかせを強化するものだったのか。まあ、あの大きさのものに自由に動き回られたら打つ手は限られてしまうしかなり危険だ。


『魔神は一定水準まで攻撃を受けると、封印が解除され。現在の第一形態から次の第二形態に、第二形態から最終第三形態まで移行していきます。

 第二形態までは魔神はいかなる攻撃を受けても表層部ひょうそうぶに限れば簡単に再生してしまいます。しかし絶対耐性ぜったいたいせいを持つ第三形態時には再生機能を喪失します。第三形態まで魔神を追い込めば、魔神に対して特効攻撃とくこうこうげきを私が行いますのでそれで撃破できると思います』


『わかった。まずは、できるだけ初撃に全力で当たれるよう考えよう。

 まず、コロは、瘴気しょうきをヤツの足元にめてやれ。それでそれなりのダメージが入るはずだ。

 フェアは、鱗粉りんぷんをなるたけ、ヤツの頭の上に振りかけておく。

 トルシェは魔法の準備。

 アズランはいきなり『断罪の意思』でヤツの首の骨の髄を狙ってみてくれ、浅くなるかもしれないが、うまくするとヤツを下半身不随にできるかも知れない。

 これから、一分したら、そこから10数える。リンガレングは、そこでヤツの時間停止を解除してくれ。俺たちはそのタイミングで総攻撃を始める』


 フェアがヤツの頭上に飛んでいき、アズランが器用にヤツの体を這い上って、首筋に取りついたようだ。


 俺の体からも、コロからの黒い瘴気が漂い出てヤツの足元に溜まり始めた。


 今回の俺はエクスキューショナーを両手で構え、ヤツのかせのはまった足首の少し上に初撃をたたき込むつもりだ。


 前回の魔王討伐を経て、エクスキューショナーのすごみがまた増したような気がしている。もちろんリフレクターもだ。


 コロの触手もナイト・ストーカーの隙間から無数に伸びてヤツに取りついた。やはり時間停止中の相手ではいかにコロといえども捕食できないようで、魔神に何ら変化は見えない。


 リンガレングはそのままの体勢で、じっとしているが魔神の拘束具を強化し始めたのだろう。


 よし、そろそろ一分。


 頭上からアズランの、『断罪の意思』への宣言が聞こえてきた。


『10、9、……、3、2、1、今だ!』


 俺の合図とともに、リンガレングが時間停止を解いたはずだ。


 いままで赤の単一色だった巨大像は、いまは白い布地の服を着た肌の色の赤黒い魔神の姿になった。黒く見えていた魔神の手足の枷と鎖が金色に輝き始めた。


 トルシェの両手から高速で打ち出された白色の穿孔光弾が魔神の腹部に命中し続ける。


 俺の方は、全力で打ち付けたエクスキューショナーが魔神の右足首に30センチほどめり込んだのだがそこで止まってしまった。素早く引き抜きはしたが、そこから血が流れ出るわけでもなく、引き抜いた端から、癒着していき元に戻った。見た感じはまるで効いていない。それでも何度も何度も打ちつけ続けた。


 コロについて言えば、コロの瘴気しょうきは魔神の裸足はだしの足を多少は浸食したようで、腐食し紫色に変色した部分をコロの触手が少しずつ吸収しているようだがほとんど変化はない。


 瘴気に侵されていない部分は残念なことに、コロでは捕食できないようで全く変化が見られない。


 俺たちはこうして攻撃を続けているのだが、魔神はここまで全く動かない。ありがたいが、非常に不気味ぶきみだ。リンガレングの拘束具こうそくぐ強化が効いているのだと思おう。


 ふと見ると、俺の横にアズランが立っていた。俺はエクスキューショナーを魔神の足に打ち付けながら、


『アズランどうだった?』


「『断罪の意思』は魔神の首筋に簡単につばまで差し込めたんですが、全く手ごたえがありませんでした。傷口が開いたところで直接『暗黒の涙』を流し込んだところ少し効果があったようです。傷口の周辺が紫色に変色して少しずつ溶け始めました」


 暗黒の涙は、あの油ビン一本分しか用意していなかったのが悔やまれるが後の祭り。


『フェアの鱗粉りんぷんの方はどうだ?』


「見てきましたが、あまり効果はないようです」


『そうか、そこは仕方がない。少しずつでも続けていこう』


「はい」


 そう言って、アズランはまた魔神の体によじ登って行った。


『リンガレング、どうだ?』


『問題ありません。現在魔神の行動制限にリソースを99%割り当てています』


『リンガレング、頑張ってくれ。このままたたき続けていればそのうち俺たちが勝つんだな?』


『もうじき魔神の第一形態の限界が訪れます。その後魔神は第二形態に移行します。その際私の能力では魔神の行動制限が不十分です。第二形態以降十分お気をつけください』


 第二形態以降と言っていたところを見ると第三形態ではさらに厳しくなる可能性があるわけか。気を付けろと言われ「はい、気を付けます」と言うことは可能だが、いったいどう気を付けるんだ?


 そもそもどんな攻撃が来るのか不明。気を付けようがない。ここはこのまま攻撃継続一択しかないな。


 会話をしながら、考えながらも腕を動かして攻撃は続けている。


 魔神に目立ったダメージを与えているようには全くみえないが、リンガレングの言葉を信じてもう少したたき続ければ、じきにこいつは第二形態に脱皮いこうするはずだ。


 ゴゴッ。ゴゴッ。


 上の方から変な音が聞こえてきた。何だ? 


 ウゴゴッ。ゴゴッ。ウゴゴッ。ゴゴッ。


 極太の紐で縫い合わされて閉じられていた口だが、紐が切れて開きかけている。上の方からよだれか何かの体液たいえきゆかれてきた。


 その体液の当たったゆかは泡を立てて大穴が開いてしまった。


 これが第二形態なのか? やはり、一筋縄ひとすじなわではいかないようだ。




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