第106話 『収納』、『装着』


『アズランの暗殺法はわかったから、それでフェアが使えそうな武器は何かあるのか?』


「ちょっと見てきます」


 そういって席をたったアズランが、ベッドの脇に置いていた自分の『キューブ』からリュックを取り出して中をあさり始めた。何かを見つけたようで、


「これなんかどうでしょう?」


 アズランが持ってきたのは、太さが1センチちょっと、長さが10センチほどの革製の棒に見える何かだった。


「普段はこのようにさやの中に入れておくんですが、使う時にはこのように抜き出して」


 革製の棒は暗器あんきを収めたさやだったようで、そこから抜き出されたのは、極細ごくぼその超小型の両刃剣だった。アズランから受け取ってよく見ると、刃は鋭いが、ある程度中央部分には厚みがありしっかりした造りだ。その中央部分に柄から剣先にかけて裏表うらおもてに細く溝が切ってありそこからまた左右の刃先に向かって細く刻みが入っている。暗器の実物を見るのは初めてだが小さいながらも迫力がある。剣のの部分は鞘と同じ革で巻いてある。


「その溝に毒薬を垂らすと剣身けんしん全体に毒が行き渡るので、どこで相手にキズを付けても相手に毒を与えることができるようにできているの」


「いろいろ工夫くふうされているんだね」


「道具を工夫するだけで簡単にそのうえ安全に相手を殺すことができるならそれにこしたことはないから」


「ねえ、アズラン。いまその毒持ってる?」


「いまはこれ用の毒は切らせているところ。かなり高価な毒だし、あまり出回ってないものだから」


『なあ、黒スライムを殺すと黒い液がでるだろ。あれって俺たちには何ともないけど相当な毒なんじゃないか? あれをすくってビンなんかに入れておけば重宝ちょうほうすると思うんだが』


「あれならいけそうですね。あとで試してみましょう」


『剣の方はフェアの肩からかけるようにベルトが欲しいな。それもこれも今のマッパのままじゃちょっと変だからせめてパンツくらいはかせたいよな』


「なければ無いで、気持ちいのになー」


『トルシェはそうかもしれないが、普通は落ち着かないだろ。なあ、アズラン?』


「私もできれば、真っ裸の方が気持ちがいいと思いますが、人前だとちょっと恥ずかしいかな」


『鎧を脱げない俺が言うのも変だが、おまえたちは、裸族らぞくだな』

 

「えへへ。裸族だ、裸族だ!」


『いやいや、ほめたわけじゃないからな』


「だけど、ダークンさんだって、今着ているナイト・ストーカーがなければ、骨しかないスーパーマッパじゃないですか。あっ! そうだ、いいことを思いついた。

 ダークンさん。いま、コロちゃんを使って声が少し出せるようになったじゃないですか、それで、ナイト・ストーカーを収納できるかもしれませんよ!」


『そうだな、あれってなんて言うんだったか忘れたぞ』


「たしか『収納』、『装着』だったはずです」


『そういえばそうだった。よし、やってみよう。

 コロ、頼む』


 うにゅうにゅとコロがのどの辺りから口元まで這い上がって来た。


収納ひゅうにょー


 うおおおー。ナイト・ストーカーが消えてしまった。


装着ひょうひゃく


 おおおお! ちゃんと、ナイト・ストーカーを着ている。


収納ひゅうにょー」「装着ひょうひゃく


収納ひゅうにょー」「装着ひょうひゃく


収納ひゅうにょー


「ダークンさん、そんなにしてたらこっちの目が回りますよ。喉から口にかけてコロちゃんが広がっているところで、ある種、不気味さカッコよさが強調されて、ナイスです」


『そうか。フフフ』


「で、結局ダークンさんも裸族の仲間入りですね!」


 意識していたわけではないが、装着をし忘れてしまった。ガントレットとヘルメットもこの際だから収納してしまおう。


装着ひょうひゃく


 いったんナイト・ストーカーを着たうえで、そこらへんに置いたいたガントレットとヘルメットを着けて再度、


収納ひゅうにょー


 おお! 全部、収納できた。何が変わるわけではないが、何だか嬉しいぞ。これが、トルシェのいう裸族の醍醐味だいごみなのか?


「そういえば、以前体中から根っこが生えて鎧にくっ付いてしまって脱げなくなったって言ってましたよね。その割にいまはつるつるみたいですよ」


『ほんとだ』


 こうして自分の黒光りする体を見ていると、美しいと感じる自分がいる。俺は自分自身をナルシストだと思ったことはこれまで一度もなかったが、新しい性癖せいへきに目覚めたのかもしれない。といっても、着飾るわけにもいかないので、せいぜい自分の体をツルツルに磨くくらいか。


 ハー、と息をきながら、頭の上を磨けないのがつらいな。まあ、コロに汚れを取ってもらえれば文字通りピカピカになるんだろうがな。


「ダークンさん、口の周りにコロちゃんがいて、不気味だカッコいいけど、どうせなら、コロちゃんで、体全体をおおったらどうかな?」


 なるほど。コロなら、薄く伸びて、俺の体を覆うことができるかも知れない。ちょっとやってみるか。うまくいけば人間にみえるかもしれないしな。


 コロ、できるか?


『はい』そうコロが答えてくれた。気がする。


 コロが広がって、顔一面を覆っていく。胸から下の方に広がっていき骨盤こつばん、そして、腕から両脚、最後に手足まですっぽりコロに覆われてしまった。口と目、三カ所だけ孔があいている。


「ギョエー!」「ギャー!」


 トルシェとアズランの悲鳴ひめいがワンルームに響き渡った。


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