第40話


今日は学校をサボり俺はいつもより少し遅い時間に目が覚める。


親たちは仕事に行き俺は遅めの朝食を摂る。 朝起きると柚からメッセージが入っていたので返信しておく。 どんだけ早く起きてんだよ……


メッセージを見ると朝6時には『おはよう』と来ていた。


『今起きて朝飯食べてる』


『遅いよー! 私とっくに起きてたんだから』


『昨日風呂入ってなかったから今からシャワー浴びて準備するから』


『じゃあ啓ちゃんの家に迎えに行くから準備しててね』


昨日は柚の家から帰ってきてすぐ寝てしまったのだ。

あいつなんか前みたく元気になってきたな。 いい傾向なのかわからないけどとっつきやすくなったからまだいいかと思う。


元気がない柚はなんだかどこか消えてしまいそうな感覚に陥ってしまいそうなくらい弱々しい。


風呂場に行きシャワーを浴びる。入学して短くしていた髪の毛もすっかり伸びてしまった。


そろそろ切ろうかな? そんな事を思いながら風呂場を出る。 そして服を着替えスマホを見ると着信があった。


柚かな? と思い画面を開くと香里からだった。 そうか、今は休み時間か。

ほんの1分前くらいに電話が掛かってきたようだから掛け直してみた。


「どうかしたか?」


「どうかしたかじゃないでしょ〜? 2人して学校休んだりして」


「ああ、悪いな。 柚に付き合う羽目になっちゃったんだ」


「もう! それならそれで連絡くらいちょうだいね? 私も一応探してあげたんだから!」


「悪い、埋め合わせ今度するから」


「じゃあ今週の土日のどっちか私と遊ばない? あ、朝日奈さんも一緒でいいよ?」


「え? 柚も?」


「もちろん! だって朝日奈さんも誘った方が楽しいでしょ?」


「うーん、まぁ考えとくよ」


「じゃあ今は朝日奈さんと2人で楽しんで」


「え? なんで2人って?」


「だって2人揃って休んだらそうでしょ? 私だって女の子なんだから朝日奈さんが考える事くらい大体想像つくよ」



そう言ってそろそろ授業始まるからと言って香里は電話を切った。 柚が言うには香里は俺の事好きだと言っているがそんな事言われると妙に意識してしまうんだけどわかってるのか?



インターホンが鳴り玄関を開けると柚がもう来てしまった。


「あれ? 今お風呂上がり? 髪まだ乾かしてないの?」


香里と電話してたなんて言ったら柚は起こりそうなので今上がったばかりと言う事にしておいた。


「あ、髪乾かしてあげるよ」


そう言い柚はドライヤーで俺の髪を撫でながら乾かす。


「啓ちゃんって髪までツヤツヤで本当女の子だねぇ、女の私より時々綺麗に見えちゃってちょっと自信なくすなぁ」


「柚は女っぽい男が好きなのか?」


「あー、昔はそんなんじゃなかったけど今はそうかな」


「まぁ俺はこんなんだから男として頼りなく見えるそうだけどな。 うちの親的には」


「そんな事ないよ? いつだって私に構ってくれたじゃない、今だってそう」


髪を乾かし終わり出掛けようとしたら柚がちょっと待ってと言った。


「前からやってみたかったんだよね!」


柚がバッグをゴソゴソしている。


「何を?」


「啓ちゃんにお化粧!」


「はぁ!?」


「お願い! やらせて、1度でいいから」


「…… どうせやるまでずっと言われそうだからわかったよ。 すぐにとれるようにしてくれよ? 」


「はーい!」


前髪をピンで止められ化粧水を顔に馴染ませ下地を塗りファンデーションを俺に塗っていく。 そしてグロスを塗られた。


「うわぁ…… 私より可愛い、ヘコむ」


自分でやっといて俺を見てショックを受けている。 じゃあやめろよ、と思ったがマスカラまでつけようとしているのでさすがにやめてもらった。


「お、おい! もういいだろ? オカマにする気かよ?」


「え? その言葉遣い直せばどこからどう見ても女の子にしか見えないよ? 可愛すぎて惚れ直しちゃう」


「もう満足だろ? さっさと化粧とれよ」


「ううん、もったいないから今日はこれで行こう?」


「本気で言ってんのか?」


「本気の本気! 私より可愛いから私が引き立て役みたいに見えるのが癪だけど今後あるかどうかわからないし! あ、そうだせっかく女の子にしたんだから服も可愛いの選んで着なきゃね」


「俺がそんなの持ってるように見えるか?」


「見えそうだけどさすがにないよねぇ。 まぁそんだけ可愛いからいいか」


すっかり柚に遊ばれた俺は化粧したまま街中で遊ぶ事にした。

映画館で映画を観ようと柚が言い出した。


「ダメダメ、俺そんなに金ないんだわ」


「お金なら気にしなくていいよ? 全部奢るから」


「はぁ? お前どんだけ金あるんだよ? そういや教科書とか制服もジャージとかいろいろ買い直してたよな?」


「うん、まぁそれは昔貯めてたお金がまだあるからかな?」


「お前どんだけ稼いでんだよ……」


「啓ちゃんはわからないだろうけど私凄くモテるんだからね! そんな私を振っちゃうなんて本当啓ちゃんは贅沢なんだから」


それから柚は俺に何の映画が観たいの? と聞いてきたが俺のチョイスがホラーだったので却下され恋愛系の映画を観ることにした。


観た映画で家族の話も出てきたがその時の柚はとても悲しそうな顔をしていて俺の手を握ってきた。


「面白かったね?」


柚はあまり触れられたくないのかそんな態度は見せないが観る前より若干テンションが下がっている。


「お腹空いたしなんか食べよ?」


「そうだな、どこで食べる?」


「ん〜、あそこのレストラン! 」


「高そうなとこ選ぶよな、お前……」


「だから私が払うからいいんだよ! 」


レストランに入りメニューを見ていると柚が俺をニコニコしながら見ていた。


「なんか女の子とデートしてるみたいで不思議だね」


「なんだそりゃ」


昼食を食べ終わりレストランを出た時だった。


「きゃあっ!」


柚が何者かに肩を掴まれ引っ張られた。


「柚ちゃんだよね? ほら、僕」


「あ…… 佐藤さん」


「覚えててくれたんだね、嬉しいなぁ。柚ちゃんが辞めてから僕寂しいんだよ、お金払うからまたよろしくやらないかい? あれ? そちらは友達? 柚ちゃんの友達だけあって凄く可愛いねぇ」


柚が俺の服を掴んでいる。 怯えてる? 柚が?


「佐藤さん、ごめんなさい。 私もうそういう事はしないんです」


「まぁそんなつれない事言わないで? 多めに払うからさ」


らちがあかないので俺は佐藤さんとやらが柚を掴んでる腕を掴み上げた。


「すいません、柚が怖がってるんでやめてもらえます?」


「え? 」


「さ、佐藤さん! この人私の彼氏なんです!」


「え? 彼氏? 男? ええ!?」


「柚、行こう」


男がポカンとしているうちに足早にその場を去った。


「啓ちゃん、ありがとう…… それに勝手に彼氏扱いしてごめんなさい」


「それはいいけどさ、なんなんだよあの人? お前怯えてただろ?」


「…… あの人ね、私の体に傷をつけてた人の1人でね。私の体の傷を見るたびに自分の所有物だって喜んでたの。 前はお金払ってくれるからいいかと思ってたんだけどさっき会った時急に怖くなって……… おかしいよね、自分で選んだ道なのに勝手に怖がったりして」


ああいう連中が柚の体を傷付けていたのか。 なんの変哲のなさそうな人がそんな性癖の持ち主だとは……


俺は改めて柚はとても危険な世界で苦痛を苦痛と感じず今になりそれが柚を蝕んでいるのだと思った。

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