第55話 追手


 戦闘態勢をとった冒険者の一団が、通りの角から、不用意に飛び出してきた。


「来たようです。あれ? あいつらは『あかつきやいば』!」


『なに? あいつらか。それじゃあもとより容赦ようしゃするつもりはなかったが、さらに遠慮えんりょらないな』


 アズランを追って曲がりかどから出て来た追手は、トルシェに傷を負わせて、モンスターから逃げるときに身代わりに突き出した5人組だった。


 視界が通っていない場所に出て行くんだから、確認は必要だと思うが、手負いのアズランを追い詰めたと思ってなめているのか? こいつら程度なら、用心していようがしていまいが、結果が変わることはないがな。



黒騎士くろきし!」「あの肌の色は、まさか、ダーク・エルフ!」「気を付けろ!」


 アズランの前に立って待ち構えていた俺とトルシェの姿を認めた連中がなにか言っている。


『黒騎士』? おれは、ダーク・ナイトなんだが、『黒騎士』もなんだかいい響きだ。


 ひとり喜んでいたら、


「あの二人、ただものじゃない」「いや、やつら、Gランクの木札を首から下げているぞ。見かけ倒しに違いない」



 こちらをあなどってくれるのはウェルカムだが、この世界じゃランク至上主義でもあるのかね。俺たちがギルドで最低ランクのGランクであることは間違いないが、『見かけ倒し』ではないと思うぞ。


 しかも、こいつらトルシェを見て誰だかわからないのか? まあ肌の色も雰囲気ふんいきも、これだけ変わってしまうと分からないかもな。どうせ、こいつらはもうすぐあの世に行くわけだから教えてやることもないか。


 仲間内で俺たちを評していた連中の中から大柄で槍を持った一人が前に出て来た。こいつは、トルシェの足に槍を突き立てて蹴飛けとばしたヤツだ。少なくともこいつは、トルシェに処分させるとしよう。


「お前たち、そこをどいてくれないか? 俺は『暁の刃』のリーダー、マーシーだ。俺たちの名前は、駆けだしのおまえたちでもさすがに聞いたことがあるだろ? おまえたちの後ろにいるのは、アサシンで、俺たちがそいつを処分する仕事を請け負っている。邪魔じゃまをしないでもらいたい」


 アズランはアサシンだった。カッコいいじゃないか。「『闇の眷属』アサシン、アズラン!」名乗るにしてもなかなか迫力もあるし語呂ごろがいい。いいなー。


 名前のことはいいとして、男の言葉に返事をしたいところだ。しかし俺の口だとカタカタ言葉しか出ない。やはりこの指輪、読み聞きだけでは不便だった。


 トルシェに俺に代わって何か言わせると何を言い始めるかわからないから、


『トルシェ。ここは俺に任せておけ』


 そういっておいた。


「そういうことなら、それでもいい」


 俺が黙っていたものだから、おっさんは仲間に目配せし自分は後ろにさがり槍を構えた。


 おっ、二人が前に出て腰を落として大盾を構えたぞ。後ろのヤツも何だか呪文を唱え始めている。守りを固めたヤツに対して攻撃を加えるのはあまり感心しないが、実力差があるとあまり関係ないな。こんな具合に。


 盾持ちに無造作むぞうさに近づいて、右手に構えたエクスキューショナーを一閃いっせん。それだけで、俺から見て右側で盾を構えた男の大盾が上下に真っ二つになった。


 一歩左にズレながら返す刀で、左側の盾目がけさらに一閃。それで、また大盾が上下二つになった。もう一歩踏み込んでエクスキューショナーを振るっていたら、盾の後ろの男も真っ二つになっていたな。


 俺が、二振りし終えたところで、やっと、中衛の二人が槍を突き出してきた。


 一本をエクスキューショナーで払ってやったら穂先が付け根からどこかに飛んで行ってしまった。豆腐とうふを切っている感じだ。そして、もう一本突き出された槍にリフレクターを合わせてやったら、槍の穂が中ほどでひん曲がってしまった。


 それでは、まず前衛の盾持ち二人の両腕でもいただきますか。


 俺が一歩踏み込んだところで、後衛の男の呪文が完成したようで、何やら味方に対して魔法をかけたようだが、効果は不明だ。どうでもいいだろう。


 エクスキューショナーをもう一閃。


 さらに半歩踏み込んだ俺の一振りは、盾の上半分で身を守ろうとした男の左腕の肘から先を盾ごと切り飛ばした。男の腕からは盛大に血が噴き出て来た。


 槍をダメにした中衛の二人は腰の剣を抜いて俺の方に構えているだけで動きはない。


 そして下から上へもう一閃。メイスを持っていたそいつの右腕を付け根で切り飛ばしてやったら、そいつは後ろに尻餅をついて倒れ込んでしまった。腕の付け根では、止血しけつも簡単には出来ないからこいつはおしまいだな。


 もう一人の盾持ちは、半分になった盾を捨て、一歩引いてメイスを構えているが明らかに腰が引けている。


 そこで、その男に向き直りエクスキューショナーをもう一閃。


 今度は意識して切り飛ばしたその男の右腕が、折れた槍を投げ捨てて新たに構えたマーシーの剣にメイスを持ったまま突き刺さった。


 マーシーは剣に突き刺さった腕を投げ捨て、


「ボルマンはもうダメだ。置いておくしかない。逃げるぞ」


 無事な三人と、右腕を失った男が、瀕死ひんしの仲間を置いて、示し合わせたようにきびすを返し、逃走を図った。


「穿孔光針!」


 そこで、無数の光の糸がトルシェから放たれた。光の糸が突き抜けて行ったあと、四人とも膝が無くなっていた。走っている途中で膝が無くなるとこうなるのかと妙に感心した。


 進行方向に投げ出されるように前のめりに倒れ込みそのまま地面を転がった四人だが、膝のあった部分から盛大に血を流しながらも腕で這って少しでも俺たちから逃げようとあがいている。


 大声で騒がないところはプロなのかねー。あまり騒がれるとうるさいから先に静かにする必要があるからな。


 手前には膝から下の足が八個、おんなじ方向を向いて転がっているのが実にシュールだ。


 トルシェは『穿孔光針』をうまく調整したようで、道を囲う建物の壁には跡はいくらか残っていたが壊さずにすんだようだ。



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