第8話 お願いだから……

「……私のパパは日頃から、ママに暴力を振っていたの。パパは優しかったのに、なぜか突然変わってしまった」

「うん……」

「私が誰とも話さないのは、怖いからなの。トラウマなの」

「そうだったんだ……」

「それでね、パパが私を鈍器で殴ろうとした時があったの。それは今朝なんだけど……」

「うん……」

「ママ、私のことかばって、それでその鈍器が頭に当たっちゃって……。倒れたママは動かなかった。パパはこれでもか、これでもかってくらいママを殴った。

怖くなった私は逃げるように学校に来たの。でも、あんな場面を見たから、気分が悪くなっちゃって、だから今日一日保健室にいたんだけど……」


優はポケットから出した白い真珠のブレスレットを取り出した。


「これね、ママに貰ったの。ずっと大切にしてて……でも……」


静かに泣き出した優に、近寄って慰めようとしたが、「トラウマ」だと聞いたので、俺は足を踏み出さなかった。踏み出すことが出来なかった。


「家に帰るのも怖いし、大好きだったママも死んで、もう、分からないの……。誰のために生きればいいか……」


なあ、優。


「俺のために生きてくれよっっっっっ!!!!!」

「え……?」

「優、お願いだから……俺のために生きてくれ! ここで自ら命を絶とうなんてやめてくれよっっっ!!! お母さんもそんなこと望んでいない!」


なあ、優。俺の気持ち、ちゃんと届いているか?


「お願いだから、お願いだから……。俺は優に、好きだから……優に生きててほしいんだよ!」

「坂本くん……」


俺は自分の気持ちを叫んだ。


優にちゃんと届いただろうか。

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