第49話 宝物庫2、ワンルームマンション?


 あとの金属の延べ棒は、銅、銀、鋼、すず、亜鉛、鉛、アルミだった。


 アルミはトルシェにとって初めて見た金属だったようだ。確かに精錬せいれんも加工も簡単ではない金属だと聞いたことがあるので、アルミは一般的な金属ではないのだろう。


『それじゃあ、次の部屋に行ってみよう』


 今度の部屋は、これは何だ? 扉を開けた先の部屋はまるでワンルームマンションだった。部屋の大きさは間口が10メートル、奥行きが20メートルくらいか。これだけで、200平米へいべいか。相当広いワンルームマンションだ。普通のマンションと違うのは広さもそうだが天井が5メートルはあることか。


 部屋の中には、大きなベッドが一つ。机が1つ。机には椅子いすが一つ。四人掛けのテーブルが1つに椅子が四つ。


 壁に面してどう見ても蛇口の付いた流し台。こいつはもはやシステムキッチンだ。コンロらしきところの上には換気口のような物まで付いていた。食器棚もある。


 流し台の横には扉があった。その扉は金属製でかなり重そうに見える。開けて中を確認しようとしたがその扉を開けることはできなかった。これは後回しにするしかなさそうだ。


 部屋の奥の方にも扉が何個か並んでいて、開けて見ると、まず最初は物置で、その中には、扉のしまった棚が何個か置いてあった。


 その隣は、トイレで、トイレは水洗だった。残念ながらおしり洗浄機せんじょうきは付いていなかった。あっても用を足す必要のない俺には関係ない。そう言えば、トルシェはどうしてたんだろう。


 最後のドアを開けると、脱衣所だついじょとその先に風呂場があった。脱衣所の中には洗面台と物入れ。洗面台には大きな鏡がついている。風呂場にはシャワーも有れば、青と赤の印の付いた蛇口じゃぐちのような物もついていた。蛇口をひねると青い印の付いた方からは水がちゃんと出て来た。赤い方をひねると、すぐに温かいお湯が出てきた。


 脱衣所にあった物入れを開けてみたら、真っ白でふかふかのバスタオルが沢山入っていた。至れり尽くせりだ。


 風呂場の蛇口がよほど珍しかったのか、トルシェが蛇口を開いたり閉じたりして遊んでいる。


『これは何なんですか? お湯まで出てきました。すごい魔導具があるんですね』


『魔道具? ああ、魔道具なのかもな』 


 水道も言ってみれば魔道具だよな。


 風呂場の中の浴槽は、真っ白なつるつるの石で出来ていて、大きさは2メートル×1メートル、深さが50センチくらいだ。


 個人宅としてもずいぶん大きく見える。ここはまるでお金持ちのワンルームマンションだ。


 順番に備えつけられた備品も見て行ったのだが、机の上に一枚の紙きれと1つの銀色の指輪が転がっていた。


 ヘルメットと両手のガントレットを外して机の上に置き、右手の人差し指と親指でその指輪のつまんでめつすがめつ眺めてみたが、指輪には何も文字も模様も描かれてなかった。色も金色ではないし俺の指輪の系統ではないらしい。あの系統は、そうそう出てくるものではないだろうから当たり前か。


 とはいうもののこの指輪も鑑定マターだな。『収納キューブ』にしまうのも面倒なので右手の中指に軽くはめることにした。


 机の上にあった紙きれには、またあの模様っぽい文字が書いてあった。


 最初一瞥した時は当然読めないと思って気にしなかったのだが、


『あれ? 読める。この紙の字が読める』


『ほんとですか?』


『ああ、読める。なぜかわからないが読めるぞ』


『わたしの指輪をはめて、このメモを読んでいる君に

 二つの試練を乗り越え竜の目を見つけた君にわたしのこの屋敷と屋敷の中にある全てのものを進呈しんていしよう。

 自由に使ってくれたまえ


 ウマール・ハルジット


追伸:ドラゴンの扉が開くまでここは時間が止まっているので、なにも傷んではいないはずだ。それと、食糧庫の中にある食材は扉が閉まっている間は時間が止まっているのでいつまでも新鮮なままだ。自由にかつ存分に食べてくれたまえ』


『俺たちに、ここにあるものを全部くれると書いてあった。「ウマール・ハルジット」って聞いたことがあるか?』


『子供でも知ってますよ。大昔の偉大な大賢者「ウマール・ハルジット」。おとぎ話と思っていましたが本当にいたんですね』


『どんな昔ばなしなんだ?』


『大昔、自らの魔力を全て使い果たしてなんとか魔神まじんを封印したあと、人知れずどこかに消えていったって話です』


『ふーん。その大賢者さまが人知れず隠れ住んでいた場所がここだったってわけかな。それにしてはここは生活感のない場所だよな』


『生活感バリバリで汚れているより、よっぽどいいじゃないですか』


『それはそうだ。いい人だったと思って感謝しておこう。これもきっとわれらがしゅのお導きに違いない。こういう時はちゃんと、ご神体の方向に向かって礼拝だな』


 二人そろって、ご神体の方向に向かって「二礼、二拍手、一礼」をちゃんと行っておいた。不思議なことに、ご神体の方向がいまではなんとなくではあるがわかるような気がする。


 今礼拝した方向が実のところ正解かどうかは今のところ分からないがな。


 モダンな住居を手に入れてしまったが、とにかく俺の場合、鎧が脱げないのでくつろぐことができない。逆に寝る必要も飲食の必要もない体なので寛ぐ必要がそもそもない。


 だから、つらいとかそんな感情もないので、現代生活の恩恵をトルシェに味わってもらっても羨ましいとか何も感じない。なので、トルシェに現代生活のすばらしさを感じてもらおうと、


『トルシェ、せっかくだから、風呂に入ってみないか? さっきの風呂場でお湯が出たろ。あそこをひねってお湯を湯舟ゆぶねに溜めて、熱いようなら、隣から水を出して調整すればいい』


『大丈夫でしょうか?』


『それは大丈夫だろ。風呂に入って汗を流したらすっきりするぞ? 俺はこの体だし鎧も取れないから風呂に入れないが、トルシェは遠慮せず入ったらどうだ?』


『それじゃあ遠慮なく』


 トルシェさん、遠慮なくと、遠慮なしは違うんじゃないか? そんなところでマッパになるなよ。風呂場の前で脱げよ。その前に、お湯を入れてから服を脱げよ。これじゃあまるで、野人やじんじゃないか。


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