第16話 冒険者たち3、大迷宮~5層


 3層からは、2層までとちがい主要通路を行く冒険者の数もぐっと減る。また、通路の分岐ぶんき交差こうさではモンスターと出くわす可能性が高まる。


 そのため3層に入り軽く腹ごしらえをした『暁の刃』の5人は各々の得物えものをいつでも使えるよう装備し直し、トルシェも自分の武器である短剣と短弓たんきゅう、それに矢筒やづつを確認した。


「このまま4層まで進むぞ。遅れるな」


 エルフの冒険者なら、『スタミナ』程度の魔法は簡単に自分にかけることができ、少しぐらい無理してもすぐに回復できるので何も問題はないのだが、トルシェは理由は不明だが魔法が一切使えない。


 それもあって、弓を死に物狂いで訓練した結果、その腕前には自信を持っていた。しかし、弓だけでは限界もあり、なかなか冒険者として上を目指せない理由になっている。


 今のように、冒険者たちに誰にもかまってもらえない現状では、パーティーを組むこともできず冒険者の級を上げることなど夢のまた夢だ。


 だからこそ、今回『暁の刃』の面々に認めてもらえれば、この先の展開が開けるのではと期待しての同行である。


 一時的なパーティーメンバーといってもどうも扱いが雑すぎる。不信と不満はあるが、それは胸に収めて頑張ろうと自分に言い聞かせて、トルシェは気力を振り絞り前を行く5人について行く。


 前方を歩く他の冒険者と、前方からやってくる冒険者が途切れ、しばらく進んでいった先の通路が交差した場所に通りかかった。


「右手に、つのウサギが2匹いる。こっちに気づいた。戦うぞ」


 マーシーの声で『暁の刃』の面々が右に向き一斉に各々の武器を構えた。トルシェも自分の短弓に矢をつがえて味方が射線に入らないよう一歩わきにより、角ウサギの接近に備えた。


「来るぞ!」


 角ウサギが大盾を持つ前衛の盾役にとびかかって来た。


 盾役の構えた大盾の鋼の表面に角ウサギの角が一度激突し、盾がこすれる嫌な音が響く。


 中衛が、通路のゆかに一度足をついた角ウサギに手に持った槍をすかさず突き出した。角ウサギは身をよじってその槍の一突きをかわそうとしたが間に合わず、槍は角ウサギの後ろ脚に突き刺さった。


 中衛は槍をひねりながら引き抜きさらにダメージを与えたところはさすがに熟練の冒険者だ。


 ひるんだ角ウサギに対して盾役が手に持ったメイスをたたきつけた。


 頭を割られた角ウサギはそのまま体を痙攣けいれんさせ、やがて絶命ぜつめいした。


 もう一匹の角ウサギもすでに他の『暁の刃』のメンバーたちの見事な連携れんけいによって仕留められていた。


 これが上位冒険者パーティーの戦い方なのか。


 全く危なげもなければ無駄のない戦いにトルシェはひどく驚いてしまった。こんなパーティーにどうして自分が参加しているのかあらためて違和感いわかんを覚えるのだった。


 むくろとなった二匹の角ウサギは素早く解体され、『暁の刃』のメンバーの一人のリュックの中に仕舞しまわれた。


「さっさと行くぞ! 4層のセーフエリアまで行ってそこでキャンプだ」


 特に会話もなく『暁の刃』の面々が4層への階段に向かって進んで行く。4層までの階段への通路は横道に入らなければ、行き交う冒険者が居なくても足跡や目印めじるしに削られた跡などから迷うことはない。


 そして、なんとか、数回のモンスターとの戦闘の後、300段の階段を下り、そのまま休憩も取らず30分ほど進んだ先の4層のセーフエリアにたどり着いた。


 4層には他に分かっているだけで4カ所セーフエリアが有る。大迷宮は階層を重ねるたびに広くなっており、この4層は東西10キロ、南北5キロの広さがあると考えられているがまだ未踏の場所もあるらしく、はっきりした広さは分かっていない。


 今トルシェたちのいるセーフエリアは1辺20メートルほどの周りを石で囲まれた洞窟状の部屋で、幅2メートルほどの出入り口が1カ所あるだけなので、見張りのしやすい構造になっている。


 すでに、そのセーフエリアには先客が2組ほどいて、思い思いに休憩したり、保存食を食べたりしていた。


「ここで4時間ほど休みをとって5層に向かう。俺が見張りをするから、みんなは休んでおけ。特にトルシェはちゃんと休んでおけよ」


 すぐに、適当な場所を見つけて『暁の刃』の面々は携帯食を取り出し、水で流し込み始めた。トルシェもマーシーの言葉にうなずきすぐに携帯食けいたいしょくを取り出し水で流し込み始めた。


 リュックの外側に丸めてくくりつけていた毛布を広げ、座ったまま頭からかぶって目を閉じていたら、すぐに睡魔すいまが襲ってきて、トルシェは眠りについた。



「起きろ、時間だ」


 目をつむったと思ったら、もう4時間近く経っていたようだ。硬い床の上で座ったまま寝ていたせいで体の節々ふしぶしは痛いが、眠気はなくなった。すぐに毛布を丸め、リュックに括りつけて出発準備が終わった。


「行くぞ!」


 マーシーの声で、みんなが立ち上がり歩き始めた。トルシェも彼らに遅れぬように後ろについて歩き始めた。



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