第110話 『城塞のバグー』


 えらそうに前に立つ大男『城塞のバグー』に向かって真打しんうちの俺が一歩一歩と前に出ていく。


「ほう、今度はおまえか。さあ来い」


 俺を挑発するように武器も持たず両手を広げるヤツに向かって、俺は二つの得物えものをそれぞれの手に構えて進んでいく。俺の意識も戦闘状態に入ったようで、加速されてきた。


 カチリ。


 と、奥歯をかみ合わせ、加速だ!


 気持ちだけでなく、意識も加速し知覚力が一気に高まった。虎だ! 虎になるんだ!


 俺は一気に加速して『城塞のバグー』を間合いに捉えた。


 右手に持ったエクスキューショナーが『城塞のバグー』の左わきに迫る。もらった!


 ズシャッ!


 エクスキューショナーの刃先からすごくへんな感触が伝わって来た。とても鎧を切った感触ではない。言葉にすると砂に刀を振り下ろした時のような感触だった。見るとヤツの鎧にエクスキューショナーはめり込んでしまっている。ヤツはノーダメージのようだ。左からヤツの右腕が迫って来た。


 こちらもそこは想定済みだったのでなんなく左手のリフレクターを合わせてやったのだが、また、


 ドシャッ!


 砂にバットをたたきつけたような感触が返って来た。


 エクスキューショナーをヤツの体から引き抜き一歩、二歩と下がって間合いを取って、一度仕切り直しだ。


 どうもこの連中は、鎧なのか能力なのか変な感じに防御力が高い。前回はドンドコドンドンのジュマンジ戦法で『黒炎のアグナ』を破ったのだが、今回も同じ手が使えるのか? 二匹目のどじょうがいれば超ラッキー、とりあえず試してみるとしよう。


 そうれ、それそれ!


 かなりの回数『城塞のバグー』に俺の得物を高速でたたきつけているのだが、まったく効いているようには見えない。『黒炎のアグナ』の時と違って手ごたえが全く変わらない。まさか、こいつ本当に砂で出来てるんじゃないか? それなら、火にも強いし、打撃にも強そうだ。


 ヤツの弱点とは言えないが秘密を掴んだ。と、俺は確信した。俺の確信が世界を変える。


 そこで、後ろから、トルシェの声がまた響いてきた。


「ダークンさん後ろに下がってくださーい。もう一度試してみまーす!」


 急いで後ろに下がって、トルシェの前に立つ。後ろに下がっていくときにちらっと眼にしたトルシェの前には10個ほどの青いドッジボールが回っていた。


「イッケー!」


 さっきの爆風より三倍以上の爆風が吹くぞ。


「トルシェ、伏せろ!」


 その言葉と一緒に俺もボコボコにいたんだ地面に五体投地ごたいとうちで伏せて爆風に備えた。一拍の間の後、


 ドガガガガガーン!


 ものすごい閃光せんこう轟音ごうおんが響き渡り、伏せていた俺も吹き付けて来た瓦礫がれきがらみの突風であおられてしまい、地面をゴロゴロと転がってしまった。トルシェは見えなかったのだがおそらくコロコロと転がったと思う。


 次に来る爆風のもどしに備えて、地面に伏せたままでいたが、やはり瓦礫混じりの突風に煽られて、ゴロゴロ転がってしまった。


 気付くとそこは五体投地ごたいとうちした場所だった。


 まさに行ってこい。目が回らなかっただけ良しとしよう。起き上がるときにトルシェが目に入ったのだが、今回もうまい具合に、元の場所ですくっと立っていた。なんかの能力に目覚めたのだろうか? しかも、なぜかトルシェは大笑いを始めてしまった。どうしたトルシェ? 帰ってこい。


 前を向くと『城塞のバグー』は無傷むきずで突っ立っている。ただ、立っている場所は地面から1メートルほど下に沈んでいる。爆発で建物の瓦礫が吹き飛んだうえで、地面に大穴が開いたようだ。周りの建物もほとんどが吹き飛ばされ、その先の建物は倒壊とうかいしている。気付くと、それまで戦いの音や悲鳴、そういった雑音が聞こえていたのだが今は静かだ。


 トルシェの攻撃は今回も周辺の建物にしか効かなかったが、次は俺の番だ。


 俺といっても、次の攻撃はコロの触手攻撃だがな。


 イッケー!


 俺のナイト・ストーカーの隙間という隙間から黒い糸が『城塞のバグー』に向かって伸びていく。いわゆる操糸術そうしじゅつとでも思ったのか、ヤツはまた突っ立ったままだ。俺もめられたものだ。


 舐められたら舐め返す! 10倍返しだー!


 コロの極細触手が『城塞のバグー』に無数に突き刺さった。『城塞のバグー』は最初は余裕で突っ立っていたが、すぐに、


「ウオオオオ、……」


 悲鳴なのか何だか分からない絶叫ぜっきょうを上げ始めそれもすぐにんだ。


 こいつもやはりコロの敵ではなかったようだ。見る間に『城塞のバグー』は形を失いやがて消えてしまった。


 結局『城塞のバグー』が何しに来たのかわからなかった。結果から見ると、コロにペロリされただけのモブだったわけだ。


 それに引き換え、俺の後ろに立っているトルシェはどうだ? すごい爆発で街を半壊してしまった。おそらく、モンスターたちが破壊した以上のものを破壊しただろう。まさに破壊魔はかいま


 ふと気づくと俺の横にアズランが立っていた。なぜかアズランは顔を真っ赤にして頬を若干膨らませている。それでもちゃんと声は出るようで、


「ダークンさん。モンスターはそんなにいなかったので、全てたおしてきました」


『アズランよくやった』


「えへへへへ、フフフ、フッフッハー」


 嬉しそうに?笑うアズランの周りをフェアが飛び回っている。


 今回の件も一件落着いっけんらくちゃくではあるが、周りの惨状さんじょうを見るに早いところ現場げんばから立ち去った方がいいだろう。


『いったん出直そう』


「ダークンさん、わたしにはおめの言葉は? ヒーヒッヒッヒ」


「ああ、トルシェも良くやった。爆風の中ちゃんと立ち上がったのはすごかったぞ。ところで、何で二人ともそんなにおかしそうにしてるんだ?」


「また、コロちゃんをまとったダークンさんを思い出したからです、アズランだってそうでしょ?」


「は、はいー、イーヒッヒ」


「そういえばさっき爆風の中立ち上がったのはカッコよかったでしょ。タイミングが難しいんですよ。こんどコツを教えてあげますね」


『ああ、今度な』


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