第12話 まさか女子を家にあげる日が来るとは思いもしませんでした。なお、恋愛フラグは立っていない模様


 ドローンこと自宅警備員さんに連れられきたところはまさかの僕の家だった。おかしいだろ。



「でも、久しぶりの我が家だなぁ」



 日本中そこらに溢れ返っている木造二階建ての一軒家。建ってからそれなりに経過していて、ネズミ色の外壁塗装が薄汚れ始めている。そんなところがいかにもそこら辺にある家って感じ。


 腐るほど見慣れた家の門の前に立つ。

 随分と久しぶりの我が家だが、嬉しさよりも困惑の方が際立った。


 後ろをチラリ。

 そこには斎藤達が興味本意でジロジロと僕の家を見ている。

 こいつら入れなきゃダメかなぁ。




『ここは運良くモンスターに荒らされなかった場所だ。だからここを選んだんだよ』


「だからってぇ……他にも家が沢山あるじゃん」


『おや、知らない人の家に押し掛けるのは失礼というか犯罪だと思うがね』


「いきなりそんな正論言われても。ぐぅの音も出ない」



 自分で言っていて難だけど、僕の倫理観が相当狂っていた件について。

 自宅警備員氏に言われるまで、平然と他人の家を使おうとか考えていた。

 世界が変わる前の自分だったら口に出すことすら憚ったはずだ。自らの変わりように辟易とするわ。

 まぁ、ぶっちゃけてそこまで悪いこととは思わない。

 環境が変われば生き方を変える、そうして古来から人は生き抜いて来たのだ。今回もそれと同じなだけと言えるだろう。

 クラスで地味だけどよくよく見ると可愛い女の子が、夏休み明けにギャルに変化してるみたいなもんだね。

 違う? 違うかー。



「うだうだ言ってないでさっさと入るわよー」


「え、四条氏ほんとに入る気? アレがアレでアレだから止めておいたほうがいいと……」


 四条はそんな僕の言葉など一ミリたとも気にしないようで玄関に向かってしまった。


「観念なさい北原君。わざわざ長時間かけて来たのに入らないなんて論外よ。それに貴方の家に少し興味があるわ」


「えぇ……なんで乗り気なのさ……」



 そう言うと斎藤も四条の後に続いた。

 意外にもほどがあるが斎藤は何故か上機嫌だ。何が楽しいのか皆目検討もつかないが、止めることも出来なそうだなぁ。あの子達ほんと人の言うこと聞かないから……。



「えっと……ドンマイなのれす……」


「ありがと幼女ちゃん。君だけだよ僕の味方は」



 項垂れる僕の頭を幼女ちゃんはポンポンと撫でてくれる。あかん、優しさが心にしみてロリコンになってまう。

 お礼を言われると幼女ちゃんはパタパタと四条達の所へ駆けていってしまった。かわいい。最高かよ。



「ちなみに自宅警備員さん。なんで僕の家を選んだのさ」


『あぁ、そんなもの決まっているだろう? ーーそのほうが面白いからに決まってる』


 わざわざ一拍置いて、決め台詞のように言ってきたんですけどこいつ。

 ドローンの向こうにいる本体はさぞご満悦なことだろう。それを想像すると更にげんなりしてしまいそうだ。


 どのみち四条は家のドアを無許可で開こうとしている所だ。今更抵抗しても無意味なことは明白だった。

 僕はせめてもの抵抗に困ったように溜め息を吐くばかりだ。いや、そんなことしても特に意味はないんだけどね。




 ーーー




 中に入ると意外にも荒らされた形跡はない。

 綺麗に靴が揃えられた玄関に、小綺麗に手入れされたリビング。

 最後に見た時と何ら変わらない。


「へぇー北原の家にしては随分綺麗じゃない

 」


 流石四条、人の家に入っての第一声がそれとか。

 そういう高圧っぽいような態度とるから裏でツンデレとか言われるんだぞ。



「北原君のご家族は?」



「あーそういえば何かの懸賞に当たってハワイに行ってる最中だったなぁ」


 今もそうだが、そもそも一週間前ぐらいからこの家には僕以外住んでいない。


 その理由を思い返すと、今でも腸が煮え返りそうになる。

 あいつら『この旅行は二人用なんだ。ごめんなー!』とかほざいて僕を置いてきやがった。俺もハワイに行きたかったんですけど。



「このタイミングで海外とか……運が良いのか悪いのか分からないわね」


『そうだね。現在海外がどうなっているかは色々な情報が行き交っていて真相が掴めない状況だ。詐欺師君、ご両親と連絡は取れるのかい?』


「いや、取れてない。というか旅行中一切連絡取れてないまである」



 しかも、久しぶりの夫婦デートを邪魔されたくないからってスマホ放り投げて行ったからねアイツら。



「そう。安全であることを祈るばかりね」


「無事だと良いのれす……」



 斎藤と幼女ちゃんは心配そうに声をかけてくるが、僕はそこまで心配してはいない。

 言葉にしづらいのだが特にクソ親父。アイツなんだかんだ生き延びてそうなんだよね。

 全く心配していないわけでもないが、心配したところで出来ることも特にない。

 だったら、このぐらいの心持ちでいた方が精神衛生上いい気がする。




「まぁ、そこら辺の話は置いておいて。もうクタクタだよ少し休もうよ」


「北原君の意見に私も賛成ね。流石に堪えるわ」



『ほぅ。なら詐欺師君の部屋を探索しようじゃないか』



「ちょっ」



 はい?


 いや、意味わかんないすけど。今そんな話の流れじゃ無かったでしょうよ。



「アタシ実は男の子の部屋に入るの初めてなのよね」



 しかも意外にも四条がめちゃくちゃ乗り気なんですけど。頬とか楽しそうに上気してるし。

 しかも、初めてとかまじかよ。


「えぇ!? クソビッチなのに!?」


 あ、やべ。本音が出た。



 ボグシャッ



 思いっきり殴られた。しかもグーで。



「ちょっ! いったぁ!? ちょっと待ってよ仮にも乙女なんだしグーはないんじゃないの!? グーは!?」


「ふんっ!!」


 四条はそっぽ向いて、ズンズンと歩みを奥の方に行ってしまう。



「今のは北原君が悪いわね」

『あぁ、彼は中々に乙女心がわかってないね』

「お兄ちゃんその言い方はひどいのれす」



 僕のほんの少しデリカシーが欠如した物言いが悪いとは言え、味方はゼロだった。

 ていうか、今このパーティーは男女比率が可笑しいことに気がつく。

 ハーレムでもないのにね。こういう時、同性がいないと針のむしろだ。

 早く同性の仲間が加わって欲しいなぁ。

 でも、僕はコミュ障だし、出来たところで仲良く出来ないかぁ。

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