第39話


「いや、いきなり泊まっていけとかマズいだろ?」


「え? マズくないよ? 誰もいないじゃん」


「いや、それがマズいだろ……」


第一に俺の親にも明日学校サボるくせに友達の家に泊まるとかって言えないだろ…… 柚は一緒に住んでないからそこらわかんないんだよな。


「あ! ご飯の心配はしなくていいからご馳走するから」


「そこじゃねぇんだけど……」


「知ってるし……」


「は?」


「ごめん、啓ちゃんが困るってわかってて言ってた」


「ああ、なんだ。 そうだったか」


「怒らないの?」


「もう怒る通り越して呆れてるだけだ」


「だって…… 啓ちゃんが香里ちゃんと仲良くしてて羨ましかったんだもん。 前はあの位置に自分がいたと思うと余計に」


「今も柚は俺を引っ張り回してるよ」


「啓ちゃんの女たらし。 私の気持ちも知らないで……」


「香里とはただの友達だし俺は誰とも付き合う気なんて今の所ないよ」


「じゃあどうして私の家に来てくれたの?」


「そりゃあ柚が心配だからだろ」


「そんなの勘違いするに決まってんじゃん!」


「言ったよな、柚がどう思おうと俺は俺のしたいようにするって」


「じゃあだったらせめて終電まで私と一緒にいて!」


「はいはい、わかったよ」


「やった! じゃあ私お風呂入ってくるね!」


「なんでこのタイミングで風呂なんだよ!?」


「だって…… さっき走り回って挙句に啓ちゃんに抱きつかれたらドキドキして汗かいちゃったんだもん」


「はぁ、じゃあ入ってこいよ」


「はーい! 」


そして柚は風呂に入りに行った。

さて、俺は何してるかなと思ってリビングを見渡してみる、かなり久し振りだな。


柚はまだまだ上がってこないだろうしまたソファで眠らせてもらおう。

そしてしばらく寝ていたんだと思う。

物音で目が覚めた。


起き上がるとバスタオルを巻いた柚の後姿がそこにあった。俺が起きたのを気付いたようだ。 タイミング最悪……


「わぁッ! け、啓ちゃん!? ち、違うの! 服洗濯機に入れちゃって急いで入ったから着替え持ってくるの忘れてて」


柚がびっくりしてハラリとバスタオルが落ちる。 そして柚の後ろ姿が露わになった。


だがそれは俺の想像していたものと違っていた。

背中にはいくつか傷があり古い傷だろうという事はわかった。

そして最近いじめられてつけられたであろう傷も数箇所ある。


柚は急いでしゃがみバスタオルを拾って自分に巻いた。


「見た?」


「悪い……」


「これね、最近ついた傷もあるんだけど昔ウリやってた時結構危ない目にもあって…… ガッカリでしょ? こんな体」


「いや、そんな事ないけどさ。 お前がしてきた事って結構ヤバかったんだなって」


「その時は何も思わなかったけど今になってみるとしっかり刻まれてるんだなって思うの」



柚はそれから足早にクローゼットから着替えを持ってきて服を着た。


「啓ちゃんにますます嫌なところ見られちゃったなぁ」


「なんとも思ってないって」


「傷を差し引いてもなんとも思わない? 私って香里ちゃんにますます勝てない気がしてきた」


「何言ってんだよ? 勝ち負けとかそんな勝負したってそこに俺の意思はないんだから意味ないって」


「そうだね。 私振られてるしね…… あ! ご飯作るね」


柚はそう言いキッチンに向かった。

料理している時の柚や、洗濯などしている時は香里と変わらず普通の女の子なんだなぁと思った。



「はい! 今日はヘマしないで作れたよ! 」


カルボナーラとミネストローネが出てきた。 悔しいが美味しそうだ。柚の料理は弁当で食べていたから味は美味しいだろう。 一口食べるとやっぱり美味しい。


「どう? 美味しい?」


柚は俺の反応を不安そうに待っていた。


「うん、美味しい」


「そっかそっか! そんなに美味しいならまた作ってあげるよ」


そして食べ終わり柚の家で他愛のない話をしていると終電が近くなってきたのでそろそろ帰る事にした。


「啓ちゃん! 駅まで一緒に行こう?」


「俺が帰ったら1人になるだろ? 送らなくていいよ」


「じゃあさ、明日啓ちゃんも学校休むでしょ? だったら明日も一緒にいてくれる?」


「え……」


「え?」


おふざけで言葉を濁してみたら柚は予想以上に落ち込んでしまいそうになっていたので慌てて言い直した。


「わかったよ、明日はどこか行って遊ぶか?」


「うん、ならよし!」


一気に明るくなり明日は絶対電話したらすぐ起きてねとしつこく言われ俺は帰った。

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