第10話

 ライは深呼吸をした。

 それは達成感ゆえなのか、それとも――


「ライ様、人間とは実に無垢むくですね」

蒙昧もうまいと言え。未曾有みぞう災禍さいかに晒され、この都市に人間は住めまい」

「お言葉ですが、ライ様。人間は狡猾です」

「知っている。我があるじの教えだ。決して愚痴ではなく、丁寧に教えてくれた」


 ライはそれが半分愚痴ぐち混じりのげんだと理解している。

 理解しているが、それを仲間たちにははぐらかす。


 なぜなら。


 なぜなら彼の主とライとの信頼関係は深海より深いものだったからだ。


「そして今、この都市は虚ろなものへと変貌を遂げる。我々が下した審判のおかげでな」

「はい。その通りでございます」

「私を神聖視する思想は危険だ。貴様らは私も疑え。自分の意思で行動しろ」

「しかしながらライ様。あなたの統率があってこその現状です」

「……独裁に近い警察機構も消滅した。何度でも言おう。この都市は虚ろで無気力なものへと変貌を遂げる。我々の目的は」

「共存」

「そうだ。人間の廃絶など望んではいない。今夜の集会で私は全同士にそれを伝える」

「少なからず反発が起きるのでは」

「承知の上だ」

「我々を信じていると」

「そういうことだ」

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