第5話嚇怒と死地からの生還~あるいは外道の所業~

待て待て待てうぇいと。


もちつけ…もとい落ち着けボク!

良し、まだネタが出る。


あいむくーる。



眼はそらすな。

全身全霊で睨みつけろ!


とりあえず現状分析。

敵、牙猪…軽自動車級の大きさでやったら頑丈なバディが自慢の突進系魔物。

鼻息荒い。

明らかな興奮状態…あれは怪我か?


手 負 い と か 最 悪 じ ゃ ね ー か …!


えーっと、味方!


8歳知性派小児、5歳暴走系幼女に11歳暴力系少女!!


あれ?味方ってなんだっけ…。


駄目だ、遠い目をするなボク!

今は目力こそが生命線っ…!


とは言え、所詮小児のツッパリ。

長持ちするわけもない…となれば…。


「妹、ボクの背中を盾にしてライカ嬢のとこまで行って。静かに、声出さないで。”ライカっ”、妹がそっち行ったらそのまま後退!大人呼んで来て!!反論禁止ね。そんなことしてたらマジで死ぬ!!!」


後方で動揺しまくってる気配に対し、強く支持を出す。


緊急時に迷いは敵以上の敵だ。


そして背中にしがみついていた妹の頭を撫で、そっとライカ嬢の方へ押し出します。

こくん、と頷く動きに続き、押し殺した声が聞こえた。


「にぃに、やっちゃえ!」


うわぉ好戦的ぃ!?


…妹、ボク8歳児。

中身も平和ボケ日本のヘタレアラフォーですからね?


妹の信頼感のハードルがやったら高いことに動揺する。

それでもお兄ちゃんとしてはその信頼に応えるべきでしょう。


「そ、そんな…りっくん、いきなり呼び捨てぇ…?…思ったよりいーかもぉ?」


おいこら幼馴染、余裕あんじゃねーか。





妹が動き出したのを感じ、多少なりとも距離が稼げたあたりでボクもじりじりと横に移動する。


大丈夫だ、目は合ってる。

アイツのヘイトはまだボクだ。


襲い掛かられた時、二人を巻き込まない位置取りが肝要。


……べきり。


っ!?


足元で乾いた音。

枯れ木を踏み抜き、体制が崩れ、ほんのわずか視線が逸れる。


――――来る!


目は向けない。

傾いだ勢いのまま転げるように体を投げ出す。


来た。


振動、それから風。


かすめるように大質量が腋を抜ける。

否応なく叩き込まれる実感。

触れただけで紙屑のようにくしゃりと潰れる未来が見えた。



轟音!!



走馬灯のように前世で見た、自動車の衝突実験の映像が脳裏をよぎる。

全身にぶわりと広がる冷や汗を感じながら振り返ると、大木に突っ込んだヤツが見えた。


生木が悲鳴を上げながら引き裂かれ、倒れていく。

ヤツは軽く頭を振った程度で振り返り、再びこちらを睨み、前脚で土を掻く。

湿った落ち葉に覆われた土を、押しのけるようにして立ち上がる。


…良い突っ込み(物理)持ってんじゃねぇか…!



どんだけ頑丈な頭蓋骨してんでしょ。


ん?頭蓋骨…骨…?


おっやぁ?


あれ?コレ、いける…か?


天啓のように浮かんだ思いつきを検証する。


と言うかやるっきゃないよなぁ…。


どの道8歳児の身体能力で何度も逃げられる訳もなし…!


と、腹をくくり、ヤツの隙を伺おうとした時、違和感に気づく。

ヤツの目がボクを見ていない?


「ひにゃっ!?」「に、にぃにっ!」


その視線の先は…妹とライカ嬢!?




ぶちり。



ほほぅ。


よ ろ し い 。 戦 争 だ !


目が座る。

震えも止まる。


走る。


「スキル発動…!我が右手におろしにんにく!!我が左手にレモン汁!!!ほとばしれ、台所の危険物…っ!」


ぶちまけました。


良し効いた!

猪って犬並みに鼻が良いらしいし、レモン汁も構造上目にかかったら防ぎようがあるまい。


前世でうっかりレモン汁を付けた手で目をこすってしまったあの苦しみ、存分に味わうが良い…!


…まだいける?


ならば鼻の穴にねりからしを詰めてくれる!ふはははっ!!(外道)


「うっわぁ…りっくん、鬼っ畜ぅ…!」


…うっさい、勝てばよかろうなのだっ!


そしてここからが勝負!

のたうっているところに手の平を向け集中し、次のスキルを発動。


「スキル発動…栄養操作!」


初使用のせいか、それとも対象が生き物のせいか少し時間がかかります。

それでもじわじわとした手ごたえを感じながらヤツの体から”あるもの”を抜き取り、消し去っていきます。


じりじりとした数分の後、ヤツが立ち直る寸前にようやく処置が終わり、距離を取ります。


細工は流々、後は仕上げをご覧じろってね!


よろけながら立ち上がったヤツは血走った眼をこちらに向け…向け……あ、目が空かないっぽい。


やーい。



煽 っ て み た。



ずだだだだっべきっずどぐしゃぁぁっ!!


必死の横っ飛びで声を頼りに突進するヤツをかわす。

妹と幼馴染のじぇっとすとりーむあたっく(ホーミング機能付き)に比べればこの程度の突進なぞっ!


その直後、足音に紛れて枯れ木が折れるような音が響き、つんのめるようにヤツがまたも大木に突っ込みました。


しかし現れた結果は真逆。


砕けたのは樹ではなく、ヤツの頭蓋骨の方でした。


そう、さっきのスキルで操作した栄養は<カルシウム>。


魔物の肉体は魔力で強化されているらしいですが、それでもこつしょ…こつそそ…えぇい骨粗鬆症っ良し言えた!なんて目じゃないくらいまでスッカスカになった骨であの運動エネルギーを支えきれるはずもありません。


突進の最中に脚を折り、その勢いのまま脆くなった頭蓋骨を大木に叩き付けた形で自滅させたったのです。

ピクピクと痙攣するヤツの頭は大きくへこみ、どう見ても脳までひしゃげているのが見て取れます。

いくら魔物と言えど、ここから復活はありえないでしょう


…ぁー、きっつかったぁー…。


その結果を見届けた後、ボクの意識は闇に溶けていったのです。

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