第113話 フェア、大進化


 恐るべしインジェクター!


 インジェクターによって傷つけられた大ムカデが頭から胴体の半ばまで溶け崩れた無残むざん死骸しがいになってしまった。


 そこからフェアの大進撃がはじまってしまった。最初のうちはインジェクターを両手で持ってフラフラ飛んでいたフェアだが、そのうちシャキッとインジェクターを持ったままでも飛び回れるようになった。しかも、毒を受けた大ムカデが頭の先から尻尾まで全部溶け崩れるようになってきた。


 一回『暗黒の涙』をインジェクターにつけると10回から12回は使用できるようだ。そんな感じで大ムカデを殺しまくっていたところ、なんだかフェアの様子というか雰囲気が変わって来た。



 来い! 来い、来い、来い、来い!


 来た! 来た、来た、来た、来た!


 これは、フェアの進化が来たんじゃないか?


『アズラン、フェアが進化したんじゃないか? 見た目がなんだか変わって来たぞ』


 フェアの体つきが一回り大きくなって引き締まった。目つきも鋭いように感じる。今気づいたがはねが6枚に増えていた。


「そうみたいです。いったん帰って、鑑定してみましょう」




 浮き浮きのアズランを先頭に拠点に戻って来た。


 フェアを鑑定石に座らせて、ジャカジャン!


<鑑定石>

「鑑定結果:

種族:フェアリー・クイーン・ポイズナー

種族特性:フェアリーの進化種であるフェアリー・クイーンの変異種。プレイン・フェアリーと比べ、圧倒的に俊敏。超高速で移動可能。魔法耐性が非常に高い。物理攻撃に対する耐性はないが、一般的な物理攻撃は命中しない。

特殊:妖精の鱗粉りんぷんを振り撒くことで、対象を強い毒状態にする。使用する毒の毒性が強化される。

次の進化先:不定(進化までの行動に左右される)」



『これは相当だな』


「女王の貫禄かんろくが出てきたみたい」


「これからはフェアちゃんじゃなくてフェアさま?」


『それは、いままで通りでいいだろう』


 こうして、フェアが進化した。


『フェアも思った通り進化してくれて結構なことなんだが、2度も妙なヤツがモンスターを引き連れて街の南側にやって来たところをみると街の南の先に何かあるんじゃないか? どう思う?』


「そうですね、こんなに短時間に二回もあんなのが来るって異常です」


「確認しに行ってみましょう」


『よし、一休みしたら行ってみるか』


「はい」「はい!」



 ワンルームに入って、そのままトルシェはマッパになってベッドにもぐりこんでしまった。それを見たアズランは下着姿で、フェアはズボンを脱いで。フェアはパンツをはいていた。トルシェよりもだったようだ。



 5、6時間して、二人がベッドから起き出したので、


『何か食べるか?』


「いえ、食べなくても大丈夫みたいです」「私も」


『それじゃあ、支度したくをして、街の南のその先を探検しよう』




 マッパのトルシェも支度を終えたようだ。


 三人揃って、黒い渦の中に入って行く、その先は迷宮都市。




 ギルド職員の脇を通って街の中に。買い取り所周辺は普段通り活況だった。


『このまま、寄り道せずに行こうか』


「はい」「はい」



 誰かさんのおかげで廃墟はいきょとなった街の南側の市街地は大勢の人が出て瓦礫がれきを片付けている。


 その作業を横目に見て、さらに南へ進んで、街を囲む外壁にたどり着いた。外壁はいたるところで大きく崩れ、もはや外壁としての用をなさなくなっている。


 壊れたものは直せばいいのだが、人手だけが頼りの重機などない世界。これだけの破壊の修復しゅうふくには何年もかかるかもしれない。


 数日前までは畑があったと思われる荒地を南へ進む。ところどころにもとは農家と思われる民家の瓦礫がれきの山。そういった荒地をもう少し進むと木がまばらに立った林が見えてきた。地面には砕けたような倒木とうぼくが無数に転がっている。


 モンスターによるものなのか、モンスターをたおすためにリンガレングが一緒に破壊したのか区別できない。


『そうだ。アズラン、フェアを先に偵察ていさつに出せないかな?』


「できると思います。

 フェア、先に進んで何か変わったものがないか見てきて」


 アズランの言葉にうなずいたフェアが南の方に飛び立っていきすぐに見えなくなった。俺たちも足場の悪い中、南に向けて歩き続ける。


 10分も経たないうちにフェアが戻って来た。何か見つけたようで、アズランの手を引っ張っては、南の方に飛ぶしぐさをしている。


『急ごう』


 ゆっくり飛び立ったフェアの後を駆け足で追いかける。


 20分ほど、フェアに連れられ進んだ先に見えてきたのは、『大迷宮』の出入り口の黒い渦よりもさらに大きな黒い渦だった。


『この先はダンジョン?』


「おそらく。こんなところにダンジョンの出入り口があるなんて聞いたことはありませんから、新しくできたものじゃないかな」


『そんなに簡単にダンジョンの出入り口ができるものなんだ』


「簡単じゃないと思います。これまでダンジョンの出入り口が今までなかった場所に新しくできたっていう話を聞いたことは一度もありません」


『ほう。ということは、あの連中がどうにかして作った可能性が高いな。どうする? おそらくこの先は敵の本拠地ほんきょちだぞ』


「本拠地といえば『魔王城』。お宝がきっとあります」


「ここまで来た以上、進みましょう。と、フェアが言ってます」


 フェアが本当に言ったのかは分からないが、ここまで来た以上行くしかないな。


 俺は腰のエクスキューショナーとリフレクターを。アズランは『断罪だんざいの意思』を構えた。トルシェは『烏殺うさつ』をここのところ『キューブ』に入れたままなので手ぶらだ。


『よし、気を引き締めて中に入るぞ!』


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