第47話 なんだろ?


 ムカデのすみが鑑定できた。高級そうな炭だったが、それだけだ。


 それはそれで、この円柱が鑑定石だと分かったことに意味がある。そして、あのムカデがダンジョン大ムカデの変異種ということも分かった。だから何だという話ではあるがな。


 次はこの大広間の探検だ。


 ざっと見まわしてみると、だだっ広いこの大広間。左右、正面の壁に扉が何個か見える。この大広間には小部屋が何個かつらなっているらしい。


 当然だが、一つ一つ中を確認しなくちゃいけない。隣の褐色娘かっしょくむすめ鼻息はないきが荒くなってきている。


『ダークンさん、右手のあそこの扉から左回りに確認していきましょう。ほら早く、早く』


 鼻の孔を膨らませたトルシェが俺をせかす。


『急がなくても、逃げはしないんだから落ち着け』


『どう見てもここは宝物庫ほうもつこですよ』


 いや、どこをどう見たら宝物庫になるのかは、俺には全く分からん。


『トルシェ、そうは言うが、おまえ宝物庫なんて見たことあるのか?』


『見たことはありませんが、ここはきっと宝物庫なんです。わたしのかんが言っています。宝物庫だって』


『その方が面白いから俺もそう願いたいがな。それじゃあ、最初の扉を開けてみるぞ』


 目の前の扉は、幅は広いが普通の・・・木の扉、逆に言えば工業製品のように非常に精巧にできた扉に見え、取っ手も普通についていた。


 扉を押し開くと中は通路状の長細い部屋で、扉が開いたことで中の照明が点灯したようだ。


 通路のような長細い部屋の両脇の壁に沿って、作業台のような台が長く続いている。その上に何やら金物で出来たガラクタが並べられていた。どう見ても俺にはガラクタに見えるのだが、トルシェにとっては違ったらしい。


『ダークンさん、見てください。凄いですよ』


『えーと、どこのどれが?』


『ピカピカしていて』


『ああ、どれもピカピカはしてるな。それで?』


『だから、それだけでもすごいじゃないですか』


『ピカピカだとそんなにすごいのか?』


『すごいんです』


 ピカピカはすごいらしい。もうこうなったら、スゴイスゴイ作戦だ。


『これも、すごい』


『スゴイ、スゴイ』


『これも、すごい』


『スゴイ、スゴイ』


『わっ!これは?』


『なんだ?』


『さあ、何でしょう?』


『何かの箱に見えるが、どうやって開けるのかな?』


 スゴイ、スゴイと言っているうちに部屋の一何奥までやって来た。ゆかの上に、黄土色おうどいろの金属、真鍮しんちゅうっぽい金属で出来た箱のような物が置いてあった。大きさは段ボールのみかん箱ほどだ。箱の上の方の出っ張りが気になったので押したり引っぱったりして見たら、いきなり箱の蓋が左右にスライドしてパカリと開いた。


『開いた!』


 中をのぞいて見ると、一辺5センチほどの銀色のサイコロが、積まれて20~30個入っていた。サイコロの目が描いてあるわけではないので、立方体の金属塊といった方が正確か。その一つを手に持ってみたが、見た目に反して結構軽い。なんだろ?


『すごい! 見てください、「収納キューブ」ですよ。絶対にこれは「収納キューブ」ですよ。それもこんなにたくさん』


『「収納キューブ」? なんだ? 響きから言って「収納バッグ」みたいのものか?』


『「収納バッグ」? そういえば、以前ダークンさんが言ってたアレですね』


『ああ、それはそうなんだが、どう見てもこの中に物が入るようには見えないぞ』


 手に持った大きなサイコロを指でつまんでいろいろな方向からよく見ても何もわからない。


『それじゃあ、見ていてください』


 そういって、トルシェが箱の中からもう一つのサイコロを取り出して、


『開け!』そう頭の中でいって、床の上に放り出した。


 サイコロは床に落ちる途中から大きくなり始め、結局縦横高さ1メートルほどの箱になった。


『ほら、やっぱり「収納キューブ」だったでしょ?』


「でしょ?」って言われても、この大きな箱を一体どうするんだ?


『トルシェ、すまないが俺は「収納キューブ」なるものは全く知らないんだ。それで、この大きくなった箱をどうするんだ?』


『どっからでもいいですから、この箱の中に物を突っ込んでみてください』


『こうか?』


 そういって、俺はリフレクターを腰から外して箱を突いてみたところ、リフレクターの先が箱の中に消えて見えなくなった。引っ張ると消えた先端がちゃんとついている。


『そのまま、そのこん棒を突っ込んで中に入れてみてください』


 トルシェに言われた通り、リフレクターを放り投げるように箱の中に突っ込んでやったら中に消えて見えなくなった。


『閉まれ!』


 トルシェの言葉と同時に、1辺1メートルはあった箱が、もとの1辺5センチほどのサイコロになって床に転がった。


 サイコロを拾い上げてみたところ、元の軽いままのサイコロでリフレクターが入っている重さではない。


『出ろ!』


 虚空こくうからリフレクターが現れ、床の上に転がった。俺の考えていたようなアイテムバッグとは違ったが、十分な利用価値がある。


『こいつはすごいな。これ1つに、さっきの大きさまで入れることができるのか?』


『ものによりますが、たいていはあの大きさの何倍も中に入るようです。わたしも実物を遠くから見たことがあるだけなので詳しくはわかりません。でもこれは、こんなところにあったものですから相当高性能の「収納キューブ」の可能性が有りますよ』


 リフレクターを腰につけ直し、


『こんなには必要ないから、二人で一つずつ持っておくか』


『そうですね。また必要ならここに来ればいいですし』



『この部屋はこんなところだな。一つだけそこの作業台の上のガラクタを鑑定しておくか』


 そういって、台の上に載っていた金属の棒のような物を手に取って、その部屋から出て行き、鑑定石まで持っていった。


 手に持った金属棒を鑑定石の上において、ガントレットを外した手を鑑定石の模様にあてる。


<鑑定石>

「鑑定結果:

名称:エネルギーチューブ

種別:リンガレングの部品

特性:リンガレングの予備部品、必要があれば、リンガレングが自律的じりつてきに交換する」


『リンガレング』が何なのかわからないが、その部品だったようだ。いったんリュックに入れてあとで戻しておこう。


 そうそう、『収納キューブ』を鑑定しておいた方が良いだろう。


<鑑定石>

「鑑定結果:

名称:収納キューブ1型

種別:収納キューブ

特性:内部に物品を収納できる。容量は100万立方メートル

注意事項:収納したものを思い描くことで単品でも排出可能」


 100万立方メートル? 立方体にしたら一辺100メートル。何かの間違いか?




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