第33話


俺は朝日奈からの告白を断った。

朝日奈は朝日奈で可哀想な奴だった。 だけど俺は朝日奈に何もしてやれる気がしない。


朝日奈の過去と思いは俺にとって重過ぎたのかもしれない。 前とは違い最近は朝日奈を救ってやりたいとも思った、困っている事があったら助けてやろうとも思っていた。


だけどこの前の朝日奈を見て感じたんだ。 今回はどうにかなった。

だけど次はどうなるかわからない、 中途半端な優しさでは突っ込んではいけない気がした。


だから優しい言葉をかける事も出来なかった、朝日奈が勘違いしないように。

俺は卑怯な人間なのかもしれない。


俺はそんなにできた人間ではない。 ましてや俺はガキだ。



そして次の日学校で朝日奈と顔を合わせるが朝日奈は微妙な笑みを浮かべるとすぐに目を逸らした。


そりゃそうだよな、 俺は朝日奈に何か言われる事でも期待していたのだろうか? そんなわけないな……



それから数日朝日奈とは微妙だった。 席が隣なのも気まずさに拍車をかける。


「そういえば新村君って朝日奈さんと分かれたの?」


1人の女子にそう言われた。


「いや、別れたと言うより付き合ってもないよ。 変な誤解するな」


「そうなんだ」



そして学校とは噂が集まる場所でどこから漏れたのかわからないが例のストーカー事件が捻じ曲げられ朝日奈が原因となっていた。


そして朝日奈がモテていたことが気に食わなかった女子たちが待っていましたと言わんばかりに朝日奈の陰口を言い始めた。そして登校すると……


「朝日奈さんって散々男と遊んだ挙句ストーカーに付きまとわれていたんだって」


「え〜、モテるとは思ってたけど朝日奈さんって性格悪いのねぇ」


「まぁあれだけ可愛かったらモテて調子こくよね」


「なんだか朝日奈さんってムカつくよね」


なんて声が聞こえ出してきた。

そして朝日奈が登校してきた、会話が止まり白い目が朝日奈を刺す。



朝日奈も何か感じ取ったはずだ。


「おはよう……」


「ああ、おはよう。 朝日奈、あのさ……」


「ううん、いいの。 気にしないで」


朝日奈は無理して作った笑顔を向け新村君には何も関係ないからと言わんばかりだ。


それから朝日奈はちょくちょくといじめられるようになっていった。


最初は教科書などが朝日奈の机から隠された。朝日奈の隣の女子は朝日奈を嫌っているグループなので困っていても何もしてくれない。


だから俺が朝日奈の机にくっつき教科書を見せる事にした。


「ごめん、私と一緒だと新村君も……」


「何のことだよ? ただ教科書見せてるだけだろ? 何も問題なんかねぇよ」


おかしいのは朝日奈だ。 俺との事はもう何もないんだから以前のようにブチ切れたりしてもいいはずだ。


朝日奈が切れるとかなり怖いからビビってそんな事はしてこなくなりそうなものなのに朝日奈は前にも増して無抵抗だ。


そして朝日奈がいじめられるのは学校だけじゃなく帰りの電車の中でもだった。



もう俺と朝日奈はなんでもないのだから俺は学校が終わってすぐ帰る事にした。

だけど朝日奈も俺と同じ時間に帰る。


一緒には帰らないが少し前にいたり後ろにいたりする。 ふいに朝日奈がこちらをチラッと見る時があるくらいだ。


電車の中では朝日奈が会いたくないであろう女史のグループもいた。


そして朝日奈にまたちょっかいを出す。

紙くずやゴミを朝日奈目掛けて投げるのだ。


「あれぇ? ゴミ箱のくせにこのゴミ箱ゴミが入んな〜い」


ケラケラと笑い女子たちは朝日奈をあざ笑う。


「男のモノしか入んないんじゃないの?あはは」


バカ! もう我慢すんなよ!

俺が立ち上がって朝日奈の所へ行こうとすると朝日奈はこっちを向き首を微かに横に振った。


来るなって言いたいのか?

ああ、俺がここでまた変な優しさを見せると朝日奈がまた勘違いしてしまうか……


俺って何様なんだ? だが俺にはこの時どうしようもなかった。


朝日奈はそのままからかい続けられ何もしないのをいいことに胸ぐらを掴まれブツブツと何か言われ乱暴に椅子に叩きつけられていた。


俺は朝日奈が気になり朝日奈が降りる駅で一緒に降りようと思ったがすんでの所で俺は踏みとどまった。


一体何が出来るんだ? 朝日奈だってこれ以上俺に優しくされたくないはずだ、さっきも来るなと言っていた。やっぱり俺には何もできない……



そして夏休みに入り朝日奈ともしばらく会う事はなかった。

朝日奈からも会う事はないだろうと俺は思っていた。


だけど夏休みの終わり頃俺はゲーセンに行こうとして外に出ようとした。 外は暑いだろうなぁと思い窓から外を見る。 家の塀のあたりに誰かいる? 人影が見えた。 よく見覚えのある人影。


それは朝日奈だった。

俺は朝日奈の元へ向かうと朝日奈は俺がくるとびっくりしていた。 いつから居たのか知らないがこの炎天下で汗をぐっしょりかいていた。


「新村……君?」


やっぱり少し具合悪そうだ、


「こんなクソ暑い中いつからいたんだよ?」


「ちょっと前から…… 別に会おうとか思ってなかったの、ごめん」


「いいから少し中入れ、熱中症で倒れるぞ?冷たい飲み物やるから」


「……うん」


朝日奈を中に入れ冷たい麦茶を渡す。

朝日奈は喉が渇いてたのかすぐ飲み干した。


「ありがとう新村君」


「お前ってもっと上手くやれるはずだろ?なんであんないいようにやられてるんだ?」


「私にもよくわかんないな、今までやってきた事が自分に返ってきてると思えばね……

ありがとう新村君、私もう帰るね? 私の心配はしなくていいからさ」


そう言い朝日奈は帰っていった。 本当なにしにきたんだよ

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