第64話 お買い物続き


 武器屋の娘さんが店の奥から台車の上に乗せて持ってきたのは、結構ゴツイ鉄製の長四角の箱だった。素手すでで持ち運ぶのは難しそうな感じだが、俺なら問題ない。作りもしっかりしているようなので、これならスライムの入れ物にちょうどいい。


『トルシェ、これでいい』


「見た感じ良さそうなので、これを下さい。あと、長めの革紐ありますか?」


「ありますよ。お持ちします」


「ダークンさん、箱の両側から紐を掛けたら持ち運びに便利なんじゃないですか?」


『そうだな。よく気付いてくれた。紐を貰って支払いが終わったら、早いとこ前の拠点の階層でスライムを捕まえたいな』


「アズランの鎖かたびらチェインメイルの受け取りがあしただから、それまで我慢がまんしてください」


『そうだった、もう忘れてた。俺も歳なのかなー』


「ダークンさんに歳なんて関係ないんじゃないですか?」


『アンデッドの知り合いがいる訳じゃないから、そこら辺はよくわからんな』


「それはそうですね、アハハ」


ワハカタ……』おっと、ここで高笑いをするところだった。危ないあぶない。


 トルシェとバカな話をしている間に、店の娘さんが革紐を持って来てくれたので、鉄の箱と一緒にトルシェが勘定かんじょうを済ませくれるのを待って、その場で革紐を箱に結んで肩から掛けて店を出た。


 革紐はアズランがうまいこと結んでくれたので、鉄箱の蓋を外すときに革紐をいちいち解かなくてよくなった。


 アズランの鎖かたびらチェインメイルの型直しが終わる明日の昼まで時間があくことになったので、テルミナの街を散策することにしたのだが、街中を歩いても空き地は有ったがちゃんとした公園もない。


 劇場などは有ったが、そんなものは見たくない。ようは俺にとって見るべきものは何もないのだ。仕方しかたがないので、


『アズラン、肩慣かたなららしに、ちょっと「大迷宮」に入って様子を見てみないか?』


「アズラン、行こうよ。街にいてもつまらないから『大迷宮』に遊びに行こうよ」


 トルシェならそう言うと思ったよ。


「『大迷宮』にですか? ほかの冒険者は、必死になって仕事をしているんですよね?」


「よそさまはよそさま。わたしたちにとったら『大迷宮』の4、5階は遊びにもならないようなところなんだから、ほんとはもっと深く潜りたいんだけど時間がかかるからね」


「分かりました。それでは、何か用意する物はありますか?」


「ないよ」


「何もないんですか?」


「そう。なにも。アズランにはわたしの『暗黒の聖水』を分けてあげるからそれでお腹もすかないと思うし」


「『暗黒の聖水』?」


「そのうち案内するけど、元気のでる水がわたしたちの神殿から湧き出てるの。その水を飲んでいれば元気も出るしお腹も空かないからね」


「それで、水袋を沢山買ったんですね」


「そういうこと。それじゃあ、アズランにわたしの水袋を一つ渡しておくから試しに一口飲んでみて」


 トルシェから渡された水袋から一口『暗黒の聖水』を口に含みゴクリと飲み込んだアズランが、


「な、何なんですか? すごい。気力がみなぎって、体が軽くなった感じがします」


『「暗黒の聖水」はわれらがしゅ賜物たまものなのだ。心して飲むが良い。ワハハカタカタカタ



 そんな話をしているうちに、『大迷宮』の入り口に到着した。


 入り口に立っていたギルドの職員にカードを見せて大迷宮の本当の出入り口に進んだ。そこにいたギルドの職員は先日俺が助けたときの職員だったらしく、俺をみると軽く頭を下げていた。


 あの程度のことは気にせずとも好いのだよ。しかしそうやって謙虚けんきょにしているところは好感が持てる。次回もしトラブルがあれば俺に言ってこい。面倒めんどうを見てやろうじゃないか。言ってくること自体の方がよほど面倒かも知れんがな。


『それじゃあ、渦の中にそろってはいるぞ』


「はい」「はい」




 三人でそろって渦の中に入った先は、見知った『大迷宮』の1層の最初の広間のような場所ではなかった。目の前、30メートルほど先に小さく扉が見える。


『あれ、ここは新しい俺たちの拠点じゃないか?』


「そうみたいですね。これは便利」


「え?」


『アズラン。ここに出るとは思わなかったが、ここが俺たちの拠点だ。ついて来てくれ』


 アズランを連れて、扉を開けて大広間にでた。明るい照明に慣れるまで少し時間がかかるが太陽のギラギラしたような明るさではないのですぐに目は慣れる。


『「闇の使徒」の屋敷からいただいたベッドを、アズラン用にあの部屋に置いてしまおう』


「そうですね。アズラン、わたしたちの住んでるここに驚いたでしょ? でも、この先はもっと驚くと思うよ」


 俺でさえ、最初はそうとう驚いたんだから、アズランは俺以上に驚くと思うよ。鑑定石しかないこの大広間でさえ、きょろきょろ見回しているものな。


 モダンルームの扉の前に立ち、


『アズラン、開けてみろ』


 アズランに扉を開けさせた。


「ここは、『大迷宮』の中?」


 口を半分あけたアズランは小動物的で、結構かわいい。


「アズラン、すごいでしょ。それじゃあ、アズランのベッドはわたしの隣でいいよね?」


「は、はい」


 すぐにトルシェの大型ベッドに並んでこれも大型のベッドが置かれた。ついでと言っていいのか、のその他の家具も並べられていった。


『ふたりとも何か食べるか? 肉なら簡単に焼けるが?』


「いえ、さっき飲んだ『暗黒の聖水』?のおかげなのか、今は食事は必要ない感じです」


『それなら、これからわれわれのしゅの神殿に案内するか。「暗黒の聖水」も補給しておいた方が良いからな。ついでにスライムもゲットだぜ』


「それじゃあ、行きましょうー」



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