第30話


「寝言は寝て言えよ? てめぇみたいなクソガキの分際で」


「私本気です!」


「こんな奴助けるんじゃなかったぜ……」


「なんでもしますから!」


「とっと家に帰れ!」


「どうやってですか? ここどこかわからないです。 送ってください」


「てめぇ…… いい度胸してるな」


「じゃあせめて家まで送ってください! お願いします」


「しゃあねぇクソガキだな、おいお前らいくぞ!」


私は車に乗り狸寝入りをする事に決めた。

私の意識がないなら何かこの人たちの情報を掴めるかもと思った。


窓に寄りかかり薄目で寝たフリをする。


「ほんとめんどくせぇガキ助けたもんだぜ」


「後藤さんも人がいいですねぇ、顔は相当いいから拉致って売り飛ばしてしまっても良かったんじゃないですか?」


「まぁまだここに来てから日が浅いからよ、ぼちぼち行くわ」


「このガキ図々しい奴ですよね、寝やがった」


「おい、少し事務所に寄ってくぞ、会長に渡すもんあるからよ、ガキはそれから起こせ。 こいつめんどくさそうだ」



やった! 事務所の場所突き止められる。

いい調子じゃんと私は喜んでいた。


車が止まり事務所らしき場所に着いた。


東海総業…… ふーん。 総業ってなんなんだろう? 何屋さん?


まぁ名前がわかれば後は簡単!


「おい、このガキよく見るとマジで上玉じゃね?」


「歳いくつだこいつ?」


「後藤さんきたら俺らで回さね?」


嘘…… なんか嫌な感じに話が進んでる。 さっきの奴らと似たようなもんじゃん、てか私知らないヤンキーに処女奪われたんだ。


私ってもうろくな恋愛できなそう……

でも復讐するって決めたんだ、今はそれだけに注ごう。


後藤さんらしき人が戻ってきた。


「後藤さん、こいつ帰す前に俺らで回して写真でも映像でも残して便所がわりに使いませんか?」


「何言ってんだよ? バカかお前ら、そんな事しか思いつかねぇから下っ端なんだ、おい! クソガキ起きろ」


「う…ん」


「送ってやる、家どこだ? あと金輪際俺らに関わるなよ?」



そう言い後藤さんは私の家の近くまで送ってくれた。

事務所まではそれほど離れてなく30分歩けば着くくらいの距離だった。


よし、明日からあそこに行こう!


私は次の日から通い詰めた。

門前払いにされ危ない場面も多々あった。


後藤さんとも関わるなと言う約束を破り彼は大激怒していたが他の人たちと違って私に手を出してくることはなかった。


そしてある日私は東堂不動産で出待ちをしていた。すると車が止まり後藤さんと少し偉い感じの人が出てきた。


私に気付くと後藤さんは物凄く嫌な顔をしたが私は一向に構わない。


「後藤、誰だ?この娘」


「うちに入りたいって寝ぼけた事言ってるんです。 毎日追い払ってもきて困ってるんです、どうしましょう?」


「お嬢ちゃん、名前は?」


「朝日奈 柚です」


「見たところ中学生か? なんでまた中学生がうちに入りたいんだ?」


「……殺したい人がいます」


「ちょっと中に入ろうか…」


そう言い私は事務所の中に招かれた。

へぇ、なんか普通の会社? みたいなのかな?


応接室に入れられた。


「それで? 門前払いしても来るくらいだ。 話くらいは聞いてやろう、わしは新堂だ」


そして私はこれまでの事を話した。


「そうか、そういう事かい」


「はい……」


「まぁよくある話だ。 そんな事はさっさと忘れろ、ろくな事にならんぞ? 第一にこっちに旨味も何もない」


「あの、なんでもします!」


「ではこうしよう、柚ちゃん、自分の臓器を今からわしらに提供してもらう」


「え……?」


「できないか? ならこの話は無しだ」


どうしよう…… もしかして殺される?

それとも私を試してる? もうちょっとヤクザの事を調べてくるんだったと後悔した。 何が正解なのかわからない……

でもここで引いたら絶対ダメだ!


「わかりました」


「柚ちゃん、今自分が試されてるのかと思っていただろ? 自分は殺されないと思ったか? 甘いぞ」


「え?」


「度胸だけは認めるけどな」


「そんな……」


「ガキが一丁前な事言った罰だ。さっきの言葉通りお前の臓器を売らせてもらう。 おい、お前らこいつを連れてけ」


「待ってください! 私は…」


男2人に腕を掴まれ事務所の奥に連れて行かれる。

すると後藤さんが注射器を持っていた。


「後悔してるか? ここに来たこと。 でもお前が悪いんだぜ?」


「……私は、それでも復讐したかった」


「まぁ、災難と諦めな」


ここで終わるんだ私って…… と覚悟を決めて目を閉じた。


「待て!」


その声で目を開くと新堂さんがいた。


「悪いな、 ここまで試しだ」


私は体の力が一気に抜けてへたり込んだ。


「気に入ったよ、柚ちゃん。まさか中学生でヤクザに押しかけ死のうとするなんてね。柚ちゃんにとってはよっぽどなんだろう。

まぁ一度死んだ身と思う事だ、わしらの所へ入れる事は出来ないが仕事を与えてやってもいい」


「はい、なんでもします!」


「わしらは柚ちゃんの復讐の手伝いはしないがわしらが都合の悪くなった時に使う便利屋を紹介してやろう。 だが金は自分で払う、それは柚ちゃんが仕事をして払うって事だ、いいか?」


「やります! やらせてください!」


「じゃあ柚ちゃんの体を売ってもらう。 柚ちゃんは可愛いからその手の奴らは飛びつくだろう、しかも中学生だ」


「おい、後藤。お前が柚ちゃんの面倒を見てやれ」


「え? 自分がですか?」


「もともと拾ったのはお前みたいなもんだろう? 」




私はその時から売春婦となった。そしてそれから私は〈冷徹嬢〉と異名されるようになったのは少し先の話だ。

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