第16話
これはふざけているのか? 新手の嫌がらせか? 朝日奈は弁当を作ってくるからと言って昨日俺に弁当を持ってくるなと言っていた。
だがその朝日奈が今日学校に来ていない。 先生も連絡がなくどうしたんだと気にしていた。
これだからあいつの言う事は信用できない。 俺もバカ正直に弁当を持ってきていないのだから不覚と言えば不覚だ。
ところが4時間目になる直前朝日奈が登校してきた。
してきたのだが…… とても元気がない。
「柚〜、どうかしたの?あんた顔死んでるよ?」
「え? そうかな。 今日は天気いいから白飛びしてるのかな?」
「は? あんたって相変わらず適当よねぇ」
坂木は様子がおかしい朝日奈を怪訝な顔で見ている。 いつも様子はおかしいけどな。
「あ、新村君おはよう」
「来ないかと思ったけどな」
朝日奈は俺の言葉は聞こえなかったのか机に突っ伏した。
授業が始まってもどこか上の空でボーッとしている。
こいつもしかして熱あるんじゃないのか? 昨日も顔が赤かったし。
見れば見るほど具合が悪そうだ。
もしかして今日わざわざ来たのはお詫びのためか?
昼になり朝日奈は俺の席と前の涼の席を合わせ俺と向かい合わせた。
涼は朝日奈に追いやられて仕方なく別の場所に移動した。
いつの間にそこまで仲良くなったのかと周りがざわつくが前から朝日奈がメロメロだったよねぇとかなってみんな視線を戻した。
「はい! お弁当」
「あ、ああ」
「へぇ、柚が新村君のために作ってきたんだ? 柚って意外と料理できるもんね」
「ここまで新村君にお熱なんて本当に今までと違うよね……」
「うるさい! 夏美と花梨はどっか行け! 新村君、早く開けて! そして食べて」
弁当の内容は結構本格的で冷食など入ってないっぽい…… 結構作るの大変だったろうな。
とりあえず隅の肉じゃがを食べてみた。
あ、美味しいな。
「まぁ普通に食える」
「やったぁ!」
「ねぇ柚、あんたそれでいいの?こんだけ手の込んだの作ってきて普通に食えるなんて感想で」
「新村君がそう言う時は美味しいって思ってくれてるからいいの! ね?」
なんでわかるんだ? と思ったが癪なので無視して弁当を食べる事にした。
「あらあら、シカト。 柚、これじゃあ作り甲斐ないねぇ残念!」
「あれ? 柚は食べないの?」
平井が不思議そうにそう尋ねた、だからもういいかと思い俺も口を開いた。
「朝日奈さ、熱あるだろ?」
「あ、バレてた?」
「昨日家に帰えった辺りから調子悪かっただろ? 変に顔赤かったしな」
「え? 新村君昨日柚の家に行ったの? 柚自分の家に男入れんの初めてじゃん」
「てかなんで新村君は知ってたのに柚に無理させてんの?」
花梨が俺を怪訝な顔で見る。
「いいんだよ、花梨。 新村君に私が今までの事お詫びしようとして全部失敗してたからさ、私昨日約束したんだ。 こうするって」
「でも熱出ちゃってそれでも来たから新村君はちゃんと私にお詫びさせてあげようって思って今まで黙っててくれたんだよ。 そうしなきゃまた新村君との約束破っちゃってまた私が空回りしちゃうからね。 でしょ?新村君」
なんか今日の朝日奈素直だな。 こりゃ本当に熱あるな。
「もうお詫びしてもらったから帰っていいぞ? ここまでするなんて本当にお前ってバカだな」
「うん、ありがとう」
そうして朝日奈は夏美が付き添うと言う事で帰っていった。 はたから見たら何しに来たんだと思うが朝日奈なりに頑張ったんだろう。
本当にバカだな朝日奈って。
でも少し俺の中で朝日奈という存在が変わり始めた気がする。
今までは全部迷惑と思っていたがここまでする義理堅い所はあったんだ。
あいつは少し気張りすぎて空回りしてたんだ。
俺に悪いって思ってるのも本当で、だけど朝日奈はいつもふざけた態度で誤魔化すからなかなか伝わりにくい。面倒な奴に変わりはないけど。
前に根は悪い子じゃないって言ってたのはそういう事なんだ。
「ねぇ新村君、柚風邪引いてるんだったらお見舞い行ってあげてね! 柚1人だから夏美が帰った後は心細いと思うの」
「じゃあ平井が行けば?」
「わかってないなぁ、柚ってああ見えて本当に信頼している人しか家に入れないんだよ? それに男の人入れるなんて新村君が初めてって言ったでしょ?」
「案外男として見られてないのかもな」
「ううん、新村君って今まで柚と遊んでた人とまったく違うタイプで不思議だったんだけど柚の好きなタイプって新村君って思うと柚のらしくない行動にも納得できるの。 だからね、柚の事はよろしくね!」
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