第15話


「という事で、新村君は今日は私の家に来てね?」


「どういう事でそんな事になるんだよ? お前の家に行こうとするとボコられた時思い出すから行きたくないんだけど?」


「私怖いよぉ、また待ち伏せされて回されたらどうしよう?」


「知るかよ、自業自得だろ?」


「誰でしょう? 体を張って新村君の財布を取り返したのは」


「…………」


「ね? だからお願い」


「はぁ、わかったよ。 確かに財布が戻ってきて助かったしな」


「やったぁ、ていうか新村君誘うの疲れるなぁ。 全部私の意見突っぱねるんだもん」


「じゃあ誘わなきゃいいだろ? こっちもお前のいう事に振り回されて大変なんだ、ボコられて軽くトラウマになってるんだぞ?」


「だからお詫びしてあげようって私の気持ちわからないの? 新村君さっぱり私の体にも興味持ってくれないしどうやってお詫びしていいかわかんないんだよ?」


「お前そんなんだから軽い女に思われるんだぞ?」


「え、 私軽い女なの?」


「お前が休んでる時坂木がお前の批判書いてる掲示板見せてきたぞ? ビッチとかヤリマンとか書かれてたもんな」


「え〜、新村君には見られたくなかったのに! 夏実の奴……」


「言っとくけど坂木はお前って実は敵だらけだから守ってあげてねって見せたんだぞ?」


「え、じゃあ新村君が守ってくれるの? 嬉しい事言ってくれるじゃん夏実も」


「お前ってコロコロ意見が変わるな……」


「新村君はああ言えばこう言うんだから!」


程なくして駅に着き俺らは降りる。

そして朝日奈のマンションに向かい歩き出す。


ああ、あそこいら辺で待ち伏せされたんだっけ……

今日はいないな、こいつのせいで辺な警戒心がついてしまった。


「なぁに? キョロキョロしちゃって。 可愛いねぇ、この辺そんな珍しい?」


「お前って記憶障害でもあるのか? 俺は辺な奴らいないか見渡してんだよ」


「あははは、わかってるって! 今度そうなったら私がおとなしく回されてあげるから安心してね」


「お前って危機感ないよなぁ? いきなり情緒不安定になったと思ったらケロッとしてたり」


「なんだろう? メンヘラなのかな私って」


「だったら死ぬほど面倒くさいな。ていうか今も面倒だけど」


今回は無事に朝日奈のマンションに着きこいつの部屋に入った。

あれ? この前より少しスッキリした感じがする。 模様替えでもしたのか?


「ん? どうしたの?」


「いや、この前入った時よりスッキリしたなと思ってさ」


「目敏いなぁ、新村君は。 少し断捨離しただけだよ」


「なあ、前から思ってたんだけどお前の親ってどこいるの?」


「死んじゃったんだ、だから叔父さんと叔母さんのお金でここに住んでるの」


「聞いちゃいけない事聞いたか?」


「ん〜ん、そんな事ないよ? どうせいつかはわかる事だしね……」


「まぁ朝日奈がそれでいいならいいけど」


「…………」


朝日奈の表情に影がさしたのを俺は気付いたが俺が踏み込めるような事かもわからないので気付かない振りをした。


「さぁて! 今日はせっかく新村君が来てくれたんだから私が手料理作ってあげるね!」


「へぇ、料理するんだ?」


「当たり前じゃん、こう見えて私結構女子力高いんだから! それに誰かに食べさせるのなんて初めてなんだよ? やったね新村君!」


「はいはい」


「リアクションつまんな……」


「何を期待してたんだよ?」


「新村君はリビングでくつろいでて良いよ、それと! 女の子の家なんだから物色しないように」


「誰がするかよ」


「ちなみに下着はそこのクローゼットの下にあるからね」


朝日奈の安い挑発に乗るのはやめてソファで寝かせてもらおう。


ソファに寝転がるとテーブルの下に写真立てがあった。

手に取ると両親と思しき人と小さい頃の朝日奈? らしき人物が写っていた。


あいつもこんな時があったのか。写真の幼い朝日奈は今と違う本当に心の底から笑っているような笑顔だった。


両親が死んで朝日奈に心境の変化でもあったのだろう。 なんて事ないような顔をしているけどあいつにも何かしらあるんだ。


平井はあいつはあいつで可哀想とか言ってたよな。 まぁそんな事どうでもいい、俺は所詮他人だ。 あいつの事だ、不用意に探ったら火を見るのは明らかだ。

写真立てを元の位置に戻し俺は眠った。



どれくらい眠ったんだろう?

顔に何か当たっている感触で目が覚めた。 ソファに寝ている俺の胸元に朝日奈が顔を置いて寝ている、こいつの寝息が顔に当たってたのか……


寝ている時は大人しいんだな、当たり前だが。 俺が少し動くと朝日奈は目を覚ました。


「う……ん、お父さん、お母さん。 って新村君?」


「何してんの?」


「あれ? 私も一緒に寝ちゃってたんだ?

新村君の寝顔がとても可愛いなぁって見惚れてたら、あはは」


ていうかお前顔真っ赤だぞ? 大丈夫か?


朝日奈が時計を見た。

俺もついでに見ると40分くらい寝てたのか…… てかなんか焦げ臭い。


「おい! 料理!」


そう言うと朝日奈がゾッとした顔になりキッチンへ向かう。


「あははは、鶏肉中火で焼いてたんだけど真っ黒焦げ……」


こいつアホだ………

これが女子力高いのか?


結局今から作り直すのもアレだからカップ麺になった。


「ど、ドキドキしたね!」


「お前といる時って嫌な意味でドキドキしかないわ」


「新村君が可愛い寝顔で寝てるのがいけないんだよ! そんなに私を誘惑したいの?新村君は」


「勝手に責任転嫁するなよ、下手すりゃ火事になってもおかしくなかったんだからな。 お前と心中するとこだった」


「だからごめんって! お詫びに食べさせてるでしょ」


「ああ、そうだな。 ランクダウンが否めないけどな」


「あ、そうだ! 新村君明日からお弁当持ってこなくていいよ、かわりに私が作ってあげる! 今日のお詫びを込めて」


「いや、いいよ」


「遠慮しない! 仮でも付き合ってるんだからそれっぽい事しないとねぇ」


「はい! 決まり、明日から2食分作るからね! もちろん食べる時も一緒。 これならどうだ! 付き合ってる感バリバリだね」


強引に朝日奈にそう決められ俺は明日から朝日奈と弁当を食べることになってしまった。朝日奈は何が恥ずかしいのか終始顔を真っ赤にさせていた。



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