第2話 そうだ、ダンプにひかれよう!
こんなところに立っていてはまずいと思い、もう一度手術台の上に戻り、何とか横になったところで、
「特に問題はないようだが。びっくりするじゃないか」
「すみません。この死体が確かに歩いているのが目に入ったのですが、
「先生、先ほど
「そうだな。何かのショックで死体が生き返ることも有るから、ちょっと調べてみるか」
何が変わるわけではないのだが、俺の寝ている手術台のことは
などと、余裕をかまして意味のないことを考えていたら、また左手を持たれた。
「脈はない。痛みに反応するか見てみよう」
左手の人差し指の先が何かに押されている。
「針を刺しても何の反応もないな。何かの
どうやら、これから俺の心臓を取り外すようだ。
だれか、助けてくれー。
「先生、今死体の指が動きませんでしたか?」
「気のせいだろう」
そうだ! 動けばいいんだ。そしたら少なくとも解剖はされないだろう。
閉じていたまぶたを思い切り開けてやった。
「ギャー!」
ガシャガシャーン!
解剖台の周りにいた、医師と看護師たちが解剖器具の載った台をひっくり返して、出口に向かってそのまま逃げて行ってしまった。
これからどうなる俺? どうする俺? このまま死んだままなのか?
そうだ! なんとか病院を抜け出してダンプにひかれればいいんだ。1億分の1かもしれないが転生できるかもしれない。今はそれに賭けるしかない。
逃げ帰った連中がやってくる前にここから脱出だ。
何とか解剖台から起きだして、床に足をつけ一歩一歩、歩いて行く。
開いたままのドアから解剖室を抜けだし廊下に出た。幸い人の
一歩一歩がずいぶん遅い。ずるりー、ずるりーといった感じで歩いていると、ああ、俺はゾンビなんだと実感する。いわゆる人外。アンデッドさまのお通りだい。
だからといって解剖はないだろ。こっちは意識があるんだからな。
少し歩いて行くと非常口を示す緑の標識が見えてきた。そのまま進んでいくと、上り階段が見えてきた。下り階段がないようなのでここは地下だったようだ。確かこの病院には地下は1階しかなかったはず。1階分階段を上ればそこは地上階だろう。
階段を上るのがまた遅い。誰かが来ないか気が気でない。一歩一歩、一段一段、階段を上っていく。
やっと地上階に出たようで、通路には窓が有り、そこから外が見えた。窓の外、5メートルくらい先に
窓を左手でゆっくりと開け、何とか外に出ようと身を乗り出してバタバタ何度かしていたらバタリと音をたてて、体が窓の外、アスファルト製の道路のようなところに落っこちた。
アスファルトはコンクリートに比べれば柔らかいのかもしれないが、人の体、今回はゾンビの体になるが、それに比べれば十分硬い。何とか立ち上がったもののなんだか視界が左に傾いている。どうも首の骨が折れたらしい。頭が左にかしいだまま、フェンスを目指して歩いて行く。右腕は当然ブランブランだ。
客観的に見て、俺の姿は、ザ・ゾンビ。人に見つかる前に何とかフェンスを越えてトラックに身投げせねば。
痛みがないのではっきりしないが、ダメージが首以外にもあったようで、さっきまでの移動速度よりもさらに歩みが遅くなったようだ。院内ではまだ騒ぎが大きくなっていないようだが時間の問題だろう。
気持だけは焦りながらも、ゆっくりと
片手しか使えないものの、かなりゆっくりとではあるが、なんとかフェンスの上によじ登ることができた。そろそろ院内が騒がしくなってきたようだ。
そう思ったことが、気の緩みになったのか、フェンスの上端をまたいだ姿勢から、病院側に残った足を引き上げようとしたところでバランスを崩してしまった。
とっさに左手を金網に伸ばしたのだが掴み切れず、体が3メートル下の歩道に落っこちてしまった。それだけならよかったのだが、一度落っこちた体がみょうな具合にバウンドしてしまい、そのまま公道、つまり大型車も行き来する車道に転がり出てしまった。
キキキキキーー!
急停車する車両。運のいいことにその車は大型トラックだった。
そんな大きなものが急ブレーキですぐに停車できるわけでもなく、俺はそのトラックに
これで、俺は真っ白い部屋に直行できると思っていたのだが。
地面と空が交互にくるくる回っている。どうなっている?
回転がやっと止まったところ、低い位置から路上に目をやると、俺の体がバラバラになってそこらに散らばってるじゃないか。かなりの量の血も飛び散っている。一部の部品はトラックのタイヤに潰されて真っ赤なミンチになっている。
いまの俺は、頭だけで道路に転がっているようだ。俺をひいたトラックは10メートルほどオーバーランして停車したあと、運転手が道路に降りてきて周りを確認している。この運転手には悪いことをしてしまったな。とはいえ、他人のことを心配しても今の俺ではどうしようもない。
ヤヴァい! 今度はまっすぐ
目をつむってひかれるのを待つこと2秒。何だか強い衝撃と変な
勝手に目に入って来た情景だか景色が急速に流れていく。どうも俺はいま空を飛んでいる。どうなったんだ? だんだん高度が下がったところで、停車した自動車のフロントガラスが迫って来た。運転手が目を見張って俺を見ている。ぶつかる瞬間フロントガラスに映った俺はただの目玉だった。
玉子が割れるように俺の目玉が
[あとがき]
アタックNo.1
ハリスの旋風(かぜ)
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