第81話 『大迷宮』11階層


 11階層も代わりえがしない階層で、何となくわかる先人せんじんの足跡をたどって洞窟通路を進んでいった。


『何だか弱っちい敵しかいないな。別に強い敵が欲しいわけじゃないけど張り合いがない』


「そうだ! ダークンさん。今度適当なモンスターに出くわしたら、コロちゃんに戦わせてみませんか? コロちゃんが危なくなればわたしたちが助けに入ればいいし」


『そうだな、「獅子ライオンは我が子を千尋せんじんの谷に突き落とす」とも言うしな』


獅子ライオンというのは何です?」


『大きな猫だな』


「ねこちゃん!」一人妙な反応をするのがいる。


 ……


 うわさをすればではないが、通路前方にモンスターの気配をアズランが感じとったようだ。


「数は6、あまり大きくはありません。二本足で歩いています」


 実に高性能な探知機たんちきだ。大きくなくて二本足と言うことは、オークではないのだろう。


『アズラン、敵が逃げ出さないように敵の後ろに回り込んでいてくれ。俺たちは前から近づいて、コロに戦わせてみる』


「は……」


 『はい』の『い』を残してアズランは見えなくなってしまった。もう俺の目でも追えないくらいだ。


 俺は『エクスキューショナー』を右手に構えて、トルシェは左手に『烏殺うさつ』を持って急いで進むと、二本足のモンスター?が見えて来た。そいつらをよく見ると口吻が長く突き出ていて耳が突っ立ている。粗末なズボンのようなものをはいており、上半身は裸だ。露出している顔面や体は毛でおおわれているようで、黒から白までいろいろな色をしている。


 これは、コボルドとかいうヤツかも知れない。


『あいつらは、コボルドか?』


「見た目はコボルドですが、こんな深いところにいるコボルドですし武器を持っているようですから、変異種か上位種だと思います」


『そうか。コロちゃんだと危ないかな?』


「それはないでしょう」


『そうだよな』


 そんな話をしながら無防備むぼうびにコボルド?の群れに近づいていったら、いきなり、コボルド?の1匹が手に持った短弓たんきゅうで矢を射って来た。


 最近、攻撃さえ受けたことがなかったので少し新鮮だ。わずかに山なりになって俺の方に飛んでくる矢を空いた左手でキャッチしてやった。俺に当たってもなんともなさそうな矢だし、トルシェでもこの程度の矢なら問題なくかわせるだろうが一応、


『トルシェ、俺の後ろからついて来い』


「了解」


 今度は、別のコボルド?から、ファイヤーボールが飛んできた。ソフトボールくらいの火の玉が、ソフトボールを素人しろうとが投げるくらいのスピードで飛んできたので、『エクスキューショナー』ではらってやったら、目の前で爆発してしまった。


 これは効いた。一瞬だが目がくらんだ。後ろからケラケラとトルシェの笑い声が聞こえて来た。


 俺たちの接近に備えてコボルド?の前衛らしき二匹が剣をかまえ、その後ろの二匹が槍を構えている。残った二匹は弓を射たヤツとファイヤーボールを撃って来たヤツだ。


 そろそろいいか。鉄箱を下に降ろし蓋を開けて、一度通路の上に下ろし、


『コロ、あの連中をたおしてしまえ!』


 あの連中でコロに伝わるのかな? と思ったが、理解してくれたようで、コボルド?に向かってコロははい進んでいった。今回はかなり動きが速い。


 近くまでやって来たコロに気づいたコボルド?の一匹が、槍を突き出し、コロを突いた。


 コロの体からいって、槍の穂先ほさき貫通かんつうしている程度は槍が突き刺さったはずだが、穂先は貫通しなかったようだ。コボルド?がすぐに槍を引き戻したのだが、その槍には穂先がついてなかった。コロが食べてしまったようだ。


 大声で何か叫んでいたそのコボルド?の叫び声が急に止まった。同時にそいつの胸に真っ赤な大穴が空いて、その孔がだんだん大きくなっていき、とうとう体が肩から上と、腹から下になってしまった。コロは床の上にいたままだったから、コロの触手攻撃だったのか?


 胸が無くなって折れるようにその場にくずれ落ちたコボルド?だったものを見た残りのコボルド?たちは大騒おおさわぎを始めた。


 俺たちは騒ぐコボルド?に近づいて行ったのだが、今度は先ほどまで騒いでいでいたコボルド?が、一匹、また一匹と倒れて行く。まだ倒れていないコボルド?も見た目にヤバそうなくらい苦しそうな顔をしている。


 あらら、コロちゃんの瘴気しょうきが回ったらしい。ゆっくり歩いてコボルト?たちのところにたどり着いたときには、残りのコボルド?たちはダンジョンのごつごつした床の上に転がっていた。その中でまだ動いているのは一匹だけだったがすぐにそいつも動かなくなった。


 これはヤヴァい。コロちゃんヤヴァいよ。


 最初の一匹を食べ終わったコロちゃんが、二匹目、三匹目と死骸を食べている。


 その姿をアズランがしゃがみ込んでほうけたようにうっとりと見ているのだが、絵面えづらが怖い。


 コボルド?も、左耳を持っていけばなにがしかの報酬がギルドで出るらしいが、面倒なので、結局コロに全部食べさせてやった。


 名残なごり惜しそうなアズランを無視して、鉄箱にコロを入れ、


『行くか』


「はーい」「……、コロちゃん」



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