第82話 『大迷宮』12~14階層


 わき道にそれることもなく、俺たちは12階層への階段にたどり着き、そのまま階段をくだった。


 階段をりきった12階層も相変わらずこれといって変り映えのしない階層で何事もなく、次の13階層に進み、そのまま14階層までたどり着いた。


『やっと14階層か。ここで少し休憩きゅうけいしよう』


「はーい」「はい」


 通路の脇に寄って、三人して座り込み、俺は『キューブ』から取り出したリュックの中の水袋からコロちゃんに『暗黒の聖水』をかけてやった。


 アズランはその様子をじっと見ていたが、俺が鉄箱の蓋を締めてしまったので、あきらめて、小袋に入れた木の実を食べ始めた。


『トルシェ、この階層は何が出るのかな?』


「ここの階層については、上位2パーティーとも情報を隠しているようで、全く分かりません」


『そうなのか。2チームで競争してるんだったらそういうふうにもなるかもな。そういえば、そろそろ宝箱とかでないもんかな?』


「そうですね。そろそろ出てもおかしくはないですが、今までみたいに幹線かんせんを歩いている分には出にくいかもしれません」


『とっとと15階層まで下りて、そこから探検だな。それじゃあそろそろ行くか? アズラン、鉄箱の蓋を閉めるぞ』


 俺が閉めていた鉄箱の蓋をかってに開けたアズランがコロちゃんに木の実をやっていた。俺のコロちゃんを餌付えづけしようという魂胆こんたんかも知れないが、俺とコロちゃんはたましいで結ばれているんだ。そう簡単にアズランにはなびきはせんよ。


 各々荷物を『キューブ』に仕舞い、俺は鉄箱の革紐を肩にかけ出発だ。



 俺たちはアズランを先頭にだいたいの見当で通路を進んで行った。これまで、何となく足跡のようなものをたどっていたが、分かりにくいところもそれなりにあった。それでも迷わず下の階への階段にたどり着けたのは、どう考えてもわがしゅのお導きに違いない。


 思い立ったが吉日。俺だけ立ち止まり、主の神殿のある方向に目星をつけて、二礼二拍手カンカン一礼をしておいた。俺がいきなり礼拝を始めたものだから、トルシェとアズランもあわてて俺にならって礼拝をしていた。


 気分を新たに通路を進む俺たち。



『何かいます。一匹です、四つ足で大きい』


 アズランが何か見つけたらしい。一気に前方へ無音むおんで駆け出すアズラン。俺とトルシェも音を極力立てないようにアズランのあとを追う。


 一度立ち止まったアズランが、


『スノー・ファングです』


 これはおいしい。金貨75枚が落ちていた。コロちゃんにはおあずけだが、ちゃんとまるのままお持ち帰りしよう。


『それじゃあ、トルシェ。なるべく傷めないようにな』


『了解』



 アズランが見つけたスノー・ファングだが、俺たちの接近に気が付いたようで、こちらを向いて、大きく息を吸って何かしようとしたところに、俺の後ろから伸びたトルシェの黒い糸がスノー・ファングのこめかみを貫通した。


 スノー・ファングはそのままドーと倒れたのだが、倒れながら首から盛大に血を吹き出していたところから、アズランがとどめに短剣『断罪の意思』で頸動脈を切り裂いたのだろう。アズラン自身はいつの間にかスノー・ファングの近くで向こうの方を向いて突っ立っていた。


 スノー・ファングの死骸から血が吹き出てくるのが止まるまで少しおいて、それからトルシェが『収納キューブ』に収納した。



『います。四つ足、4匹ほど。スノー・ファングより小さいです』


 さらに先に進んだところで、アズランレーダーがモンスターを探知したようだ。


 スノー・ファングより小さいと言うことはシルバー・ファングか?


『しっかり片付けていこう。アズランはいつものように先に回り込んでおいてくれ』


『はい』『は……』


 アズランは、いつものように、『い』を言いきらない前に見えなくなってしまった。


 俺とトルシェも、音を立てないよう進んでいく。通路の曲がりを越えて見えて来たのは、大きく左右に角の発達した鹿だった。その鹿が四頭。いや、四匹? どっちでもいいか。


 そいつらはすぐに俺たちの接近に気づいたようで、四匹ともこちらを向いている。不思議なことに、左右に開いた角の間に放電現象ほうでんげんしょうが起こっていて見てる分にはカッコいい。


 のんきなことを考えていたらその放電現象が電撃となってトルシェの前を進む俺に直撃した。目の前に青白い火花が飛んで体がしびれてしまったが、何だか妙に気持ちいい。なにかのダイエット機器にかかっているようだ。ガントレットの指先と指先の間にも放電が起きている。


 俺が電撃を一身に受けているためかトルシェにはなにも影響がなかったようだ。しかし、実に気持ちいいい。黒曜石の表面が微妙にくすぐられる感じが全身をかけめぐる。ほう!


「ダークンさん? 何だかうれしそうにしてるみたいですが、あいつら、っちゃっていいですか?」


『ほう! 気持きんもちいいぞー! っと、あまりの気持ちよさにほうけてしまった。名残惜しいが、っちゃってくれ』


 それで、ものの2秒もかからず、鹿はドーと首筋から血を流しながら倒れて行った。トルシェとアズランの見事な連携だ。


『これがサンダー・ディアか。迷宮入り口で見た時はよっぽどすごいモンスターかと思ったが、かわいいもんだったな』


「まさか、サンダー・ディアをテイムしたくなったとか言わないでくださいよ」


『どうして? すごく気持ちよかったぞ』


「あれは、生身で受けると相当いたいものですよ。というか一般人なら普通に死ねますよ」


『痛い痛いも慣れれば良くなるかもしれないぞ?』


「そんなわけないじゃないですか。とっとと行きますよ」


「ダークンさん? サンダー・ディア飼うんですか? だったら私にコロちゃんを」


『飼わないし、やらんし』



 すったもんだで、そのあと何回か、シルバー・ファングの群れや、サンダー・ディアの群れをたおしながら歩いていたら、


『います。一匹です。今どういう状態なのかちょっとわかりません』


『それじゃあ用心しながら近づこう』


『はい』『はい』



 俺たちが気配けはいを殺して進んで行くと、その先にいままで見たことの無いモンスターが胡坐あぐらをかいて座っており、その先には15階層への階段が見えていた。




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