第31話


「お前もっと笑って客に媚びるようにしろ」


「え? もっと笑う?」


「汚ねぇジジイ共相手もあるし気の利いた事とか客が喜ぶようにもしろよ」


「は、はい! 頑張ります」


「会長、あんなの入れて何考えてんです?うちらそんな余裕ないですよ?」


「まぁ都会からこっちに流れてきたんだ。 あっちでは張り合おうとして負けた。 だから今度はこっちで自由にやらせてもらうさ、それに来た途端あんなのが舞い込んで来た。 あれなら上玉だ、最先いいじゃねぇか? あいつを飼うのも一興だ」





「笑う練習かぁ。えへへへへ……… なんか気持ち悪い……」



私はそれから便利屋に依頼する為のお金を稼いだ。

私にはいっぱいお客さんがついた。



「おじさん! 私と遊んで行かない?」


「はぁ? お前みたいなガキとか? 」


「私子供だからおじさんが大人の見本教えて」


「はは、面白いお嬢ちゃんだな」


まいど〜!


私は作り笑いと自分の心を殺す術を身に付けていった。



「お兄さん、お金は?」


「んなもんあるかよ!? てめぇ俺から金取ろうってのか!?」


「きゃあッ」


殴られちゃった……


「後藤さーん、逃げました。 裏通り通ってたんで囲んじゃってください」


「た、助けてくれ! 金は用意するから! 柚ちゃん、なんとかしてくれ」


「はぁ? 私なんかにお金は払えないってさっき言ってましたよねぇ? 」


「冗談だ! ほら!」


「これだけ? 私あんたに殴られたんだけど治療代としてさらに3万円。 ほら、出せよ?」


男は震える手で更に3万円を私に渡す。


「最初から素直に払ってればこんなことにならなかったんですよ? それに私殴られたら殴り返しちゃう主義なんで!」


私はそう言い男の顔面を靴を持って殴りつけた。


「あー、スッキリ! お兄さんもこれに懲りたら今度はしっかりお金払ってね? それなら私は大歓迎だよ」


私は段々とその世界に染まっていった。 私の心が壊れていく。 でもこれもあいつを殺す為。 私はそう言い聞かせ深みにハマっていった。



「柚、あんた最近おかしいよ?」


夏美と花梨が不安そうに私を見ている。


「どこが? 私なんともないよ?」


「おかしいよ! 性格変わったみたい。 変なバイト? みたいな事してるって……」


「ああ、充実してるよ? 目標に向かってね!」


「柚……」



その頃もう私と叔父さん叔母さんとの仲は最悪になっていた。

もうお前はこの家から出て行けと言われた。


そして私を追い出す形で叔父さん叔母さんは私にマンションを預けた。

お母さんをバカにしたあの家から出て行けるなんて私にも願ったり叶ったりだった。 自分で自分のお母さんをそれで貶めているるとも知らずにね。



そして私はいつもの如く後藤さんに連絡を取り街に繰り出した。


「あの、朝日奈さんってあなた?」


「そうだけど?」


「私は鮎川 鈴菜って言うんだけど…… 朝日奈さんの噂聞いててどんな人かなって気になって…… それで友達から朝日奈さんの写真見せてもらったらとっても綺麗で。それでね、朝日奈さんを前夜に見掛けたの。いつもあんな事してるの?」


「そうだけど? 何、脅す気なの? やめといた方がいいと思うよー?」


「私もやってみたい!」


「はぁ? 本気で言ってるの?」


「朝日奈さんとっても綺麗で私も朝日奈さんみたいになりたい!」


あー、バカだなこの子…… まぁ私もか。


「ふぅん、じゃあ見学する?」


「うん!」


「朝日奈さんじゃなくて柚でいいよ!えと、鈴菜」



「会長! この子が鈴菜ちゃん! 可愛いでしょ〜!」


「ほぉ、確かに。 でもこの嬢ちゃんは向いてるかどうか……」


「私にしたみたいな事しちゃやーよ! あれ結構トラウマになるんだからね!」


「わかったわかった、じゃあ柚ちゃんがしばらく面倒見てやるんだぞ?」


「はーい!」



「柚、何してるの? 」


「ん? ああ、これ? スタンガン」


バチバチと鳴らすと鈴菜が少し怯えていた。


「こんなのどうするの……?」


「聞き分けのないお客さんに使うんだよ? まぁ自衛? 基本的には危なくなったらね! まぁ外ではボディガードも待機してるからさ」


「使った事ある?」


「そりゃもちろん! 躊躇っちゃダメだよ? 男の人は力強いから」


「へ、へぇ、そうなんだ。さすが冷徹嬢ってだけあるね……」


しばらく鈴菜と一緒に行動した。

鈴菜は次第に私の聞き分けがない客に対しての取り立てに恐怖を覚えていた。



そして私がそんな事をやり始めて1年過ぎた頃……


ようやく纏まったお金も貯まり便利屋を雇い犯人の行方を調べてもらった。

そして私は絶望したんだ。




「死んで……る?」


「そうだ」


「嘘だ!!」


「事実だ、間違いない」


その言葉を聞いた瞬間私の中で何かが弾けた。

今までいろんな悪い事をしてきた。 親戚からも嫌われ、処女も失い、嘘をつき、他人に暴力も振るった……


なのに、なのに…… こんな事ってある?

殺したかった。 あいつに後悔して欲しかった。


なのにそれが全部私に返ってきた……

それからの事は私にとって生き地獄だった。


何もかもが無駄だった、これまで私のしてきた事全てが。

家族を殺され怒りと憎しみの中で生きてきた。


その衝動は私をさらに危険に誘った。


「柚やめなよ! 死んじゃうよ!」


「鈴菜、あんたこいつに騙されたんだろ? なら死ぬほど後悔させてあげようよ」


すでに虫の息の男を殴りつける。


「ダメだよ!」


「離せよ! 」


「きゃあっ! 後藤さん、来て! 柚を止めて」


私は私を飼っているヤクザの連中にも嫌われ始めた。 もう何にもいらないや。

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