第28話



「殺さなきゃ……! 殺さなきゃ!」


「朝日奈、落ち着けって!」


どうしてこうなるんだ! 概ね良い方に傾いてると思ったのに!


まずは朝日奈からナイフを奪わないと……


そして朝日奈はナイフを振り上げた。












遡る事数時間前……



日曜になり朝日奈から電話が掛かってきた。


「新村君…… いきなりごめんね」


「なんだよ?」


「メッセージ入れたのに見てくれないんだもん」


「あー、ごめん。 今起きたとこ」


今日は1日ゴロゴロしてるかと思い何度か寝ていた。 その間に朝日奈から連絡が来ていたようだ。


「でね、今日新村君とお出掛けしたいなぁ…… なんて……ダメかな?」


「どこに?」


「デパート。一緒に買い物行かない?」


「いきなりだなぁ。…… わかったよ」


「ほんと!? やったぁ! でもね、鈴菜も一緒だけどいい?」


「別にいいけど、なんで?」


「鈴菜ね、1人で出歩けないから私と一緒の時くらいしか家から出ないの。 でね、私と新村君に気を遣っちゃって2人で行ってって言うけどなんか可哀想で……」


「そういう事ならいいよ。 鮎川に俺からも一緒に行こうって言っとけよ」


「本当に最近新村君優しくなったね! 私のお陰かな?」


「調子のんな、今からそっち行くから待ってなよ」


「うん」


俺は朝日奈をあまり邪険に扱う事はしなくなっていた。 多分朝日奈の変化に寄るところが大きいのかもしれない。


今の朝日奈は普通の女の子らしくて危なかしいところは面影を潜めていた。

それがなんだか安心したんだ。 それとは逆に変に遠慮するところが出てきてしまった。


だから俺がそんな所をカバーしてやったりもしていた。

ちょっと放っておけなくなったっていう事かもしれない。


朝日奈の家に着き朝日奈たちと街に出掛けた。


「新村君、最近柚にツンケンしなくなったねぇ、柚喜んでるよ」


「俺は別に……」


「鈴菜の言う通り私はとっても嬉しいよ! 新村君がやっとまともに私を見てくれたような気がして」


「はいはい」


「今日だってちゃんと来てくれたしね!」


「柚すっかり喜んじゃってね! どの服が良い?とか面倒だったんだよ」


「鈴菜、それ言わなくていいの!」


そしていろいろ見て回り雨も降り出してきたしそろそろ帰ろうって事になった。


電車から降り、外に出ると大雨になっていた。


「うわ、雨凄いな。 傘持ってくれば良かった」


「私折りたたみ傘もってるよ?」


「鈴菜気が効く! あれ? でもそしたら鈴菜は」


「駅に傘あったような気がしたから借りてこようかな?」


「忘れ物の傘だろそれ?」


「朝にもあったから取りに来ないよ、それに無人駅だし! まぁ、今もあればだけどね、見てくる」



「今日は楽しかったねぇ、また誘ったら新村君来てくれる?」


「気分次第だな、明日学校なのに最終まで遊んだからさすがに疲れたわ」


「じゃあそんな気分になれるように私頑張るね!」


「お前の何を頑張れば俺がそんな気分になるんだよ?」


「そう言われるとなんだろ?」



朝日奈はそう言いニッコリ笑った。

あれ? そういや鮎川は?


「おい、鮎川は?」


「まさか!」


俺と朝日奈は嫌な予感がして鮎川の元へ向かった。

そしてその予感は当たってしまった。


鮎川の前にフードを被って顔を隠した男がナイフを持ち鮎川の前に立っていた。


ナイフには血が付いていた。


「鮎川!!」


鮎川は腕を押さえていた、切られたのだろう、血が滲んでいる。鮎川は顔を真っ青にして怯えていた。


俺たちに気付いて男は走り去っていった。 俺はそのまま男を追い掛けた。

駅の階段まで来たところで追いつきそうになった途端男は踵を返し俺にナイフを突きつけていた。


男は興奮してナイフをブンブン振り回してきた。 俺も焦って後ろに下がって躱すが転んでしまった。


ヤバいと思った瞬間、男はナイフを振り上げ俺の顔に突き立てようとした瞬間男は吹っ飛んで転倒した。 朝日奈が体当たりしたのだ。


朝日奈だった。 朝日奈はそのまま男の頭を傘の柄で振り抜いた。

そしてもう1発。 やめる気配のない朝日奈の腕を掴んだ。


「朝日奈! それ以上はマズい、いくらなんでも死ぬぞ!?」


「今…… 新村君死ぬとこだった」


「ああ、でも朝日奈のお陰で助かったよ」


「でも危なかった、死ぬとこだった……」


「大丈夫だよ、あと警察に言ってこいつ捕まえてもらうから行くぞ」


「ダメだよ」


朝日奈はそう言い男の持っていたナイフを拾った。 朝日奈の表情は少し前の危ない頃の朝日奈に戻っていた。


「こんな奴警察に連れてってもダメだよ、 出て来たらまた同じ事するよ? だったらここで殺さなきゃ」


「そんな事したらお前が逆に捕まるだろ!?」


「新村君が死ぬとこだったんだよ!? 許せない! 絶対許せない!大丈夫。 上手くやればバレないよ。 やり方なら知ってる」


「それでもダメだって!」


最終で人が俺たち以外いなくなった上大雨で外からも聞こえ辛い。

朝日奈はさっきからブツブツと何か言ってボーッとしている。


今のうちにフード男を担いで警察に連れて行かないとそれに鮎川も気になる。

だけどこのフード男を放っておいたら本当に朝日奈はこいつを殺しかねない。


こいつが犯人だしこいつを先に連れて行かないとマズい気がした。

朝日奈が立ち尽くしているので俺はフード男を担いで駅の外に出た。


大雨で服に水が染みて一段とフード男も重くなった気がした。


「新村君」


背後から朝日奈の声が聞こえた。

振り返ると朝日奈がいた。


「なんで来るんだよ? ナイフなんか持って」


「そいつ下ろして? 新村君を殺そうとしたなんてやっぱり許せない。私の大切な人たちみんな私の前から消えちゃう。私にはもう新村君しかいないんだよ? それを殺そうとしたんだよ? どうやっても許したくない!!」


朝日奈が俺にナイフを向けた。こいつ錯乱してる……


「殺してやる」


朝日奈は表情のない表情でそう呟いた。

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