第14話


朝日奈が急に話しかけてきたものもビックリしたが俺の財布まで持ってくるとは思わなかった。


朝日奈に何度どうやって返してもらったのか聞いても「意外と優しい先輩だった」とか「もともと新村君を脅かすだけで後で返すつもりだったんじゃない?」とかそんな回答しか返ってこなかった。


そんな訳ないよな…… なんとなく俺には言えないような事をらして返してもらったんだろうと察しがつくが。



「ちょっとぉ! 新村君聞いてる!?」


「ん、ああ。なんだっけ?」


帰りの最中以前の陽気さで話してくる朝日奈は俺からしたら心の底から笑ってはいないように見えた。


「だからぁ! なんで私とLINE交換したのに新村君は一通もなしなわけ? これじゃあ私痛いストーカー女みたいじゃん! 見てよ、これ」


朝日奈がラインを開いて俺に見せてくる。

まぁこいつが鬱陶しくて返事を返してなかっただけだが。


「新村君のスマホかして!」


強引に俺のポケットに手を入れスマホをひったくる。


「おい、何すんだよ!?」


「盗む訳じゃないから安心してね!」


俺のスマホを操作して朝日奈も自分のスマホを操作している。


「じゃじゃーん!」


俺は朝日奈から差し出された画面をよく見ると……


『柚、大好きだ。 学校では恥ずかしいから冷たい態度とってるけど本当は柚を愛してる』


『新村君、私知ってたよ。 いつも新村君が私を欲情した目で見ているの……』


『柚が欲しくて堪らないんだ』


『だったら今夜は私が新村君を愛してあげる』


とか書いてやがった……


「なぁ朝日奈、それ自分でやってて虚しくならないか?」


「新村君のせいでしょ! あ、それとも本当にそんなことしたかった?」


これだ、こいつの何も生産性のない会話がまた始まった。


ふと朝日奈の制服に目が止まった。

なんだかシミのような物が付いている。

こんなの付けてくるような奴だったか?


「朝日奈、制服汚れてるぞ?」


「え? あ、本当だ…… まったく〜、どこで付いたのかなぁ?」


「さっきまで付いてなかったよな?」


俺もよく覚えてないがカマをかけてみた。


「え? 見てた?」


やっぱり心なしか焦っているような気がする。 俺だって男だ、だからなんとなく思う。 そのシミって……


「まさか朝日奈、あの先輩と……」


「大丈夫だよ? もう私たちに何かしてくるようなことないと思うし!」


「朝日奈!」


「だって…… 私だって悪いと思ってるんだよ? だから何かお詫びしたくて」


「お前…… そんなことして取り返してバカじゃねぇの」


「バカでいいもん! 新村君だって財布戻ってきたんだからそれでいいじゃん」


「別にそこまでして取り返して欲しくない」


そう言うと朝日奈は機嫌を損ねたのかプイッとして俺より先に歩いて行ってしまった。


信じらんねぇな、あいつ本当にめちゃくちゃだ。


しかし電車に乗る頃にはもう機嫌が直ったようなので相変わらずウザい絡み方をしてきた。


そして電車が駅で止まり他校の生徒が入ってくると時間をずらしたはずがまたあの隼人とやらに会ってしまった。


「よう、柚。 お前あれから見掛けないから違う時間帯で帰ってると思ったらやっぱりか。 それにまたそいつか」


「しつこいよ、隼人!」


「そんな奴のどこがいいんだ? 顔はいいと思うけど軟弱そうな奴じゃねぇか」


「…… 隼人にはわかんないよ、それに! 私たち今付き合ってるから」


はぁ?! 今度は何言い出すんだ?

またマズい方向に行きそうだ……


「あ、いや……」


「隼人なんかより新村君の方がずっと素敵なんだから! ねぇ、新村君」


俺の言葉を遮りなんとしても俺を彼氏として通すつもりだ……

そして俺がまた口を開こうとすると


「んッ!?」


朝日奈は俺にキスをして口を塞いだ。


「どう?みんなの前でしちゃったね」


あ、みんな注目してら…… この場から消え去りたい。


「私たちイチャイチャしてるんだから隼人はあっち行って! 邪魔よ」


そして尚も朝日奈は俺に抱きつきキスをしてきた。


「そうかよ、お前も付き合う奴の質が大分落ちたな。勝手にやってろ」


隼人はそう言い俺たちとは別の車両に消えていった。


「いつまでくっついてんだよ! 離れろ」


「あーん、もうちょっと抱いてたかったのに〜」


「いつ俺とお前が付き合ったんだよ!?」


「へ? 今だよ?」


「俺の意思は?」


「え? 私と付き合えて嬉しくない?」


「うん、まったく」


「私の体に興味は?」


「なんでそんなに自信があるんだ?」


「むぅー! 私ここまでコケにされた事ないよ……」



「難しく考えなくていいんだよ? 付き合ってる振りしてれば変なイチャモンつけられないじゃん!」


「お前の周り相当厄介だから俺の身にもなれよ」


「大丈夫!もし何かあっても私が慰めてあげるよ」


もしじゃなくて何かあるんだろ? と俺は心の中で盛大にため息を吐いた。


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