第48話 宝物庫1


『収納キューブ』は、とんでもないアイテムだった。容量が100万立方メートルということは、一辺100メートルの立方体だ。手で持って『収納キューブ』に物を入れていくみたいだから、一生かかっても一杯になりそうもない。


『えらいものが見つかったな』


『こんなものはちょっと売りに出せませんね』


『そうだな』


 『収納キューブ』で驚いてしまって、『リンガレング』のことを失念してしまっていた。


『ところで、「リンガレング」って知ってるか?』


『初めて聞くことばです』


『トルシェが知らないならどうしようもないな。それじゃあさっきの部屋の隣を調べてみよう』


『今度は何が出てくるのかな? もうウキウキですね』


『そうだな。最初からすごいのが手に入ったから、次はそれほどでもないんじゃないか。なーんてな』




『それじゃあ、扉を開けるぞ』


 最初の部屋とおなじように扉を押し開くと、今度の部屋はさっきの部屋の倍ぐらいの幅のある部屋で、奥行きは同じくらいあるようだ。ここも、ドアが開いたことで中の照明が点灯した。


 部屋には金属の延べ棒が積み上げられていた。積み上げ方はピラミッド状ではなく普通に一段ごとに互い違いに四角く積み上げられている。


 金色に光っているのはどう見ても金に見える。一本手に持ったところずしりと重たかった。これ一本でだいたい20キロか。これ二つも有ればトルシェの体重くらいになるのかと思うと、トルシェが軽いのか、この延べ棒が重たいのかよくわからなくなった。


『ダークンさん、これはどう見ても金ですよね?』


『重さといい、この黄色く光輝ひかりかがやいた感じは黄金なんだろうな』


『どうします?』


『どうもこうもないから、二、三本貰ってあとはここに置いとけばいいんじゃないか』


『全部持っていきましょうよ』


 トルシェは自分の『収納キューブ』をもう開いてお宝を収納してしまう気満々まんまんだ。


『トルシェ、この一山だけで何個延べ棒があると思ってるんだ?』


『さあ、たくさんありますね』


『……、横が20、奥の方に5、高さで20。一山当たり2000個だぞ。それが10山。全部で2万個になる。当面街で買い物をするにしても、2、3個あれば十分だろ』


『わかりました』


 そういった端から、トルシェは手を動かして金の延べ棒をせっせと収納し続けている。大蔵大臣だからしかたない。好きにしてくれ。


 金の延べ棒の先には銀色の金属の延べ棒が積まれていた。金の隣だから銀の延べ棒かと思い持ち上げてみたところ、見た目とは裏腹にかなり軽い。アルミほど軽くはなさそうだが、アルミの延べ棒など持ったことは無いので定かではない。しかし、アルミと比べて幾分ツヤが有るような気もしないではない。何だろうといろいろな方向からその延べ棒を眺めてみたがアルミでも銀でもなさそうだということしか分からなかった。


『ダークンさん、それってもしかしたらミスリルじゃないでしょうか』


 ミスリルか。あり得るな。


『トルシェはミスリルを見たことは有るのか?』


『こういった延べ棒になったミスリルは見たことは有りませんが。そうだ、わたしのチェインメイル』


 そう言って、トルシェが上着を脱いで今着ているチェインメイルを見せてくれた。


 確かにツヤといい、銀色の感じがそっくりだ。鑑定石で調べれば簡単にわかるわけだからここでああでもないこうでもないという必要はないか。


『それじゃあ、こいつも何本か持っていこう』


『はい。それじゃあ、20本ほど』


 20本も何本ではあるな。大蔵大臣に任せるよ。


『それで、その先の延べ棒は何だろうな?』


『ミスリルと来たらアダマンタイトでしょう』


『そうなのか?』


『いえ、言ってみただけです。わたしもアダマンタイトは見たことがありません。国宝級の刀剣には刃の部分だけアダマンタイトで出来たものがあるそうですがうわさで聞いただけです』


『それほど貴重なんだ』


『貴重は貴重なんでしょうが、硬すぎて加工が異常に難しいそうです』


『いろいろあるんだな』


『それじゃあ、これも20本。ダークンさんも手伝ってくださいよ』


『あいよ』


 結局、部屋にあった延べ棒を20本ずつトルシェが自分の『収納キューブ』に仕舞いこんでしまった。




 全部の種類の延べ棒を収納したあと、元の5センチほどに縮まった『収納キューブ』を持ったトルシェと、延べ棒を鑑定するため広間の真ん中にある『鑑定石』まで戻ってきた。


『トルシェ、一種類ずつ取り出して渡してくれるか。一本ずつだぞ』


『一度に一本ずつ出せるのかな?』


『そういうふうに念じればできるんじゃないか? 世の中にあるものは大抵うまくできてるんだよ』


『やってみます』


 最初に出て来たのは、金の延べ棒だった。それが、虚空こくうから落っこちる訳でもなく、ちゃんと床の上に一本だけ現れた。


 鑑定石で鑑定したところ、


<鑑定石>

「鑑定結果:

名称:純金

種別:延べ棒

特性:重い金属」


 あたりまえだが、ただの金だった。いや、純金だった。


 次の延べ棒は、


<鑑定石>

「鑑定結果:

名称:ミスリル

種別:延べ棒

特性:加工が簡単。魔力になじみやすく、魔力を通し、魔力を蓄積ちくせきすることができる」


 やはり、ミスリルだった。何かに加工すればいいんだろうが、スキルもノウハウもない。そのうち利用法を思いつければいいな。何にせよ、高価そうな金属だ。


 さて次。


<鑑定石>

「鑑定結果:

名称:アダマンタイト

種別:延べ棒

特性:非常にかたい金属で加工が困難。魔力に耐性を持つ」

 これも、刃物とか防具にすることが出来ればいいものが出来そうだが、いまはどうしようもない。




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