第27話


朝日奈は泣き止み結局1本電車はズレてしまった。


そしてそれが災いしたのか電車の中で昨日は1人だった女子のグループが全員入ってきて朝日奈の元カレの隼人も乗り合わせてしまった。


時間的にはズレているのに正に最悪のタイミングだった。

これには朝日奈も「あ〜あ……」とため息を漏らしていた。



こちらにちょっかいを出すのは当然とばかりに女子たちがやってきた。


「昨日といい今日といいよく会うわねぇ、頭大丈夫だったの?」


ふざけたように朝日奈がぶつけた所をデコピンした。

血は止まったとは言え痛むのか朝日奈はデコピンされた所を押さえていた。


「朝日奈は何もやってないだろ? なんでそっちから喧嘩を売ってくるんだ?」


「もとあと言えばこのクソ女が生意気だからでしょ?」


確かに最初の朝日奈の態度は喧嘩売っていたが昨日は朝日奈は無抵抗だった。


なのにこいつらは前に大勢で囲んで俺までボコって昨日は朝日奈に怪我をさせまた嫌がらせをしてきている。


しかも周りに見えないように俺たちを囲んで。


それに今回も朝日奈が黙っていると限らないし何よりこいつは怪我してる。


「おいお前、いつまで押さえてんだよ! 大袈裟なんだよ」


朝日奈の手を掴み朝日奈に鼻息を荒くして女は凄む。


「ごめんなさい。 確かに私調子に乗ってた。 これからは目立たないようにするから見逃して」


こうまでされても朝日奈は下手に出ている。 必死で我慢してるんだろう。


「お前らこんなに朝日奈が謝ってるのにまだなんか言うつもりか?」


「はぁ? あんたみたいなヒョロい女顔の奴に言われても全然怖くないんだけど」


囲んでいる周りの女子から失笑を買うがこいつらが降りる駅まで時間を稼いでればいい。


「柚ちゃん、そんなにビビって可愛いねぇ、そっちのがあんたにお似合いよ?」


なおも朝日奈に罵倒を浴びせ1人が朝日奈の髪を掴み立ち上がらせた。

そして俺の元へ朝日奈を投げつけた。


朝日奈の髪が何本かブチブチ抜け、投げつけた朝日奈に唾を吐き朝日奈の顔に付く。


その瞬間に俺はこいつらが許せなくなりその女の肩を強引に押しのけた。

かなり力を入れたので向かいの座席にドカッと当たった。


「てめぇ何すんだよ!!」


「お前らもういい加減やめといた方が良いぞ?」


隼人がいきなり割り込んできた。 すると周りの客は俺たちに注目していた。

これ以上注目されるとマズイと思ったのか女子たちは俺らから離れていった。




朝日奈は顔を伏せ髪を乱れた髪を直し顔に付けられた唾を拭いていた。実際には拭いていたのは目元だったのを俺は見てしまった。


「朝日奈……」


「ん? なぁに?」


「なんだよ? 心配してやってんのにその間の抜けた返事は」


「大丈夫だよ? 新村君だって前にボコボコにされてたじゃない。 これくらい私なんともないよ」


「無理してるだろ?」


「ううん、全然」


嘘だな、さっき顔を伏せていた時お前ちょっと泣いてただろ?



「お前さ、怒ったらまた報復されてあいつらに俺がなんかされるかもって思って我慢してるんだろ?」



「…………」


「でもさ、今のは少し朝日奈が可哀想だ。 だから怒ったって仕方ないしそれで俺になんかされても俺はそれで朝日奈のせいだと思ったりしないぞ?」


そして朝日奈はまた顔を伏せてしまった。



「……うぅ、 でも私…… 私少しは変わりたいなって」


「お前って本当に極端だよな。やり過ぎてみたり今みたいにまったく無抵抗になって謝ってたり…… 本当バカだよ」


「うん、自分でもそう思う」


「痛かったろ?」


「……うん。 でも心配してくれて、私のために怒ってくれてありがとう」


「まぁ俺があいつらを許せなくなっただけだ」


朝日奈は俺を向き涙交じりの笑顔で微笑んだ。



それから数日朝日奈は穏やかな方向に変わってきた。 前と比べてはだが。

行き過ぎた行動はあまり見られなくなってきた。


落ち着いたのかと思ったが俺に対するスキンシップは変わっていない。


こうして見るとやっぱり朝日奈は可愛いのだろう。 今まで変な部分がクローズアップされてたばっかりに俺は全くそんな所は見ていなかった。



「何? 私に見惚れてた?」


「いや、落ち着けばお前も大分可愛いんだなって思っただけだ」


「それって褒めてるの?」


「どっちだろうな?」



概ねいい方向に変わってきているのだろう。 朝日奈の過去は確かに酷いが朝日奈にもこらからがある。 だからそのこれからで変わっていけば良いんじゃないか?と俺は思った。


だが朝日奈の暗い過去はそんな俺の思いを粉々に打ち砕くことになった。



大粒の雨が降る中朝日奈は……



「殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやるッ!」


そう言い雨の中びしょ濡れになりながらナイフを俺の方向へ向けていた。

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