噂に翻弄され
ヘイ
噂というのは……
ーー
そんな些細な噂のようなもので、とある少年の恋は儚く破れ去った。
ずっと一途に恋をしてきたのだ。この傷ついた心はどうしてくれよう。
いや、もう無かったことにしよう。
どうせ誰も気がついてないだろうし。そっちの方が痛みが少ないだろう。
そうしてその男の子は記憶の全てに蓋をして、恋をしていた事実を消してしまおうとした。
「あれ、高橋?」
教室のロッカーに向かい、彼は少しだけ傷ついたような顔を見せていたところを、ある意味においては原因とも言える少女に声をかけられた。
「あ、香恋……」
今思い返してみれば、こちらは名前で呼ぶのに、あちらからは名前で呼ばれたことなどない。つまりはその時点でなかった。
こっちは今まで、緊張とかその他もろもろあったのに、とか。名前呼ぶのに、どれだけ頑張ったと思うんだ、とか。
何で早く気がつかなかったんだ。
「えーっと。その、なんだ……」
いつも一緒に帰っているのに、なんというか彼氏がいるという話を聞いて、一緒に帰りづらいというか。
「……どしたの、高橋?」
きょとんとした顔で香恋は高橋の顔を覗き込む。
ちょ、近い!近いから離れて!
そう思いながらも、なんだかんだ幸福感もあってか、注意することもできない。
「か……」
「か?」
「香恋は今日も可愛いなー!」
誤魔化している筈なのに、もっと恥ずかしいことを口走る高橋。
「で、でしょでしょー?」
と意地悪い顔をしながら、肘で高橋の脇腹をつつく。
聞けない。
高橋はなんとか理由をつけて一人で帰ろうと考えている。
「あ、あのさ……」
「う、うん」
「今日は一緒に帰るのやめとこ……」
「そ、そうだね!」
そう言って机の上に置いてあった鞄を手に取って香恋はさっさと走り去ってしまった。
「え、ええ?」
その行動に思わず提案した側だというのにそんな声が漏れ出てしまった。
ーー高橋、彼女いるらしいぜ。
噂に翻弄され ヘイ @Hei767
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