第22話 ツインテール美少女はツンデレで暴力系ヒロインと相場で決まっている。え? 百合要員? そんなー。


 世紀末かと思えるぐらいに荒れた教室。そう見えてしまうのは台風でも通り過ぎたかのごとく、机や椅子が乱雑に散らばっているからだろう。窓ガラスなんて割れてないところを探すほうが難しい。



 それでも薄明光線に包まれ、仄かに輝く教室はとてもじゃないがこの世のものとは思えない。

 破滅的であり神秘的。そんな矛盾を孕んで煌々と在り続ける。絵画として飾られたとしても何の驚きもないだろう。



 そして、そんな中に恐れを孕むように立ち尽くす少女が一人。耳上の両サイドに一糸の乱れもなく纏められたツインテールがよく似合っている。

 彼女も彼女とて、この光景に負けず劣らずのものだ。

 むしろ、彼女が立てば、この幻想的に見える光景さえ、引き立て役に成り下がることだろう。

 学年一の美少女と名高い斎藤にだって負けていない。

 斎藤が静なら、彼女は動と言える。



 目線がぶつかる。

 こういう時はいつもお決まりのように固まってしまう。女性に対して不馴れさもさることながら、そもそも何を言えばいいのか一ミリ足りとも思い浮かばない。出来ること言えば、餌を待つ鯉のように口を開閉するぐらいである。



 唐突に空気が破裂するような音が響く。



 間違えなく、もう一度言おう。ビンタされたのだ。


 え? なんで?


 助けたのにビンタされた。えぇ?


 え? ビンタされたの? なんで?


 しかも、初対面で。


 えぇー? そんなー。



 ーーー


 この難解かつ不可解な出来事を紐解くためには、億劫になるが少し時間を巻き戻す必要があるだろう。


 遡ること五分前だ。 



 鎖ゴブリン。いや、正式名称は違うけど呼びやすいからこれで。哀れなるとか覚えづらいんだよね。


 まぁ、そのゴブリンを倒した後、僕らはおもいっきり助けた少女を放置していたことに気づいた。戦闘中も部屋の隅で怯えていたと思うと、一ミリぐらいの罪悪感が出るね。


「大丈夫かしら? って四条さん?」


 先に口を開いたのは斎藤だ。まぁ、コミュ障たる僕は斎藤が喋らないのであれば石の地蔵になる所存である。喋らなくて済むし。



「貴方は斎藤さんっ!?」


 あれ? 知り合いだったの?

 斎藤の口振りからも分かるが、どうやら二人は知り合いらしい。わりと、世間は狭い。


 脇目も降らずツインテ女子は斎藤を抱き締めた。


 あらー、お熱いようで。



「ちょ、ちょっと、どうしたのかしら!?」


 いきなり抱きつかれるものだから普段は冷徹仮面に見える彼女の顔にも朱の色が浮かんでいた。


 ええー、僕になんか粗大ゴミに向ける視線しかくれないのに。


 この前とか家畜に向ける視線だったんですけど。少しちびったんですけど。



「ちょ、ちょっと流石に離れてくれないかしら」


 ここまで恥ずかしそうにする彼女は初めてみたなぁ。


 表情筋とか無いのかなって思ってたわ。


 なんだろうこの感情。なんというか百合の花って悪くないよね。



「うぅうわぁああああん!!」



 お、おう!? 泣くとは思わなかった。これどうしたらいいの!? 


 こういう時、僕は休日のお父さんばりに何をしていいのか分からない。皆目検討もつかない。もはや、酸素を消費するだけの存在に他ならない。


 斎藤さんの方に視線を伸ばしてみるとすげー困った顔してる。僕がいうのもあれだけど友達少なそうだしこういうときの対処すごい苦手そうだよなぁ。



 よし僕はなんかやることないし、というか気まずいしそこら辺に行って時間潰して来ますね!


 ほら、なんか百合百合するなら二時間ぐらい時間潰した方がいいかな?


 なにせ僕は空気が読めるからねっ。




 ーーーー



 教室からでて気まずいこの空間からエスケイプしようかと思ったけどそうは問屋が下ろさなかった。



 いやぁ斎藤さんすごい勢いで睨んでくるんだもん。あれこわい。ネズミとか死んじゃうんじゃない?



 そうそう、このツインテちゃんは四条というらしい。ツインテちゃんと呼ぶけどね?


 流石に落ち着いたのか四条は斎藤に抱きつくのをやめて所在なさげにしてる。


 頬が朱に染まっているので、多分自分の行動を思い出して悶々としていると見た。


 正直、百合百合してて、とても良かったと思いますけどね!



「それで何があったのか話せるかしら」


 斎藤はまるで母親のように慈愛に満ちた声音で会話を促す。


 「ちょい待ち」


 僕の言葉に斎藤達は身構える。別に百合の間に入る男ではないから安心して欲しい。



「アぁあ……アあ……」


 グールだ。

 ゴブリンに殺された松平達がグールに成り下がっていた。

 おぼつかない足取りはまさに亡者。


「やっぱり、死んだ人間はこうなるのね」 


 グール達は明らかにこちらを敵とみなし、向かってきている。

 むざむざ、死ぬわけにもいかない。降り懸かる火の粉は振り払うのみ。



 短剣で一閃。 



 レベルアップした今の僕ならたったこれだけの動作だけで済む。グール達の首と頭はさよならをした。


「ふぅー、意外にあっさり。あ、お話続けていいよ」


 と思ったら四条が無言で此方に向けて、歩みを進めていた。え、何こわ。



「アンタは何てことをっ……!!」



 そして、頬に鈍い衝撃。

 HPに保護されているから痛みはない。何かされた感覚がある程度だ。

 だから、何をされたのか理解が遅れた。



 そう、平手打ちされたのだ。



 え? なんで? 




 かくして、まったく身の覚えのない暴力にさらされた僕。

 あまりの心当たりの無さに頭を抱えるばかりだった。


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