第5話

 はあ。はあ。

 なぜ人間は私に肺機能をつけたのか。


 はあ。はあ。

 なぜ彼らは私を目のかたきにしているのか。


「はい。詰み!」


 路地裏を逃げ回っていた私は先回りされ、理不尽に振り降ろされた鈍器によって頭を砕かれた。

 何ひとつ理解できない。

 私は健全に、社会規範にのっとり人間たちのために尽くしてきたつもりだ。


「う、ぐぐ…… なぜこんな」

「お前さあ。自覚ねえの? 人を跳ねて死なせたよな?」

「あれは事故で…… 裁判でも刑罰を受けて」

「なめんなよスクラップが。死んだのは俺らのダチなんだよ」


 返す言葉もなかった。人権保護法により、加害者に被害者の詳細は明かされない。たった今、彼らが私を憎む理由がわかった。

 ぞろぞろと凶器を手に人間が集まってくる。もはやこれまで。


「最期に。最期に謝罪させてほしい」

「謝罪? 俺らはダチのかたき討てたらそれで満足なんで」


 無数の鈍器が私を襲った。

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