第29話
「落ち着け朝日奈! 」
「殺してやる殺してやる……」
ブツブツと朝日奈はそう言いナイフを突き付け俺に躙り寄る。
「俺の声聞こえてるか!?おいっ!」
「殺さなきゃッ!」
朝日奈は勢いよくナイフを振り上げた。
やっぱりこいつ俺が目の前にいるのも見えてない。
振り下ろされたナイフをなんとか躱すがフード男が邪魔でうまく動けない。
朝日奈は空を切ったナイフを返す刀でそのまま下から顔目掛け斬りつける。
俺はフード男を担いでるせいで後ろに倒れそうになるがなんとか踏ん張る。
「逃がさないよ? どうして私から全部奪おうとするの?」
ダメだ今度は躱せない!
すると朝日奈の背後から鮎川がきて朝日奈を後ろから掴んだ。
「柚! ダメだよ! 目の前にいるの新村君だよ!? そんな事もわかんないの?」
「鮎川!」
朝日奈は鮎川の声にも全く反応しない。それどころか鮎川を強引に引き剥がした。
「新村君、早く逃げて! 」
逃げたいけどこの状態じゃ逃げられない。フード男を下ろすか? ダメだ。 朝日奈が犯罪者になってしまう。
朝日奈はもう全然冷静じゃない。 絶対捕まる。
「お父さんお母さんを殺した人やっと見つけたよ? 同じ事してたっぷり痛い目見せてから殺すね」
朝日奈はゾッとするほど不気味な笑いを浮かべて近付いてくる。
俺はフード男を背中から下ろし朝日奈に抱きついた。それでもナイフを振り上げ俺に突き刺そうとした。
「柚ッ!!」
俺は耳元で大声で叫んだ。 けたたましい雨音に負けないように。
ナイフが俺に刺さる瞬間ピタッと止まった……
「あっ……」
「朝日奈、気がついたか?」
何があったか理解できないような顔をしているが俺に抱きしめられナイフを俺に突き立てる自分を見てすぐ理解したようだ。
ナイフがカタンと落ちた音がした。
「わ、私……今新村君を……」
「大丈夫、ギリギリ助かった」
「私なんてことを…………」
そのまま崩れ落ちた。
「私が新村君を………」
「大丈夫だって言ったろ? 何もなかった? それでいいだろ?」
「そんなわけない!! だって……だって私駅のホームからここまで覚えてない!何回斬りつけたのかも覚えてない! 新村君を…… 私が新村君を殺すところだった!」
「私、変わりたかったのに……こんな自分が嫌で変わろうとした! 変われたと思った、なのに…………ふふ……あはははははっ」
「ゆ、柚?」
鮎川が突然笑い出した柚に駆け寄る。
「あははは」
笑ってない、こいつ泣いてるんだ……
雨でわからないがそう感じた。
「朝日奈……」
俺は朝日奈を抱きしめ優しく背中をさすった。 そうして笑い声から鳴き声に変わった。
「ごめ……ごめん……なさい」
「もういいから」
「うわぁぁぁん、ごめんなさい、ごめんなさいッ!」
_______________________________________
私は小学3年生まで幸せに暮らしていた。
心から幸せだと言えるのはそこまでだった。
ある夜私たち家族が寝ていると一階の窓が割れるような音がした。私は怖くなって自分の部屋からお父さんお母さんの寝室に向かった。
お母さんは警察に通報した。
そしてお父さんは一階を見てくると言ってそれきり戻ってこなかった。
お母さんは私をクローゼットの上にある押入れに入れ私の前に荷物を置き開けても見えないようにしてくれた。
そして押入れを閉め間もなくお母さんの叫び声と知らない男の笑い声が部屋に響いた。
押入れの扉を静かに開けるとお母さんは滅多刺しにされていた。
大好きなお母さんの顔は最早原型を留めていなかった。
私は恐怖で震えその光景を見ている事しか出来なかった。
お母さんを刺し終わり男は辺りをキョロキョロし始めた。
もしかして私を探してる? 今度は私の番だ。 そう思い私は覚悟したが男は部屋から出て行った。
そしてどれくらい押入れにいただろう?
その後警察が来て私は保護された。
そしてお父さんの実家に引き取られた。
叔父さん叔母さんはあんな女と結婚したからこんな事になったとか訳のわからない事言ってたけどそんなわけないじゃん。
私のお父さんお母さんはとても優しくて仲が良くて私もいつかこんな風になりたいと思っていた。
私はそれから転校し新しい学校に行った。だけど私は家族が死んでしまってとても学校なんて行く気分にもなれなくずっと落ち込んでいた。
だがそんな暗くなってしまっていた私にも友達が出来た、夏美と花梨だ。 どうしてそんなに落ち込んでいるの? と2人は私に問いかけてきた。
孤独だと思っていた私は2人にあった事を話した。 そうすると2人は一緒に悲しんでくれて私たちがいてあげるからと言ってくれた。
嬉しかった。 犯人もきっとその内捕まると私はほんの少し前向きに考える事にした。 出来たかどうかはわからない。 でも今のこんな有様じゃずっと引きずっていたのだろう。
中学生になり、私は犯人が一向に捕まらず野に放たれている事に苛立ちを隠せなくなった。
私は叔父さん叔母さんの家ではいつも辛かった。 お母さんの悪口を言われ続け私は反発するようになっていた。 当然仲なんて良くなかった。
ある日私はネットで調べていた。 こんな事をした犯人に復讐したいと思い始めた。
復讐するにあたっていろんな事件を調べた。世の中こんな酷い事が平気で起こっているんだと思った。
幸せだった人たちがある日突然不幸のドン底に突き落とされる。許せない許せない許せない許せない!
私は家族を殺した犯人に深い憎悪を募らせていった。
でもどうしたら何をしたらいいかわからない。
私は許せないと言っても何も出来ない無力感に襲われふらふらと街を彷徨い出した。
覚束ない足取りで道ゆく通行人にぶつかりながら歩いていた。 怪訝な眼差しで私を振り向く人たち。何度目かそうしているとついに絡まれた。
ヤンキーのような集団に。
そして私はそいつらの車に連れて行かれ犯された。
原因は私にあるのだがここまでされるのかと思った。
ヤンキーたちは私をこのまま犯しながら撮影しペットにしてしまおうと言っていた。
まぁいいか。 と私は諦めようとした。
だけど犯人に復讐するんじゃなかったのか?と言う思いに駆られヤンキーたちが私から一瞬注意を逸らした隙を見てそいつらの1人が脱いでいたパーカーを引ったくり車から飛び出した。
どこかのパーキングだった。私は助けを求め追ってくる男たちから逃げた。
ふと車の外に立っていた人が見えた。
あの人に助けてもらおう。
「助けて!」
「ああ? ってなんだその格好!? 」
「知らない人に無理矢理レイプされたの!!」
「あいつらか? おい! お前ら出ろ」
男がそう言うと車から2人強面な男性が出てきた。
「お前は車の中に入ってろ」
言われた通り私は車の中に入り隠れていた。 外からは喧嘩している音が聞こえる。 しばらく経つと車のドアがガチャッと開いた。
「済んだぞ」
男がそう言い私は車から顔を出すとヤンキーたちは他の2人に締め上げられていた。
「あの、ありがとうございます。今更なんですがどこのどなたなんでしょう?」
「ああ、俺ら? 見てわかんねぇか? ヤクザだよ」
その瞬間私はもっと酷い奴らに助けを求めたと思って身を強張らせた。
「心配すんなよ、クソガキなんかに何もしねぇよ、てかなんでこんな事になった?」
私はこの時思った。 私に危害を加えるつもりがないのなら上手く取り入ればこの人たちを利用して犯人に迫れるのではないだろうか? ヤクザなら調べられるツテも持っているのではないだろうか?
全くもって今でもあり得ない思考回路だったと思う。だけどそれほどまでに私は復讐がしたかったんだと思う。
「あの…… 私もヤクザに入れてもらえませんか?」
「はぁ!?」
私のあり得ない返答にその男もさすがに驚きを隠せないようだった。
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