第15話 冒険者たち2、大迷宮~3層
『
「おまえがトルシェか? 俺は『
「は、はい。わたしがトルシェです。えーと、本当にわたしでいいんですか?」
「ああ、そうだ。俺たちはあしたから二泊三日で迷宮に潜る。ついて来るなら
「はい。ぜひご一緒させてください」
二泊三日というとそれなりの荷物を準備しなくてはならない。
今の手持ちの金では、準備できそうもないので何かを売らなければならない。冒険者として必要な装備は売れないので、いま売れるものといえば右手の中指にはめた形見の指輪だけだ。
指輪に目をやり、やはりそれはできないのでこの話を断ろうとしたところ、それを察したのか、マーシーは、
「そうか、そしたら準備にも金が要るだろうからこれを使え。報酬の前払いだ」
そう言って、小袋をトルシェに渡した。
「待ってるぜ。俺たちも準備があるからそれじゃあな」
マーシーがそう言うと『暁の刃』の連中はトルシェを残しそのままギルドから出て行ってしまった。
小袋の中には金貨が3枚。小金貨ではない。ほとんど初対面の自分にそれなりの金額を渡していったことは、少し妙だとは思う。
自分がその金を持って逃げるとは考えなかったのか、『暁の刃』にとってははした金だったのか。
これだけあれば溜まった宿屋の部屋代も払えるし、いろいろな装備を買うこともできる。
今はあまり考えず幸運を喜ぼうとトルシェは自分を納得させた。
二日分の食料と水、その他こまごまとしたものを買いそろえ、リュックにいれて準備は整った。
トルシェは二日ほど宿を空けると宿屋のおかみに告げ、これまでの部屋代も含めたツケも清算して翌朝早く宿屋を後にし『大迷宮』の入り口に向かった。
入り口前にはすでに『暁の刃』の5人もそろっていた。一応初対面なので自己紹介でもしようとしたら、
「すぐに迷宮に入るからそんなのはいい。ちゃんと遅れず俺たちについて来るんだぞ。
みんな、行くぞ! 気を抜くなよ」
リーダーのマーシーがそう言うと、『暁の刃』の残りの4人は無言でぞろぞろと歩き始めたので、彼らの一番後ろについて迷宮に向かった。
入り口で冒険者ギルドのギルド証を見せて、迷宮の本当の出入り口に進む。迷宮の出入り口は、高さが4メートルほど、幅が5メートルほどあるやや楕円形をした黒い渦が渦巻いた不思議なところだ。
渦に入る者、渦から出てくる者。ひっきりなしに出入りがある。見ていると、渦から出てくるほとんどの者は背中のリュックをぱんぱんに膨らませて、冒険者ギルドの出先施設である
待たされることなく『暁の刃』の5人が次々と渦の中に入っていく。次は、トルシェの番だ。
黒い渦の中に体を入れると、目の前の黒い渦巻きが消え、いつもと同じ迷宮の1層
迷宮の浅い部分は通路自体が発光しているようでほの暗いながらも足元も良く見えるし、戦闘などを行うにしても
これが5層辺りになるとかなり暗くなり、たいまつなどの照明や明かりの魔法などが必要となってくる。
『暁の刃』の5人はすでに2層へと続く階段に向かって歩き始めている。トルシェは小走りで彼らの後を追った。
2層への階段に続く通路は、2層に進む者、下の層から仕事を終えて出口に向かう者と、人の
『暁の刃』の5人は前を進む冒険者たちを次々追い越していく。トルシェは時に小走りになって彼らの後を必死について行った。
迷宮に入り、1時間ほど歩き続け、やっと2層への階段が見えて来た。
「このまま2層に下りるぞ」
迷宮の階段はいずれも300段ある。荷物を持っての上り下りは結構きつい。
お互いの自己紹介もしないまま、行き先も聞かぬままここまで来たが、トルシェに話しかけてくるパーティーメンバーはいない。たまにリーダーのマーシーが、「ぐずぐずするな」と、トルシェを
トルシェ自身も人と会話をすることに慣れてもいないし、報酬の金貨三枚を先にもらってしまった負い目もあり、そのまま黙って『暁の刃』の5人について迷宮の中を
やっとのことで300段の階段を
2層でも1層同様わき目もふらず、3層へと続く階段まで急いだ。
「階段を下りてそこで一休みするぞ」
マーシーの言葉で、そのまま階段を下りていくことになった。
トルシェは階段を
すでに、『暁の刃』の5人は座り込んで各々自分のリュックから飲み水や
トルシェも急いでリュックを下ろし取り出した携帯食を口に詰めこみ水で流し込んだ。
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